第七十三話 卒業試験10
十分ほど休憩を挟んだ後、いよいよ決勝が始まろうとしていたその時、竜喜がこんなことを言った。
「なあ、決勝、中止にしない?」
意味がわからない。
『それって、どういうこと?』
「さっき聞いたんだけど、これに勝った方が首席なんだって」
『うん。それで?』
「卒業記念試合も俺たちでやることになる」
『ほう』
「だから、決勝を卒業記念試合でやらない? ってね」
『なるほど』
確かに、二回やって結果が変わった時、面倒くさいことになるな……個人的に二回もやりたくない。
「どうだ?」
『……わかった。先生が許すなら俺はそれでいい』
「じゃあ、先生の説得しに行こう」
『え』
そして俺は竜喜に強制連行され、先生にそのことを伝えた。
先生は少し考えた後、それを了承してくれた。
だが、それと同時に俺たちは他の上級二年への説明をする羽目になった。
俺たちはフィールド上に出て、観客席の方を見た。
「大体、全員いるよな」
『ああ。一枝聖彩以外は』
おそらく聖彩は医務室だ。
「あのー、ちょっと聞いてもらえますー?」
竜喜は観客席にそう呼びかけた。
そして、全員の視線が竜喜に向いた。
「決勝のことなんですけど、一旦延期にしようと思うんですけど、いいっすかね?」
「どういうことだよ」
予想通りの反応だ。
「決勝でどちらが勝っても、卒業記念試合と同じカードになる。どうせなら、後輩にも首席を決める試合を見てほしい。そう思った」
自分が強いことを自慢しているようにも思えるその言葉。でも実際、強いから何も言えない。ちょっとウザイかも。例の弱い者とは必要以上に関わらないという竜喜の考えに乗っ取れば、それが竜喜の狙いだとは思うが。
「絶対、見てて面白い、すごい試合をする。だから……」
それは言い過ぎじゃないか……!? 竜喜。聞いてないぞ……!?
「いいんじゃない?」
「勝手にすれば?」
「すごいってとこ、後輩にみせてやれ! 下級にも」
そんな声が観客席から飛んできた。全員ではない。でも、俺と竜喜のグループメンバーが同意してくれるなら、半数程度の指示は得られる。
「先生、これでいいですよね」
「……そうだな。じゃあ、これで、卒業試験は終わりだ。もう帰っていいぞ、お疲れ」
井花先生はそう言って、体育館を出て行った。
こうして、ちゃんとした締まりもなく、卒業試験が終わった。
◇◇◇
翌日、上級二年の卒業順位が、暫定的ではあるが発表されるらしく、俺は学校にやってきた。
もう上級二年は試験も終わったので、自由登校となっていた。だから今日は、好きな時間に来て、この順位を見ていくという形になっていた。
朝の方が人が多いと思い、俺は昼過ぎに行った。すると、見事に誰もいなかった。しかも、結果を確認したら印をつけろという出席表は、俺以外既に全員が来ていると伝えていた。
『そんな気になるか……? これ』
そんなことを呟きながら、俺は順位を確認した。
【卒業順位 上級二年】
同率首席 久遠竜喜・水風文人(暫定)
三位 宮瀬龍杜
四位 一枝聖彩
五位 時山亜里
六位 神代風音
七位 藤田希來
八位 柴崎飛翔
九位 上田永亜
十位 日和まろん
十一位 倉本継
十二位 藤井柊璃
十三位 岡本裕太
十四位 小林龍生
十五位 津田亜羅斗
十六位 下浦玲誠
十七位 吉坂陽
十八位 海津衛仁
十九位 河越夏渚飛
二十位 竹国空樹
得点などは確定してから発表されるらしいが、暫定的でも今日順位を出さないといけなかったらしい。
グループ戦が無かったのもあって、去年とは順位の変動がある。やっぱり、強いグループメンバーに引っ張られて上級二年に上がってきたような人もいたようだった。
逆を言えば、去年よりも飛躍した人がいるということだ。手抜きだったかもしれないが聖彩だってそうだし、風音や飛翔もそうだ。
これを見ると、まだ俺は終わっていないということをさらに実感する。
もちろん負けるつもりはないし、『頂点に立つ』というのを味わってみたい。
俺は少し気合いが入った。
気を改め、卒業記念試合をいいものにすると誓う。見世物という意味ではなく、『俺にとって意味のあるものにする』という意味だ。
そして俺は誰にも会わず、学校を後にした。
◇◇◇
夜になったが、俺は眠れずにいた。
考えることは、やはり卒業記念試合のことだ。
首席まであと一歩まで来た。
兄ちゃんが立った、首席の席。
だから俺も取れという人は誰もいない。
でも、誰かはそう思っているかもしれない。
水風波瑠人の弟だから、と言われるかもしれない。
今まで、前までの――前世の自分は忘れようとしていた。捨てようとしていた。
でも……
やっぱり捨てることはできなかった。
俺は弱い。
誰かにどう思われているのか、どうしても気にしてしまう。
またいじめられるんじゃないか。周りが剣士である以上、命を狙われるんじゃないか。
そんな心配ばかりだ。
アイツと付き合ってから、いや、その前からずっとそうだった。
人見知りで、何か思っても、間違っているとわかっていても、何も言えない。それで、一歩踏み出してみた挙句、死んだ。散々な人生だ。
だからこそ、この世界では、強くて、優しくて、誰かに頼られるような、そんな人間に……
『なりたかった……な……』




