第七十四話 一年 進級テスト
それから数日の間、俺は何故か一年生の進級テストを手伝わされていた。
急に井花先生から連絡が来たと思えば。
休みだと思ってたのに。
暇だったからいいんだけど。
その中でも、表立って手伝わされたのはグループ戦だった。
あの、去年俺たちが死にかけた迷宮のミッションだ。
今年の一年生に訳アリクラスは無いらしく、M3を始めとしたMから始まる迷宮が使われることもなかった。全てBから始まる迷宮。それがせめてもの救いだ。
あのマップには二度と入りたくないと、一年経った今でも思う。
俺はそんな嫌なことを思い出しながら、一年生が迷宮から出てくるのを待った。
モニターには既に一番にゴールしたグループを始めとした、多くのグループがゴールしたと表示されているが……
『遅っ……』
最下位じゃないか。あんだけ人数居る中の最下位って相当だぞ。
もしかして、中で怪我でもしてんのか……?
気になりはするが、俺はここから動くなと言われてしまっているので、見に行くこともできない。
『気長に待ってみるか……』
それ以外にできることはない。
その数分後、疲れ切った様子で無事に一年生が出てきた。もちろん、最下位ではあったが。
無事にクリアできただけでも良しとしよう。とうか、俺が関与する話でもない。
◇◇◇
数日後、一年生の進級結果が発表された。
今日は卒業記念試合ということもあり、上級二年も教室に集まってはいたが、ほとんど誰も興味がなさそうだった。
俺は妹の瑠花がいるから見るが。
初絃のグループが一位。瑠花のグループが二位。そして史織のグループが三位だった。
その三グループに加えてあともう一グループ、四位のグループまでが上級二年となった。
上級二年の特権として、個人順位も早めに見ることができる。兄ちゃんの行った通りだった。
個人順位は初絃が一位、瑠花が二位、史織が三位と、グループ順位通りとなっていた。その三人の得点はそう大差なく、ほぼ互角といったところだった。
俺は無事に瑠花が上級二年に進級できることが決まってホッとした。
もし下級二年だったら。一級貴族の中で差別されるだろうし、二級貴族からも甘く見られる。兄二人の成績が良かっただけに、瑠花に嫌な思いをさせたくはなかった。
ただ、この順位からして、そんな俺の心配は要らなかったようだった。
俺は端末の電源を落とし、座ったまま伸びをした。
「文人さん、どうでしたか?」
その様子を見てなのか、まろんがそう聞いて来た。
聞いて来たのは進級のこと。俺に聞くということは、特に瑠花のことを聞いているのだと思う。
『無事に上級二年になった』
「そうですか! よかったです」
『ああ』
まろんがそんなことを言ってくれるとは思っていなかった。正直、仲があまり良くないと思っていた。何でかはよくわからないが。
「今度は文人さんの番ですね」
『……そうだな』
卒業記念試合は瑠花も見に来る。いいところを見せたいという気持ちはある。でも、竜喜は強い。簡単に勝てるような相手ではない。
「妹さん、見に来られるんですか?」
『ああ。一応来るとは言ってたけど……去年と同じくらいの観客なら、ちょっと大変かも』
「そう……なんですか……今回は特に多そうですもんね」
『そうかもな……』
その試合で首席が決まるだなんて、話題性は十分だ。去年よりも興味を持つ人が多いことは確か。いや、元々誰もが興味を持つ試合なのだから、話題性なんてどうでもいいようなものか。
『じゃあ、俺、ちょっと一人になってくる』
俺はそう言って教室を出た。
まろんは集中力を高めるためだと思っていそうだが、ただのんびりしたいだけだ。ちょっと申し訳ないが。
俺は中庭に出ると、広場の芝の上に寝転んだ。
流れる風が気持ちいい。空は青く、雲一つない。試合には関係ないが、良い日だ。こんなのを感じたのはいつぶりだろうか。
目を瞑り、自分だけの世界に入る。
それでも、考えるのは今日の卒業記念試合のことだ。
竜喜は俺の手札を全ては知らない。
俺は竜喜が使う家の技を知っている。でも、竜喜に俺と同じような手札が無いとは限らない。
手札があっても無くても、竜喜はそう簡単に勝てる相手じゃない。竜喜には、不利な状況をひっくり返すだけの力がある。
言霊を使えば倒せてしまうのだろう。でも……あの能力は簡単に使っていいわけじゃない。龍杜との試合でわかった。少し呟くだけであれだけの威力。万が一ということも考えなきゃいけないくらいなら、使わなくていい。
これ以上考えても無駄だ。別のことを考えるとしよう。
一年の試験が終わってからこの数日の間、俺は辺境に向かうための荷物の準備をしていた。
部屋が広いだけに荷物は少なく感じられるが、実際持っていくとなると、意外と多かった。
一応、必要最小限に減らしてどうにかなったようなところだった。
そんな時、兄ちゃんから追加で持ってきて欲しいものがあると言われた。
今は帰って来られそうにない状況で、倉庫にしまってある中のとある本が必要なのだと言う。
父さんや母さん、瑠花には頼めないようなことらしく、ちょうど辺境に来る俺に頼んできたということだった。
俺は、そういうことなら多少荷物が増えてもいいと快諾した。
地下にある倉庫には、元々兄ちゃんの部屋にあった荷物や、先祖の遺品などが収納されていた。
そして兄ちゃんの荷物を漁っていると、その中から古びた本を見つけた。
『こんな本……持ってたんだ……』
本は沢山持っていたが、ここまで古いものもあるとは思わなかった。
俺は単なる興味心から、その本をパラパラとめくり始めた。その本の内容は、昔の魔法などが書かれていた歴史書だった。
何らかの理由で歴史的なものは無いものだと思っていたから、そういうものがあるとは思わなかった。
昔の魔法と言うだけあって、そこに書いてあるものは今では使われなくなった魔法だ。その使われなくなった理由のほとんどが、威力が強すぎるが故に規制されてしまったということだった。所謂、禁忌魔法。
そんな禁忌魔法は、使ってはいけないようなものだし、簡単に使えるようなものでもない。だから、何のプラスにもならなかった。
ただ無駄な時間を過ごしてしまったと、俺は後悔しながらその本をしまい、兄ちゃんに頼まれていた本を探した。
後悔したからなのか、その本の内容が俺の記憶にすごく残っていた。
見てみたい気持ちはある。でも、今はもう誰も使えない。
そういう点では、俺の能力と共通する点がある。
親近感……なのか?
もう、よくわからない。




