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第六十九話 卒業試験6

 休憩が終わり、模擬戦が再開された。


 俺と亜里はフィールド上で向かい合い、剣を鞘から抜き出した。


「準々決勝、第一試合。水風文人対、時山亜里。それでは、始め!」


 先生のその合図で、第一試合が始まった。だが、どちらもまだ動かない。


 こうなるんだったら、最初から行けばよかった。そう後悔するが、今更後悔したところで意味はない。


 そう思うが、こっちから仕掛けるしかなさそうだ。


 俺は勢いよく地面を蹴り、亜里に詰め寄る。


 お互いの剣がぶつかり、甲高い音が響く。そして、そのまま押し合う形になる。


「っ……」


 亜里は苦しそうにそう唸る。


 ただ、俺は力を込めているものの、まだ行ける。それで押し切れるかは別として。


 追い打ちをかけるように力を込め、さらに押し込む。だが、亜里は意外としぶとく、まだ押し合いを続ける形になる。


 このまま押し合っても、ただの耐久戦になるだけ。そう考えると、ここは一旦引いておいた方がいいのか……?


『……筋力強化』


 一瞬だけ言霊を使い、筋力を強化してそのまま押し切る。だが、剣は相手に当たらない。当たらなかったのではなく、当てなかったの方が正しいか。


 お互いに一旦下がり、息を整える。


 ここからどう展開していくかが重要なポイントだが、特に戦略は思いつかない。そこまでパッと出てくるような策士ではないし、俺はどちらかと言えば相手に合わせるタイプ。やはりここは、亜里の出方を窺うしかなさそうだった。


 この場合、亜里は何を考えるのか……見当もつかない。


 その時、亜里が動き出した。


 俺に手を向け、何かをボソッと呟いた。


 その瞬間、周りに黒い霧のようなものが立ち込め、視界が若干塞がれる。


『魔法か』


 中々模擬戦では使われない魔法。その割には、実戦では使った方がいいと教わり、学院でも人それぞれ魔法を教えて貰える。俺の場合、大抵の事はできるのであまり教えて貰った記憶は無いが。


 亜里が使った魔法は、流派から考えて影属性だと思う。ただ、どういう魔法かはわからない。同じ影属性使いとして少し不甲斐ない。


 とにかく、この何も見えない状況を利用して優位に立たれると困る。


「……暗視」


 再度言霊を使い、この霧の中を動く亜里の姿を捉える。


 亜里は大きく回り込んで背後から狙おうとしているようだった。


 さらに、こんな霧の中でも亜里には俺の姿が見えているようだった。魔法の使用者でさえも見えないというのは意味が無いように思えるから、当然の事か。


 亜里は暗視で見た通り、背後から斬りかかってきた。


 音もなく、静かな攻撃。見ていなければ、これは完全に負けていたかもしれない。だが、俺は素早く振り返り、亜里渾身の一撃を防いだ。その時の亜里の顔は酷く動揺していた。


 少しニヤリと笑い、剣を押し返す。

 その瞬間、霧が間合いに広がり、一瞬で亜里の姿は消え去った。


 俺は即座に暗視に切り替え、亜里の姿を目で追う。


 この霧を操っているのだろうが、霧っぽくは見え無くなってきた。膜のようにも見えるし、どう表現したらいいのかわからない。


 影属性なら、この魔法そのものが影なのかもしれない。


 亜里の動きに合わせて動いているが、その動きが細かい。とても魔法制御の力だけで動かしているとは思えない。


 全くブレないこの感じからして、霧ではなく影。影属性だからこそその考えに至るが、影を魔法で操るのはかなり難しいと言われている。かなり高度なことをやってのけている。


 おそらく、自分の影を広げて空間全体に落とし込んだような形。だから、この空間は亜里の思うままだし、俺の場所はバレバレだ。


 今は暗視で亜里の場所が見えているが、いつそれに気付かれ、制限を掛けられて見えなくなるかもわからない。気付かれた時というのは、能力がバレたというのに等しい。そんなことは避けたいから、早急に決着をつけないといけない。


『賭けてみるか……』


 ここが亜里の影なら、俺にとってもいい条件になる。確定ではないから、これで負ける可能性もある。一か八かといったところだ。でも、それ以外に勝ち筋が見えないし、やってみる価値はある。


 その時、亜里がものすごい速度で飛ぶように突っ込んできた。今度こそ、見ていなければ完全に負けていただろう。だが、なんとか無事に弾き、強打を防いだ。


 亜里は少し後ろに下がるが、すぐに追撃を開始する。


 俺はそれを後ろに下がることによって避ける。だが、危ないところまで迫られ、後ろに反るようにして避けることになる。


 勢いそのままにバク転のように後ろに回り、力を込めて片手を強く床に突く。すると、亜里は背中に何かの力が加わったかのように前に飛び、倒れ込んだ。


「っ……」


 その瞬間、周りにあった影は消え去り、いつもの体育館の風景に戻った。


『やっぱ当たってたか……』


 俺の考えていたことはほとんど当たりだったようだ。詳しい事実はわからないが、あの魔法が亜里の影だということは確定だった。


 影が無くなるが、影があった間のことは先生にはわからない。だから、止めを刺さないといけない。


 俺は剣を片手に、床に片膝をついてうずくまる亜里の前に向かい、亜里のことを見下ろすように立った。剣を突きつけ、言わずとも終わりを告げる。


「そこまで! 勝者、水風文人!」


 こうして第一試合は終わった。


 俺が亜里にしたことは、簡単に言えば影斬りだ。だが、実際に斬ってはいない。平手打ちをしたようなものだ。俺は影斬りを応用し、亜里に衝撃を与えた。


 家の技も、流派の技も、どちらも魔法のようなもので、単体では操作できないほどの力を持つ魔法を、武器に流し込むことによって使用する。そんな仕組みでそれぞれの技は構成されている。俺は今、それを直接制御して使用した。簡単に言うとそんなところだ。


 俺も出来ると思ってやっていない。一か八かというのは、それが影なのかの他に、ちゃんと制御できるかというのも入っている。


 今回は賭けに勝ったからよかったものの、もう二度とやりたくはない。


 多分、失敗していたら亜里は死んでいただろう。俺もどうなっていたかわからない。



『……ありがとう』


 俺は剣を鞘に戻して亜里に手を伸ばし、そう言った。


 亜里はその手を掴んで立ち上がる。


「見破られるだなんて思わなかった。賭けてたとこもあったし、しょうがないと思ってる。でも、やっぱ強いね、一級貴族」


 亜里はそう言って握手しなおす。


「頑張れよ、俺の分まで」


 そう続け、亜里は控え室に戻って行った。


 俺もその後を追い、第二試合の二人と入れ替わった。

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