第七十二話 卒業試験9
俺と龍杜は控え室に戻り、そこで第二試合を見ることにした。
二人の間には、さすがに竜喜が勝つだろうという空気が流れていた。
竜喜と聖彩はフィールド上で向かい合い、お互いに剣を鞘から引き抜いて構えた。
「準決勝、第二試合。久遠竜喜対一枝聖彩。それでは、始め!」
先生のその合図でまず動き出したのは竜喜だった。
竜喜は勢いよく地面を蹴り、聖彩に迫る。
そして、とても速くて打撃力を強い連撃が繰り出された。
聖彩はあえて防御を選んだのもあって、その連撃を全て防ぎ切った。
聖彩の流派は防御型。だから、聖彩も防御から入る形の戦法を得意とする。さすが防御型の流派なだけあって、完璧な防御だった。
竜喜は一旦後ろに下がり、次の策を考える。
その隙に聖彩は地面を蹴り、反撃を開始した。
聖彩は竜喜に迫り、連撃を仕掛ける。
その後続く五連撃。竜喜は多少危ないところもあったが、全てを防ぎ切った。
そして今度は竜喜が反撃し、剣と剣がぶつかる鈍い音がした。聖彩は上手く防げず、受け止めてはいるものの、無理矢理受けた感じが強く、体勢もキツそうだった。
聖彩はなんとか体勢を戻そうとする。だが、その間にも竜喜は力を込めて押し合いに持ち込む。
元々防御型の聖彩に何の策もなく突っ込んでいき、押し合いに持ち込むだなんて、普通ならできない。でも、それ以外にできず、突っ込んで行って返り討ちにされる。聖彩はそうやって勝ってきた。
これもその得意な形。そのはずなのに、竜喜が優勢のように見える。これが竜喜の実力で、聖彩の足りないところだ。
聖彩はこれ以外の勝ち筋を見いだせていない。だから、打開策もない。今までは周りが弱くて、単純な実力で勝ててきた。でも、勝てない状況をひっくり返す力は持っていない。
辺境じゃなくてよかったな、一枝聖彩。
そんなことを考えている間に、聖彩は体勢をどうにか整え、本格的に竜喜との押し合いが始まった。
二人の力が互角だからなのか、交わった剣は全く動かなかった。
だが、数十秒も押し合っていると、さすがに疲れが出て来るようで、聖彩は苦しそうだった。
それから、さらに数十秒踏ん張ったところで、静かな体育館に高くて細い音が響いた。
聖彩の剣が折れ、竜喜の剣が勢い余って聖彩に向かって行った。
竜喜は咄嗟に剣先を左の外側にずらし、最悪の状態を避けた。
だが、聖彩もバランスを崩していたことから完全には避けられず、聖彩の右腕に小さな傷を残した。
「っ……」
聖彩は痛みで右手の力が抜け、折れた剣の柄を落とす。そして、数歩後ろに下がった。
傷からは薄っすらと血が流れ出て、指先から滴り落ちた。
「そこまで! 勝者、久遠竜喜!」
先生がそう言い、第二試合が終わった。
結果は予想通り、竜喜の勝ちだった。でも、予想以上に聖彩が頑張っていた印象がある。さすが一番一級貴族に近い二級貴族……といったところか。
「……ごめん。大丈夫?」
竜喜は聖彩にそう聞いた。
「……大丈夫……です」
聖彩は俯きながらそう言った。
「医務室行って、応急処置してもらって、病院も行った方がいい。病院代は出す」
竜喜は珍しく威圧的な態度を取らなかった。聖彩のことを認めた証拠だ。
「……いです」
「え?」
「わかってます。もう、ほっといてください……!」
聖彩はそう言って体育館を飛び出して行った。涙が零れているようにも見える。
相当悔しかったのだろう。一番近いと言われて、可能性も無くは無かった。でも、勝てなかった。確かに悔しい。
とは言っても、相手は昨年一位の竜喜だ。あそこまで粘れたのはすごいと思う。上から目線で申し訳ないが。
聖彩が去っていった後、竜喜は少し立ち尽くしていた。
その後、折れた剣先と柄を拾い、控え室に戻って行った。
「お疲れ、竜喜」
控え室に戻ってきた竜喜を、龍杜はそう言って迎えた。
「お疲れ、龍杜、文人」
竜喜は少し疲れている様子でそう返した。
「大丈夫? 竜喜」
その様子を心配して、龍杜がそう聞いた。
「うん……何か、悪い事したなぁーって」
「勝負だから、しょうがないと思うけどな……」
「でも……あんな顔されたら……」
確かに、あんな感じで飛び出して行かれたら、もどかしく思うだろう。
「そんなもんだよ。他があっさりしすぎてるだけ」
「そうかな……?」
「うん。さっきの俺は、諦めだった。悔しさの欠片も無いっていうか」
「なるほど」
遠回しに龍杜に褒められている。嬉しいが、今は俺じゃないだろ。
「どうしようかな……文人、いい案ない?」
『え、俺……?』
そこは龍杜じゃないのかよ。龍杜もそう思っているはずだ。
『……壊れた剣の代わりの剣を贈る、とか。その剣が特に大事なものだったらあれだけど』
「なるほど」
竜喜はなぜか納得したようだった。聖彩がああなった原因はそれではないと思うが、せめて何かしたいならそれだろう。
正直なところ、何もしないのが一番な気もするが。
又は、一枝家に謝っておくか。
いくらなんでも、このまま鵜呑みにはしないだろうな。あとは竜喜次第ってことで、俺はもう関与しない。誓う。
「……せっかく言ってもらってなんだけど、剣って自分で作った方がいいと思う。色々できるし」
だよな。
「とりあえず、できることをする。ありがとう、二人とも」
「大丈夫」
『……解決したならよかった』
そして龍杜は荷物をまとめて控え室を出て行った。
一方、俺と竜喜は、決勝があるので控え室に残ることにした。




