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第六十七話 卒業試験4

「ふぅ……間に合った……」


 その声の主は風音だった。

 風音はちょうど控え室から観覧席にやってきたところだった。


「お疲れ、風音」


 飛翔は風音にそう言った。


「ありがと、飛翔」


 風音はそう言って、すぐにフィールドに目を向けた。


 フィールドではまろんと衛仁が向かい合って剣を鞘から抜き、お互いに構えていた。


「第四試合、日和ひよりまろん対海津(うみづ)衛仁もりひと。それでは、初め!」


 まろんと衛仁の準備ができたのを確認して、井花先生はそう言った。


 そして二人は同時にお互いに向かって走って行った。


 二人の剣は甲高い音を立てて、ぶつかり合った。


「っ……」


 そのまましばらく押し合うが、一瞬だけ剣が動き、まろんは剣を押し返した。


 勢いそのままに、まろんは衛仁を斬り、勝負が着いた。


「勝者、日和まろん!」


 そう言われてまろんは少し息を吐き、安心したように見えた。


  ◇◇◇


 第五試合、宮瀬みやせ龍杜りゅうと藤井(ふじい)柊璃しゅりの、同じグループ同士の対決は、当然と言ってもいいほどの試合で、龍杜の勝利。


 第六試合、上田うえだ永亜とあ河越(かわごえ)夏渚飛ななとの、同じく仲間同士の対決は永亜の勝利。


 第七試合、柴崎しばさき飛翔あすか竹国(たけくに)空樹そらきは、さすが飛翔といった試合で、飛翔の圧勝だった。

 もう、飛翔を平民だからという人はあまりいないだろう。


 第八試合、一枝いちえだ聖彩せいら津田(つだ)亜羅斗あらとは、聖彩の実力というのを見せつけられ、亜羅斗はされるがままに負けたといったところだった。


 第九試合、吉坂よしさかひなた藤田(ふじた)希來きらは、ほぼ互角の戦いを繰り広げ、その末、希來が勝利を収めた。


 そして一回戦の最終試合、第十試合、久遠くおん竜喜りゅうき倉本(くらもと)つぐ

 継も中々強い剣士なのだが、やはり一級貴族の力は圧倒的で、竜喜が勝利した。


 一回戦は午前中全てをかけて終わり、二回戦の対戦カードも発表された。


 水風文人vs神代風音

 時山亜里vs日和まろん

 宮瀬龍杜vs上田永亜

 柴崎飛翔vs一枝聖彩

 藤田希來vs久遠竜喜


 組み合わせはそう発表された。


 俺は風音と戦うことになり、まろんは進級時学年四位の亜里と戦うことになった。

 飛翔はかなりの実力者と見ていい聖彩との試合。

 一級貴族の竜喜と龍杜もそれぞれ二回戦に駒を進めていた。


 それから昼休みを挟み、二回戦が始まろうとしていた。


 俺と風音は控え室にいたが、全く会話は無く、沈黙の時間が続いていた。


 その沈黙を破ったのは井花先生で、俺たちのことを呼びに来ていた。


「そろそろいいか?」


 井花先生がそう言い、俺と風音はフィールドの方に向かった。


 俺たちはフィールドの端と端に立ち、向かい合った。


「二回戦、第一試合。水風文人対神代風音。それでは、始め!」


 井花先生は準備ができたのを確認してそう言った。


 俺はそれと同時に地面を蹴り、風音に向かって行った。

 風音もそれは同じのようだった。


 風音はいきなり素早く連撃を仕掛けてくる。

 俺はそれを全て防ぎ切り、押し合いに持っていく。


「っ……」


 風音は大分キツそうだった。でも、俺はまだ大丈夫だ。


 俺は右足を前に出して踏み込み、さらに風音に剣を押し込む。

 そして剣を両手で押し込むと同時に左足で風音の腹を蹴り、風音を吹っ飛ばした。


「っ……たぁっ……」


 風音はフィールドに後ろ向きに倒れ込んで、そんな声を上げた。


「そこまで! 勝者、水風文人!」


 井花先生がそう言い、試合は終わった。


 俺は剣を鞘にしまい、風音に近寄って行った。


『ありがとう、風音』


 俺は風音に手を伸ばしながらそう言った。


「……こちらこそ。ありがとう、文人」


 風音は俺の手を掴んで立ち上がりながらそう言った。


「やっぱ強いなぁ……文人は」

『何か……蹴っちゃってごめん』

「大丈夫。勝負でしょ?」

『まあ……そうだけど……』


 ちょっと調子に乗っていた……気がする。

 勝負なのは確かなのだが……それにしても、だ。


 そういえば、蹴るのも一撃に入るんだな……剣だけだと思ってた。でも、よく考えると一撃決着だから、『剣で』とは一言も言われていない。


 俺はそんなことを考えながら、控室に戻った。


 その途中で、フィールドに向かうまろんたちと会った。


『まろん、頑張れよ』


 俺はすれ違う時に、まろんにだけ聞こえるようにそう言った。


 まろんがどう受け取ったかはわからない。でも、まろんには頑張って欲しい。プレッシャーを与えただけかもしれないけど。


 そして控室に戻ると、第二試合が始まった。


「第二試合、時山亜里対日和まろん。それでは、始め!」


 井花先生の合図で、二人はほぼ同時に動き出した。


 まろんは速度を一気に上げ、亜里に迫る。

 亜里はそこまで速度を上げている様子はない。まろんの出方を窺っているようにも見える。


 まろんは亜里に、すごい速さで攻撃を仕掛けていく。だが、亜里もそう簡単にやられるわけもなく、それを全て防いで行った。


 パワーの亜里、スピードのまろん。どちらも譲らない。


 ここの勝者が、俺とぶつかる。そう考えると、複雑な気持ちになった。


 まろんと当たりたくないという気持ちはある。でも、まろんには勝ってほしい。どうしよう。


 どちらも一旦後ろに下がり、息を整える。


 そして、二人は同時に踏み込んで地面を蹴る。


 一瞬の出来事だった。


 まろんは亜里の首の辺りを狙って行ったのだろう。まろんの剣が目標を捉えようとした時、亜里の剣が動いてまろんの腕を弾き、まろんの剣は床に落ちた。


「そこまで! 勝者、時山亜里!」


 先生がそう言い、第二試合は終わった。


 亜里は剣を鞘にしまい、まろんは床にへたり込んだ。


 やはり、実力の差はあった。


 二級貴族で学年四位の亜里と、三級貴族で女子のまろん。まろんの家が三級貴族で一番上とはいえ、敵うわけも無かった。


 いい戦いはしていたと思うが。



 まろんと亜里が戻って行くと、第三試合が始まる。


 俺と風音は観覧席の方に向かって行った。その途中で、飛翔とすれ違った。


「お疲れ、二人とも」

「ありがとう、飛翔」

『飛翔も頑張って』

「うん」


 俺たちはそう言葉を交わし、それぞれ別れていった。



 第三試合は宮瀬龍杜対上田永亜。


 圧倒的に龍杜が有利だと思われる。という予想の通り、龍杜が一級貴族の意地を見せて勝利した。


 勝負はあっという間だった。

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