第七十一話 卒業試験8
再度、十分ほどの休憩を挟み、準決勝が始まった。
俺と龍杜はフィールド上で向かい合い、剣を構えた。
「準決勝、第一試合。水風文人対宮瀬龍杜。それでは、始め!」
先生のその合図と同時に、龍杜は一気に間合いを詰め、攻撃を仕掛けてきた。
龍杜の剣は黄色い光を纏っていて、電気を帯びているように見える。これは、宮瀬家の技『雷』だ。
いきなり家の技を出してきたことに驚いたが、それくらい龍杜が本気だということだろう。
俺は咄嗟に剣を体の前に構えて防御の体勢を取り、その攻撃を受け止めた。
そのまま受け流すと、龍杜は急にUターンし、再度向かってきた。普通なら、勢い余ってこんなことはできないだろう。それが龍杜の実力か。
俺は、さっきと同じようにそれを受け止め、受け流す。
そして龍杜はまたUターンして向かってくる。
この繰り返し。
目にも留まらぬ速さで五連撃ほど繰り返した後、俺は受け流し切れずに、上空に放り出された。
ただ、それと一緒に、龍杜も勢い余って上空に飛び出した。
お互いに空中で上手く体勢を整え、着地の体勢を取る。
今はどちらも攻撃できるような状態じゃない。そんな思い込みが、龍杜を無防備にさせている。
俺はそこを狙って、空中で上手く体重移動を利用して、龍杜に攻撃を仕掛けた。
龍杜は驚いた顔をしていたが、なんとか受け止めた。そんな様子だった。
でも、今上を取っているのは俺だ。重量を利用すれば、受け止めることなんてできない。
俺は少し力を入れ、龍杜を床に叩きつけた。
肝心の自分は上手く着地しているので問題はない。だが、さすがの龍杜も、落下速度には対応できず、受け身を取ることはできていなかった。
そこで先生の合図は無かった。まだ試合は続いている。とことんやれという意味なのか、よくわからないが、続くならやらせてもらう。
俺は起き上がりかけている龍杜に追撃を仕掛ける。
速度もパワーも十分な攻撃だったが、そんな攻撃が刺さるわけもなく、龍杜にはあっさり弾かれてしまう。
そして、ここからは俺の番だと言わんばかりに龍杜は反撃してきた。
全体的に首を狙ったような攻撃で、俺は片手でバク転をするように後ろに下がりながらそれをかわす。
龍杜はそれでも諦めずに、さらに追い詰めてくる。俺はその攻撃たちも全て同じように避ける。
そんなことをしているうちに、ついにフィールド端まで来てしまっていた。
『そろそろ反撃しないとヤバイな……』
俺はそんなことを考えの元、一瞬で次の攻撃の判断をする。
あえてワンテンポ遅らせてバク転し、龍杜の剣先を避けながらも、龍杜の胸あたりを蹴り上げた。
龍杜は一旦後ろに下がるが、懲りずに攻撃を仕掛けてくる。
俺は一瞬で体勢を整え、龍杜の剣を受け止めた。
「くっ……」『っ……』
さっきまでのハイスピードな展開とは打って変わって、いきなり押し合う展開になった。
ただの押し合いならほぼ互角。耐久戦にしてもそうだ。龍杜にとっては、これくらいしか勝ち筋が無いからやるのだろうが、俺にとっては、このまま押し合いを続けることはあまり良くないことだ。一刻も早く、展開を変えたいところだが、そう簡単にも行かない。
この状況を変えられるもの。打開策。今俺にできることはあれしかない。でも、ここでやっていいのかわからない。龍杜にバレてしまう。必然的に、竜喜にもバレる。
もう、しょうがないか。バレてもいい。自分の身は守れるくらいにはなった。
俺は押し合いを続けながら、目を閉じて咳払いをし、軽く息を吸った。
そして目を開き、能力を発動させる。
「……吹っ飛べ」
俺の言霊によって、龍杜は一瞬にして吹っ飛ばざれ、反対端の壁に叩きつけられた。
だが、そこでも終わりの合図が掛からない。まだ続けろと言うのか。
だったらやってやるしかないだろ。
俺は勢いよく地面を蹴り、龍杜に近付いた。龍杜はまだ痛みで動けない様子だった。
龍杜を突き刺すように剣を構え、龍杜に迫る。
その様子からなのか、観客席から心配するようなざわめきが聞こえる。だが、そんなものは関係ない。
俺は龍杜に壁ドンするように剣を壁に突きつけ、そこで動きを止めた。
『はぁ……はぁ……はぁ……』
息が上がる。
威力だけではなく、言霊の影響は凄まじい。何発も使い続けたらどうなってしまうのだろうか。検証する勇気はない。
「そこまで! 勝者、水風文人!」
長かった第一試合は終わった。
おそらく時間的にはそこまで長くなかったはずなのだろうが、すごく長く感じた。でも終わってみれば、一瞬だった。それほど充実した試合だったと思う。
俺は息を整え、壁から剣を引き抜いて鞘にしまった。
俺が一歩下がると、龍杜はなんとかハマっていた壁から抜け出して着地した。
「いってー……」
龍杜は腰のあたりをさすりながらそう呟いた。
『ごめん、やりすぎた』
「いや、大丈夫。こんなんでへばってたらやってけないだろ」
『それならよかった』
そもそも、本気で仕掛けてきたのは龍杜なのだから、本気で返されて怒るというのは理不尽か。
「それにしても、この壁はやったな」
『そう……だな……』
龍杜に言われて改めて見てみると、壁には円状に大きなヒビが入っていた。
これを弁償しろなんて言われたら、相当な額だろう。というか、ここだけ直すなんてできるのだろうか。できなければ建て替えになって、さらに額が……
その時、背後から何者かに肩をポンと叩かれた。
振り返ってみると、そこにいたのは井花先生だった。
「うわぁ……これはすごいな」
『なんか、すみません』
「別に大丈夫。修理費を請求したりもしないし」
『そう……ですか』
「ああ。これも未来の剣士団のためって、学校経費から出してくれるはずだよ」
『それならよかったです』
壊れたのはやむを得ないが、修理費を請求されるなら別の話だ。それなら先に言ってくれとキレていたところだった。よかった。
「それか、補強だけしてそのまま石碑になるかも」
『は……?』
どういうことだ。石碑って。
「こんだけのヒビを体育館に一撃で入れたのは君だけだと思う。だから、それを称えると共に、下の学年に伝説として語り継がれる。そのための石碑」
『は……?』
意味がわからない。これだけヒビが入ってるんだから、もっと安全性を重視しろよ。それでここが崩れたらどうなると思ってるんだ。
「まあ、それは上と相談かな」
『相談しなくていいです。とっとと修繕してください』
「そんなこと言うなら請求するよ?」
『請求はしないでください。もう勝手に石碑にでもしてください』
もう諦めることにした。
でも、これが残されるのなら、俺の能力が残されるのと同じか。今まで散々隠しておいて、いざ使ったらこれかよ。
「ありがとう、文人」
『こちらこそ、いい試合だった』
先生の話が一段落したところで、俺たちはそう言い合い、握手をした。その後、抱き合った。健闘を称えるハグだ。
そして、観客席から拍手が起こる。
俺たちはそれに応えるように、観客席に向かって礼をした。
これが一級貴族。それを学年に示す。そのために先生は止めなかったのだろう。もうわかっているはずだが、どこまで染み込ませようとしているんだか。
そういう方針なのだろうから、別にいいんだけど。




