第八十六話 夜の街
家を飛び出し、どこへ行くのかというと、それはさっき連絡した人物のところだ。
連絡を入れると、すぐに返信をくれた。だから、真っ直ぐそこに向かうことができた。
やってきたのは、とある下町。貴族が住むエリアとは町並みも少し違うが、俺の元々いた世界と比べると、こっちの方が近い。
下町と言っても、ただの住宅街だ。
俺は目的の家に着くと、インターホンを鳴らす。
すると、すぐに家の扉が開き、中から人が出てくる。
その出てきた人物は、飛翔だった。
俺が連絡を入れたのは飛翔だ。そして、ここは飛翔の家だ。場所は前から知っていたが、実際に来るのは初めてだった。
「文人、久しぶりって感じだな」
『そうだな。急に連絡してごめん』
「急にどうしたかと思ったけど、暇だったから大丈夫」
『それならよかった』
飛翔はそういう部分がある。フットワークが軽い……といったところか。
それから俺は、飛翔に促されるままに飛翔の家に上がり、飛翔の部屋に入れてもらった。
幸い、今家族はいないようで、大事にはならずに済みそうだ。
「それで、どうしたの?」
『えっと……何とは言わないんだけど、王都の中で、家出するとすれば、どこに行く?』
俺は、王都に、この世界に詳しい飛翔に、瑠花の行きそうな場所を聞いた。いきなりすぎたかもしれないが。
階級に関わらず、貴族はあまり街に遊びに出たりできない。全くできないわけじゃないが、街を探索するような余裕はない。
神社の子である風音も、貴族ほどではないだろうけど、行動に制限がある。
消去法で、飛翔に聞くのが一番いいと思った。
「えっ? 家出すんの?」
『いや、しないけどさぁ……』
「それはする奴の言うことだな」
『だから、しないって』
――さすがに隠し通すのは難しいか……
「まあ、文人はしないと思うけど」
『えっ、ああ……』
すごく怪しい反応をしてしまったが、飛翔は全く疑って来ない。
「何かは聞かないけど、ちゃんと理由があるんだよな。文人のことだから……」
『ああ。もちろんだ』
いい仲間を持ったものだ。
「一応、そういう場所はあるよ。居場所がない奴らが集まるところ」
『それはどこだ?』
やはり飛翔は知っていた。さすがだ。
「危ないから、行かない方がいいと思うけど……」
飛翔はそう言った後、その場所を教えてくれた。
詳しく聞いてみると、いわゆる歌舞伎町のような場所があるらしく、そこに集まる人たちがいるらしい。
飛翔も噂程度にしか聞いたことはないから、どれぐらい危ないのかはわからない。でも、行かない方がいい。特に一級貴族なんだし。と飛翔は念押ししてきた。
心配してくれる飛翔には申し訳ないが、俺は今からそこに行かないといけない。
『わかった。ありがとう』
俺は飛翔にそう言い、飛翔の家を後にした。
飛翔は最後に「お互い頑張ろうな!」と言った。俺はそれに片手を上げて応えた。
◇◇◇
数十分後、俺はその例の場所にやってきた。確かによく見る歌舞伎町の景色といったところだ。
何というか、大きく見れば俺と同類だが、少し違うような奴らが集まって来ている。そんな場所だ。
俺はそこに瑠花がいないか、気付かれない程度に辺りを見回す。
だが、そこに瑠花はいない。ここには来ていないということか……? それならただの無駄足となるが……いや、ここだけ探しただけでは、まだわからない。もう少し探してみるとするか。
「ねえ君」
誰かがそう言い、俺の右肩をポンと叩いた。
驚いて瞬間的に振り返ると、そこにいたのは若い男二人だった。ここの常連――といったところか。
「ここは初めて?」
男のうち一人がそう聞いた。俺は知らない人に急に話しかけられ、動揺し、何も答えられなかった。
「何で来たのかは聞かない。とにかく、案内するよ」
『えっ……あ……』
どうするべきか。
確かにこの街のことはわからない。でも、こいつらを簡単には信じられない。瑠花を探す方法は他にもある。ここは断っておくか……
『……すみません……!』
俺は一秒足らずで思考し、断って逃げた。
さすがに追いかけて来るようなことはなく、俺は路地裏に逃げ込んで一息ついた。
『ふぅ……』
やっぱり、平民に顔は知られていないみたいだった。学院が貴族ばっかだから、あれが異常なんだ……と改めて実感する――いや、それどころじゃない。
瑠花は平民に混じることは嫌うだろう。だから、こういう路地裏にでも隠れていたりするかもしれない。俺はそう思い、街を歩き回ってみることにした。
少し歩いてみて、この町の雰囲気がわかった。空が暗くなって夜になったのもあり、賑わってきていた。客引きもいれば、家出してきたみたいな人もいる。ちょっとチャラい感じの人が多い。くれぐれも絡まれないようにしなければならない。
町を歩いていると、たまにチラチラとみられることがある。おそらくそういう奴らは貴族だ。俺のことを知っている。変な噂が広まらないといいが。広まったら言い訳ができない。瑠花の家出を言うわけにもいかないし……今はそんなこと考えている場合じゃないか。
そんなことを考えながら歩いていると、微かに魔法が近くで発動したような何かを感じた。
その感じた方向に歩いて行ってみると、そこはさっきの道とは真逆で、全くと言っていいほど人気がない。
そして、そこの道のさらに奥まった場所を塞ぐように三人の男が立っていた。向こう側を向いているので顔はわからない。でも、他に人はいないので、魔法は確実にあそこからだ。
俺は気付かれないように遠くからその三人の奥に何があるのかを覗き込む。
その奥にいた人物を見て、俺はすぐに引き返して走り出した。




