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第九十一話 顔合わせ

 翌朝。


 カーテンの隙間から漏れる光によって目が覚めた。


 あくびをしながら眠い目を擦っていると、ドアをノックする音が聞こえる。


「文人? 朝ご飯、一緒に行かない?」


 その声は、兄ちゃんの声だった。


『いや、いい』

「朝ご飯、食べないタイプ?」

『そんなところ』


 そんなタイプではあるが、出されれば食べる。ただ、正直食べたくないというのが本音だ。


「そっか。じゃあ、また呼びに来るから、その時までに準備しといてね」

『うん』


 足音が遠ざかっていくのを聞き、俺はふっと息を吐く。


 ベッドから立ち上がって伸びをし、壁際に置いておいた鞄を開ける。


 俺は、そのかばんの中から辺境剣士団の制服を引っ張り出し、風呂場に向かう。


 上半身の服を脱ぎ、右腕の包帯を慣れた手つきで取っていく。やっとあの痣を見るのも慣れてきた頃だった。あれ以来、発作のようなものは起きていない。


 それから簡単にシャワーを浴びて、持ってきておいた服に着替える。


 いよいよ始まるんだなぁ……と俺は改めて実感した。


 新品の服は綺麗で、しわ一つない。当然といえば当然だが、なぜか感慨深かった。



 準備を終えて数十分が経つと、再度足音が聞こえてくる。


 予想通りにノックの音と共に、兄ちゃんの声が聞こえてくる。


「準備できてるか?」

『う、うん』


 部屋から出ると、兄ちゃんがすぐそこに待っていた。


「さっき他の人たちも来て、今奥のところで待ってる」

『奥のところ?』

「辺境の監視とか、そういう情報を集める場所。まあ、オフィスみたいなもん」

『なるほど……?』


 イメージはできるが、上手く言葉に言い表せない。行ってみればわかるものと言えば、そうなのだが。


 そして俺は兄ちゃんの後について、その場所に向かった。


 その場所は言われた通り建物の奥の方にあり、部屋の中は辺境のどこかの映像やよくわからない数値などが映し出されたモニターを始めとした、コンピューターで埋め尽くされていた。


 そんな部屋の中には七人の同じ剣士団の制服を着た人物がいた。その中には、いつか俺をここに誘った坂野さんもいた。


「これで全員揃ったな」


 その中心にいた男はそう呟くと、全員のことを見回した。


 俺はとりあえず空いていた場所にさり気なく身を置いた。


「それでは、朝礼を始める。今日は、入団式も兼ねた朝礼だ」


 さっきの男がそう話し始める。


「まず、私はこの辺境剣士団のリーダーをしている北村きたむらかおるだ。二級貴族で、王国高等剣士学院の上級を卒業し、そのまま王国剣士団に入った。数年前に辺境が強化されることになって、リーダーとして配属された。そんな経歴だ。新人くんたちも慣れないと思うが、どうかよろしく頼む」


 リーダーは自己紹介をする。経歴は、俺にとっては普通だろうけど、社会全体で見れば相当なエリートなのだろう。リーダーにふさわしい人物だと判断されて派遣されただろうし、信頼できる人なのだろう。俺は勝手にそう思った。


「じゃあ、新人くんたちから自己紹介。そっちから」


 リーダーがそう言って振ったのは俺と反対の方向だった。俺の隣が兄ちゃんだから、俺が新人最後になりそうだ。


 最初に指名されたのは、見るからに好青年と見受けられる男だった。


「あ、え、えっと……川平かわひら蒼将あおまさです。二級貴族で、ついこの前北方高等剣士学院を次席で卒業しました。あまり自慢はできないですが……実力が足りない部分もあると思いますが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」


 川平はそう言って頭を下げた。


「よろしく。じゃあ次」


 リーダーはあっさりとその隣の奴に振る。


「はい。島田しまだ悠騎ゆうきと申します。同じく二級貴族で、北方高等剣士学院を首席で卒業しました。王国高等剣士学院には負けますが、それなりの実力はあると思っています。わからないこともかなりあって、足を引っ張ってしまうこともあるかもしれないですが、よろしくお願いします」


 川平より上だということを言わずとも表現しているように思えた。実際の実力は置いておくとして、相当な自信家な気もする。少なくとも、俺はあまり好きじゃないタイプだ。


「よろしく。じゃあ、新人ラスト」


 そう言ったリーダーと目が合う。少し圧を感じるが、まあいい。


『水風文人です。一級貴族水風家の一応次男で、王国高等剣士学院を首席で卒業しました。よろしくお願いします』


 俺は手短にそう自己紹介をした。これ以上発言すると憎まれそうな気がした。同期の中では浮いてしまっていると思う。でも、その差を感じさせることが狙いでリーダーは経歴を言わせたのだろう。


 おそらく、他の五人はほとんどが王国高等剣士学院出身だろう。そうじゃなくても、相当な実力があるから、辺境を任されたのだろう。それに比べて、実際の実力は知らないが、他に劣る学歴と自信、そして盛大な予防線を張る二人だ。少し心配しているのだろう。実際にどう思っているかは知らないが。


「それじゃあ、こっちのメンバーも行こうか。じゃあ、下から」


 そう言ってリーダーが目を合わせたのは兄ちゃんだった。


「えー、水風波瑠人です。文人の兄で、一級貴族水風家の長男。そして、弟と同じく首席卒業です。年が一番近いので、比較的話しかけやすいんじゃないかなと思います。わからないこととかは聞いてください。よろしくお願いします」


 もう既に学校名が省かれている。やっぱりそれが普通なのか……


「続きまして、小泉こいずみ凱矢ときやと申します。二級貴族で、王国高等剣士学院の上級を卒業しました。波瑠人より階級が低いので、波瑠人が話しかけにくい人は遠慮なく俺に話しかけてください。よろしくお願いします」


 小泉さんは主に他の二人に向けて自己紹介をした。というか、俺なんて眼中にないようだった。心配しなくていいと評価してくれているのか、嫌われているのか……前者だと信じたい。後者なら後者で意味がわからないが。


「はい。えーっと、友井ともい有星ありせと申します。一応二級貴族ですが、大した学歴も無い裏方です。主に怪我の治療を担当しています。それ以外では、分析官も兼ねています。怪我とかした時は、私か桃一ももかずくんに言ってください。よろしくお願いします」


 唯一の女性である友井さんは、優しく笑顔を浮かべながら自己紹介をした。完全に裏方要員なのだろうけど、治療という点ではかなりの実力なのだろう。


「あ、あと、友井さんって呼ばれるのは好きじゃないので、有星の方で呼んでください」


 有星さんはそう付け加えた。そこにも何か理由がありそうだった。隠したいことだろうから聞かないが。


「……えー、坂野さかの桃一ももかずです。一級貴族坂野家の長男ですが、他に比べて剣士としての実力は劣っています。その代わりと言ってはなんですが、有星さんと同じく怪我の治療ができます。主にここから離れた場所で怪我した時に担当しているので、有星さんがいる時は有星さんにお願いします。まあそんなこんなで、よろしくお願いします」


 あの時と少し印象が違う。あれが本当の坂野さんなのかもしれないが、さすがにここであれはできないか……


「最後、副リーダーを一応、名前だけですがやっています。古賀こがさとるです。二級貴族で王国高等剣士学院上級卒で、前は本部で第一部隊にいました。まあ……足だけは引っ張らないようにしてもらえれば、何も言うことは無いです。……よろしく」


 古賀さんは腕を組んだ状態でそう自己紹介した。


 最後に古賀さんが言ったことは、他の二人にどう響いたのだろうか。俺は正直、心配はしていない。俺は十分やっていけると思うし、やっていかなきゃいけない。一級貴族としても、首席卒業者としても。


「……はい。今年はこの九人でやっていくので、新人は早く慣れて、先輩は慣れられるようにサポートしていくように。……と言いたいところだが、そうは行かないのが現実だ。私たちには時間が無い。だから古賀くんの言う通り、本当に足だけは引っ張らないでほしい。……頼んだ」


 リーダーはとても真剣だった。それもそうか。すぐに戦争になる可能性だってあるんだから。


「じゃあ、これで朝礼を終わる。凱矢くんは二人を、波瑠人くんは弟を案内して」

「竜小屋もですか」

「ああ。頼む」

「わかりました」


「古賀くんと桃一くんはあと頼んだ」

「はい」「わかりました」


「有星さんは夜勤お疲れ」

「リーダーもお疲れ様です」

「ありがとう」


 リーダーはそれぞれにそう指示をし、部屋を出て行った。


 どうやら、リーダーは夜勤明けだったようだ。


「行こうか、文人」

『あ、うん』

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