第七十話 卒業試験7
控え室に戻るが、よく考えれば亜里と同じ部屋。とてつもなく気まずい。いくらスペースがないとはいえ、物置を改築でもして使えば四部屋くらいは作れるだろう。
次の試合を見ている暇もなく、俺は急いで荷物をまとめて控え室を出た。
どう話していいかわかんないし、沈黙もキツイ。こんな状況、俺は大嫌いだ。
そんなこんなをしている間に第二試合が終わり、龍杜の勝利となっていたようだった。
準決勝に駒を進めたのは、俺と竜喜、そして龍杜。そう、今の段階では、まだ三人しかいない。
少しの休憩を挟んだ後、残り一枠を懸けた敗者復活戦が行われることになった。
対戦カードは時山亜里対一枝聖彩。どちらも屈指の実力者で、どちらが勝つか、予想はできない。
十分ほどの休憩が終わり、二人はフィールド上に剣を鞘から抜き、向かい合って立った。
さすがに、他の人たちにも近い二級貴族のトップなだけあって、観客席にいる人の数が多い気がする。おそらく、全員だ。
「敗者復活戦、時山亜里対一枝聖彩。それでは、始め!」
先生のその合図で、二人はお互いに地面を――蹴らなかった。
二人は牽制し合うように睨み合い、一歩も動こうとしなかった。
このままずっと続けていても、戦況は全く動くことはなく、集中力が切れるのを待つだけの耐久戦になる。そんな戦い、どちらも避けたいはずだ。
でも、下手に動けば返り討ちにされるだけ。そこが難しいところだ。
動くなら完璧に動いて決める。動かないならひたすら待つ。それが難しいんだけどな。
その時、亜里の手が動き、聖彩に手のひらを向けて何かを呟いた。
その瞬間、二人を包むように黒い霧が発生した。
これはさっきも亜里がやっていた魔法。全体を影で包む魔法だが、外から見ると、本当に霧のようにしか見えない。
それに、見ている側からも、何も見えない。せっかくこれだけの人が見に来ているというのに。でも、試合は見世物のためにやっているわけではない。ならいいか。
それ以上に、さっきと同じ魔法を使ったことを危惧するべきか。
手の内がバレては――いないか。外からこんなふうにしか見えなくて、わかるはずがない。わかったなら、透視能力でも持っているだろう。どっちだ。
「……透視」
俺は密かに言霊を使い、影の中を見た。黒い影の中に、白く二人の姿が浮かび上がる。まだ二人は牽制しているようだった。というか、この状況で動揺しない聖彩はすごい。
そこから、亜里は素早い動きで聖彩に迫る。
聖彩は全く動かず、気付いていない様子だった。
亜里はそれをいいことに、聖彩の横から攻め入り、一気に攻撃を仕掛ける。
もう終わりか。そう思われた時、聖彩の手が動き、亜里の攻撃に見事反応し、一撃目を防いだ。
だが、亜里がそんなことで引き下がるはずもなく、さらに五連撃ほど仕掛けて行く。
亜里の連撃は、パワーも速度も十分で、かなり精度の高い連撃だと思う。それでも聖彩は、全てを防いでいった。
そして亜里は一旦後ろに下がり、影に包まれた。
だが、聖彩は亜里を追いかけて影の中を移動する。聖彩はまるで見えているかのように亜里に迫り、攻撃を仕掛けようとする。
亜里は防御の体勢を取って構えるが、聖彩は亜里の足元に滑り込んで足を引っかけ、亜里は体勢を崩された。
そのまま聖彩は亜里の背中を剣の柄で叩き、亜里は地面に叩きつけられた。
その衝撃でなのか、二人を包んでいた影が消え去った。
影がかかっている間のことは審判の先生がわからないので、消え去った後に追い詰める必要がある。聖彩もそれはわかっていて、仰向けになって半身を起こした亜里の首に剣を突きつけた。
「そこまで! 勝者、一枝聖彩!」
審判の先生はその状況から、聖彩の勝利だと判断したようだ。まあ、当たり前か。
その直後、聖彩は素早く剣を鞘に戻すが、亜里は放心状態に陥っていた。
「……何見てんのよ」
聖彩は一歩下がってから屈んで亜里に顔を近づけ、そう言った。
確かにあの角度からして、見えている。制服のスカートの中が。
でも、放心状態なのはそういう意味ではないだろう。というか、さっきより今の体勢の方が……そんな考えは止めるべきか。
亜里は『自分が学年の二級貴族で一番強い』そう思っていたはずだ。
でも、聖彩に負けた。いや、去年の聖彩は絶対に手を抜いていた。だから亜里は傷ついた。
誰が傷つこうが、俺には関係ない。でも、少し可哀想ではある。
とにかく、敗者復活戦の勝者は聖彩だった。よって、準決勝に進出したのは、俺と竜喜と龍杜と聖彩の四人となった。
そして、準決勝のカードが発表された。
水風文人対宮瀬龍杜
久遠竜喜対一枝聖彩
準決勝はそうなった。
俺の相手は龍杜。いつか戦うとは思っていた。準決勝にふさわしい相手だと思う。
やっと本番が始まったような、そんな気持ちになった。今まで戦った人たちには申し訳ないが。
俺は準備をするために、しれっと観客席を抜け出して、控え室に向かった。




