第六十五話 卒業試験2
◇◇◇
翌日
『おはよー』
「おはようございます、文人さん」
「おはよー文人」
「文人おはよ」
教室に入り、同じグループの三人と挨拶する。最近ではあまりグループで何かする機会はなくなってきているが、それでもやはり仲が良いのは同じグループの三人だった。
「文人はさ、勉強した? っていうか、できた?」
『あー、してない。何か、しても無駄かなーって。一日でできる量なんて、限られてるし』
「なるほど……さすが文人」
飛翔はそう言うが、俺はただ勉強したくないだけで、勉強ができるわけでは決してない。言い訳みたいなものだった。
まあ、反論もしないが。
その時、教室に井花先生が入ってきた。
教室にはもう全員揃っていて、元々俺が最後だったみたいだ。
「はい。運命の卒業試験……といっても、卒業できるかどうかではなく、最終的な順位を決めるもの。だが、今後の人生での肩書が決まる試験。まあ、頑張ってくれ」
井花先生はそう言い、試験開始の準備をした。
俺たちも準備をする。
クラスを二つに分け、教室を広く使う。
基準は恐らく去年のグループ順位で、俺たちは四位だったため、三位だったグループと同じ部屋になった。ちょうどそれが人数を半分にできるわかりやすい基準だったようだ。
教室を分かれ、準備が完了したのを確認して井花先生は試験の用紙を配り始めた。
もう一方の部屋は、別の先生がいるのだろう。
恐らく試験は一年前の進級テストと同じように国語・数学・理科(化学・物理)の四教科で合計四〇〇点満点だと思う。
そして配られた教科は国語。
先生の合図で試験が始まり、一斉に紙をめくる音が鳴る。
問題用紙は二十五枚ほど。
ぱっと見、文章がかなり多そうだった。国語なら当然のことかもしれないが。
とは言っても、一時間で終わりそうにない量だ。
一問目、かなり昔に書かれた伝記。問題としては文法と、内容の整理。ここだけで何ページあるんだよというくらいの文章量と問題量。去年とは比べ物にならない。
二問目、こっちは文学作品。といっても最新のものではないが、さっきの伝記に比べれば新しいか。だが、文章量と問題量はあまり変わらない。問題の内容というか、系統も同じような感じ。
三問目、いきなり実技のような文章が出てきた。出てきた物語のこの状況では、どうするべきか。あなたならどうするか。そんなことを問う問題。
文章量や問題量は一・二問目に比べれば少ないが、回答にかなりの時間がかかる。
状況を思い浮かべて、動くこともせずに書くのはかなり苦労する。
まあ、足くらいは動かしても何とも言われないはずなので、どうにかそれで考える。
四問目、古文のような問題が出てきた。
いや、この世界に古文は無いはずだ。なのに、何でそんな文が……?
しかも、ただの古文ではない。まさかの漢文だった。漢文というか、漢文風だった。
ぱっと見では何が書いてあるかわからない。無造作に漢字が並べられたようにしか見えない。
一応、解読が問題みたいだから読んでみるけど、こんなのこの世界で習った記憶もない。中学レベルの漢文解読で読めればいいが。
その文を並び替えると、『卯月初日数百ノ魔物、境放。之宣戦布告』となる。
意味は、『四月一日に数百もの魔物を境(国境?)に放つ。これは宣戦布告だ』といったところか……?
え、やばくね……?
これがこの国の文ではない場合、これは例の隣国からの宣戦布告。
いや、そんなのが問題に出てくるとでも……?
そうだよな。そんな機密事項じみたものを、こんなところに出すとは思えない。
でも、俺だから読めた文章。他の人たちはどうしているのだろうか……
その時、井花先生が終わりの合図を出した。すごくギリギリだった。
それにしても、二十五枚なんて、大学の共通テストみたいだ。多すぎる。初めて見たかもしれない。シンプルに驚いた。
それから、十分の休憩に入る。
「文人、何か多くなかった?」
『ああ……多かったな』
「それに何だよ、あの最後の問題」
飛翔はそう言った。やはり最後の漢文、飛翔は読めなかったようだった。
「わかる。僕も最後のはわかんなかった」
風音もか。
「私もです。文人さんはどうでしたか?」
まろんもわからなかった。つまり、みんなわからないということだった。これは俺が怪しまれかねない。
『うーん……わかんなかった。あれだけは』
一応そう話を合わせておく。
「じゃあ、みんなわかんなかった感じかー」
飛翔はそう呟いた。
俺もよく読めたものだと思うが、何でこんな問題を出したのか疑問でしかない。
休憩時間は、あの問題の事で持ち切りだった。
そして二教科目、数学が始まった。
こっちも共通テスト並みに枚数が多い。
一問目、基本問題が五問ほど。
二問目、二次方程式・グラフなどの文章題。
三問目、確率についての問題。
四問目、ガッツリ方程式。
五問目、図形の計算問題。
数学はこれだけだった。
国語との落差がすごすぎてなぜかあっさりしているように感じる。
得意だというのもあるが、それにしてもだ。
国語が多すぎるのが悪い。さっきはあんなにギリギリだったのに時間が余る。
まあ、数学が満点だという保証はないが。
そして三教科目、化学。四教科目、物理。
どちらも数学同様にあっさりと終わった。
国語が重すぎて感覚がおかしくなっている。
むしろ、他が重くなくてよかった。本当に。
「おわったーっ」
解答が回収された瞬間、飛翔は叫ぶように、伸びをしながらそう言った。
「いきなり叫ばないで」
「叫んでねーし」
飛翔とまろんは喧嘩じみたことをする。去年も同じようなことをしていた気がする。
「はい、じゃあ、明日からトーナメントなので、今日は早く休んで、明日に備えてください」
井花先生はそう言い、解答用紙を持って教室を出て行った。
「どうでした? 文人さん」
『うーん……まあ、普通かな』
何とも言えない。特にあの漢文。意味わからん。
「でも、私たちの本業は剣ですもんねー。ここからが本番ですかね。まあ、頑張りましょう!」
『そうだな』
まあ、これからが本番というのは事実。
トーナメントなんて、長くなりそうな気しかしない。
かなり体力も消費しそうだし、精神的にも疲れそう。
力はセーブして、最後まで戦えるようにする。
どこまで残るかはわからないけど、負けるつもりはない。
負けそうになっても、言霊でどうにかする。
ここは負けちゃいけない気がする。
主席と次席じゃ全く違う。二番と三番はもっと違う。
たとえ負けるのが竜喜や龍杜の一級貴族だとしても、負けたくない。
俺の中で、そんな想いが高まって行っていた。




