表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/117

第七十五話 卒業記念試合

「……ーい、おーい」


 突如そんな声が聞こえ、俺は目を覚ました。


 目を開くと、目の前にいたのは竜喜だった。


「ったく……こんなところで何してんだよ」

『何って、寝てた』

「見ればわかる」


 じゃあ何で聞いてくるんだよ。


「いくらなんでも、無防備すぎじゃないのか? ここは家じゃないんだぞ?」


 確かにそうだ。周りに誰もいないから、別にいいかなと思っていたが。


「結果論として、何も無さそうだからよかったけど」


 というか、何で竜喜が俺の心配を……?


「とりあえず、そろそろ準備しに行こう。早めに行ったほうが混雑を避けられる」

『……そうだな。そろそろ行こう』


 今何時なのかは知らないが。


 そして俺たちは第二体育館に向かった。


 第一の方は、俺が龍杜を吹っ飛ばした時に壊れたままだからしばらく使えないらしい。今のところ請求は来ていないし、石碑がどうのこうのという話もよく知らない。正直、後者はどうでもいい。


 そんなことを考えているうちに、俺たちは第二体育館に到着した。まだ昼休みにもなっていない時間なだけあって、そこに生徒は誰もいなかった。


「いよいよ……だな。どうだ? 意気込みは」


 第二体育館で待っていた井花先生が、俺たちに気づいてそう聞いてきた。


「俺は負けないよ、文人には」

『……それは俺も同じだ』


 俺たちの間には、一気にピリピリとした空気が流れる。


 それから俺たちは別々の控え室に入った。そこでは一人になれた。


 俺はぼーっとしたまま、数十分間を過ごした。


 何を考えるわけでもなく、特段集中力を高めているわけでもない。ただ無駄な時間と言ってもいい。だが、やることがない以上、何もすることはできない。そんなことを言うと、やることなんてあるだろと言われてしまうので、こうやって何かしているふりをしている。


 数十分後、外が騒がしくなってきたのに気付き、現実世界に戻る。


『そろそろ……か』


 俺はそう呟き、控え室を出てフィールドの方に向かった。


 すると、廊下の向こうから竜喜が歩いて来ていた。竜喜も同じことを思っていたようだった。


「いよいよだな、文人」

『……ああ』


 とりあえずそう返しておくが、それに続ける言葉がわからなかった。


 それから数分、無言の時間が過ぎた後、先生に呼ばれてバックヤードからフィールドに足を踏み入れた。


 観客席には、溢れそうなほどの人がいて、こんな光景は見たことがない。


『これが……頂点の特権……』


 卒業記念試合だからこそ見れる景色。こんな中で試合をするとなると、逆に気が散りそうな気もするが……ゾーンに入ってしまえば問題は無いか。


 それから、俺たちはフィールド上で剣を鞘から抜き、向かい合った。


「卒業記念試合及び卒業試験トーナメント、決勝戦。久遠竜喜対水風文人。それでは、始め!」


 井花先生がそう言ったと同時に、俺たちは同時に地面を蹴った。


 それから一秒もしないうちに、剣と剣がぶつかり合う金属音が響いた。


「っ……」


 竜喜の力はかなり強く、簡単には押し返せそうになかった。でも、それはお互い様だ。


 俺たちはお互いに打開策はないと思い、一旦後ろに下がった。


 やはり、普通の攻撃じゃ上回ることはできない。


 互角だからお互いに状況は同じなのだが……どう出るか、竜喜の出方を窺ってみたいところだ。


 そう思って、剣を目の前に構えて竜喜を睨む。


 すると、竜喜は勢い良く床を蹴り、一直線にすごい速さで、一瞬にして差を詰めてきた。竜喜の剣は水色に輝いていて、竜喜の通った場所には氷のようなものが張っているように跡が残っていた。


 これは、久遠家の技『氷河』。

 エフェクトが豪華になっていることからも、完全習得したことがわかる。


 普通なら、ここは自分も家の技で対抗しようと考えてしまうところだが、水風家の『影斬り』は特殊な技なので対抗できない。防御には使えないし、普通に使ったら龍杜の時よりも酷いことになる。


「……武器強化」


 俺は言霊で武器の強度を上げ、なんとか受け止める体勢を整える。


 ここまで、わずか二秒の出来事だ。


 そして俺は剣を斜めに構え、竜喜の剣を受け止めた。


 武器は強化していたからよかったものの、その勢いのあまり、右手首が折れそうになった。


 俺は剣の強度を信じて、左手で右手首を押さえながら竜喜の攻撃に耐える。


 数十秒に渡る押し合いの末、どちらも譲らず、竜喜の剣の光が消えたことによって押し合いが終わりを告げた。


 竜喜は素早く後ろに下がり、俺が『影斬り』を仕掛ける暇もなかった。影は遅れて動くから、仕掛けてみれば当たったかもしれないが……


 ここは仕掛けなかった後悔よりも、受け止めきれたことを褒めるべきか。


 でも、このままじゃ、やっぱり何も変わらない。


『どうにかしないとな……』


 だからといって、何か策があるわけでもない。


 そうこうしているうちに、竜喜は体勢を立て直し、剣を構えていた。


 竜喜はそこから右足を引いて体勢を低くし、剣を後ろに引いた。


 すると、急に何か圧のような波動を感じた。


 発生した方向は、竜喜のいる方向だ。


『何だ……? これ……』


 見たことが無い技。ここからどう動くのかもわからないし、対策のしようもない。


「禁忌技……? 止めろ! 久遠!」


 そんな井花先生の声が微かに聞こえる気もするが、波動によって起こった建物が揺れる音によってかき消されてしまってよく聞こえない。


 でも、俺の聞き間違いじゃなければ、竜喜は禁忌技を使ってきていることになる。偶然にも程があるとは思うが、竜喜にしてみれば俺が知っていることが同じようなことか。


 それにしても、竜喜はよくそんな人を殺しかねない技を使おうと思ったな……


 俺じゃなきゃ死んでたよ、竜喜。


 俺は本で見たように、禁忌技の発動工程を踏んだ。


 そして――


「「……リチャージ!」」


 俺たちは剣を後ろに引いて構え、声を揃えてそう言う。


 言霊を使っているわけではないのに、ちゃんと声が出ている。不思議だ。


 それに、何か不思議な感覚に襲われる。その感覚は、なぜか俺に根拠のない自信を与えた。


 何なのかわからないが、どこかで力がある所を超え、俺たちはほぼ同時に地面を蹴った。


 一瞬にしてその差が詰まり、お互い一直線に突き抜けた。


 フィールドの逆端で立ち止まると、集中力が切れたようにどっと疲れが襲い掛かった。


 上がった息を整えようとしたその時、背後でドサッという音がした。


 振り返ると、竜喜が膝をついてしゃがみ込んでいた。倒れ込んでいた、という方が正しいのかもしれないが。


「そこまで! 勝者、水風文人!」


 先生がそう言い、卒業記念試合が終わった。


 俺は剣を鞘にしまい、竜喜に駆け寄った。


『大丈夫か? 竜喜』

「……あ、ああ……でも、どうして、あの技を……」

『家の倉庫にあった本を見た。とにかく大丈夫そうでよかった』

「文人も……なのか……?」

『え……?』


 どういうことだ。あの本は相当古くて、兄ちゃんの古本コレクションの一つだったはず。でも、何で竜喜もその本を……? いや、まだ同じ本と決まった訳じゃない。


 竜喜は無事を証明するためになんとか立ち上がり、そこに先生が駆け寄ってきた。


 よく見てみると、竜喜の服の右脇腹部分が破け、薄っすらと血が滲んでいた。


「大丈夫か? 二人とも」


 先生は竜喜を気にかけながらそう聞いて来た。


「はい。大丈夫です」

『俺は何ともないです。それより竜喜が……』


 俺は誤魔化す竜喜の言葉をを打ち消すようにそう言い、視線を竜喜の傷口に向けた。


「大丈夫ならいいんだが……二人とも、後で少し話を聞かせてもらうぞ?」


 先生は威圧感たっぷりにそう言った。


「とりあえず、何ともなくても大丈夫でも医務室行ってこい。二人揃って」

『俺も……ですか?』

「ああ。今大丈夫でも、一度診てもらえ」

『わかりました』


 そして俺たちは真っ直ぐ医務室に向かった。


 今大丈夫でも、あれだけの技を練習も無しに使えば、何かしらの代償に襲われてもおかしくはない。竜喜の事も心配だし、と理由を付けて医務室に向かった。


 おそらく、先生は俺たちが逃げないようにそう言ったのだろう。禁忌技なんて使ったら、そりゃ尋問されてもおかしくないし、殺される可能性だって……考えれば考えるほど心配になってくる。


 俺はそれ以上考えたくなく、無理矢理思考を止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ