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第六十四話 卒業試験1

  ◇◇◇


 数か月後。

 全員が怪我から復帰し、ついに卒業も近づいて来ていた。


 卒業が近づいてきたということは、あれがあるかもしれないということだった。


「えー、明日から、卒業試験が始まります。と言っても、上級二年はペアミッションをやったので去年とは違う感じになります」


 井花先生はそう言った。


「具体的には、筆記試験とトーナメント。トーナメントは模擬戦みたいなものだ」


 井花先生はそう説明した。


 あるとは思ってたが、イレギュラーにも程がある。


 ノー勉で筆記試験。

 恐らく実技はトーナメントの勝ち上がり具合に応じて得点が付くんだろうけど……


 それにしてもノー勉は無理だ。とは言っても今日徹夜で勉強する気も無い。


「くれぐれも、今夜徹夜で勉強しようだとか思わないように」


 井花先生はタイムリーにそう付け加えた。


「トーナメント表は筆記試験の後に発表する」


 トーナメント表にも、何か思惑が隠れているのではないかと考えてしまう。


 まあ、最終的にはそれで最終順位が決まるんだと思うけど。


 トーナメントで順位が決まるって結構ヤバくね……?

 一発勝負というか、負けたらそこで終わりだなんて、なんか平等じゃないような気もする。


 まあ、平等を求めるような世界ではないと思うが。


 そもそも、今までの俺たちに仕掛けられた桁違いの敵。あれでもう、平等も何もないということがわかるだろう。


 もう、相手が何を考えているのか、考えるだけ無駄な気もしてきた。


「じゃあ、今日は授業無しで、帰るなら自由に帰ってもよし。他のクラスの邪魔だけはしないように。あ、あと、卒業試験はくれぐれもこのクラスだけで内密に行う。情報漏洩には気を付けろよ」


 井花先生はそう言って、教室を出て行った。


『はぁ……』


 なんだかなぁ……すごい放り出された感が強い。毎回そうなのだが……毎回感じていることなのだが……今更何もすることはないのだが……何故かもどかしい。


「ため息なんて珍しいですね」

『え、あ、まあ……俺だって、ため息くらいはつくよ』

「そうですけど、何か、学校では珍しいなーって」

『まあ……』


 まろんがそんなこと言うのも珍しい気がするが……?


「卒業試験、そんなに嫌ですか?」

『嫌……ではないんだけど……いや、筆記は嫌だな……』

「文人さんでもそう思うんですね」

『ま、まあね……結局その知識って、使わなさそうだし』

「使わない……わかんないですけどね」

『俺は使ったことないよ……?』


 まろんは俺の愚痴に付き合ってくれているという印象だった。深夜の居酒屋かよ。


『まあ、こんなこと言っても無駄か……』

「ですね。試験は明日ですし」


 まろんはそう言って立ち上がった。


「文人さんはどうしますか? 今日」


 そしてまろんはそう聞いてきた。


 今日まさか早帰りだとは思っていなかった。いつも迎えが来ているが、今日は来ていない。本当なら、待つべきだし、待たなきゃ怒られそうな気もするが……


『あー……歩いて帰ろっかなー……』


 俺はそう呟いた。


「だ、大丈夫なんですか……?」

『やっぱそうだよなー……』


 周りでは、ちらほらと帰り始めている姿が見える。

 竜喜と龍杜は二人で喋っていて、帰る気配はない。


 この調子だと、残るのは一級貴族の三人だけ。

 でも、あの二人に交じって時間を潰すのは現実的じゃない気がする。


 さて、どうするべきか……


『二人はどうすんの?』


 俺はまだ教室にいた飛翔と風音にそう呼びかけた。


「えーっと、まあ、帰ろうかなー」

「僕はどっちでも。結局、家は居づらいから図書館にでも行きそうだし」


 飛翔と風音はそれぞれそう答えた。


「文人が居るならいるけど……」

『いや、それはいいよ。わざわざ引き留めるのも悪い』

「そっか……」


 引き留めたところで、どうにもならない。そんな気がしていた。


「じゃあ、俺たち帰るね。また明日、文人、まろん」

『ああ、また明日』「明日ね」


 飛翔がそう言い、飛翔と風音は教室を出て行った。


「それで、どうするんですか?」


 まろんは二人が出て行ったのを確認した後、追い打ちをかけるようにそう聞いてきた。


『うーん……』


 歩いて帰るにしても、道がイマイチわかっていない。そんな状況で帰るのは危険か……やめた方がいいな。


『午後まで暇つぶしするよ』

「そうですか……私、残りますよ……?」

『いいよ。別に。一人でどうにでもなるし』

「そう……ですか……じゃあ、私はこれで」


 そう言って、まろんも教室を出て行った。

 周りを見てみると、本当に一級貴族の三人だけになってしまっていた。


 一級貴族は、常にだれかに狙われていると思えというほど危険が伴っているらしい。別にその危険に立ち向かえないほど弱いとは思えないが、平民の前で堂々と戦うわけにもいかない。


 二級・三級貴族は、よっぽどのことが無い限り、帰った方がいい。勉強するにしても、寝るにしても、実技の練習をするにしても。

 勉強は毎日全教科持って来ているわけではないので家の方がいい。

 寝るのは正直どこでもいいが、学校で寝るのは気が引ける。

 実技に関しては、他のクラスの邪魔をするな=体育館は使えないということなので、家にそういう施設があればその方がいい。無いとしても、学校の広場でやるわけにもいかない。

 まあ、だから帰る理由はよくわかる。


 飛翔と風音はよくわからない。まあ、風音は図書館に行くと言っているし、飛翔は家が居ずらい何て言うことは無いっぽい。だから心配する必要は無さそうだ。


 さて、俺はどうするかな……


 勉強はやる気になれない。実技はもう出たとこ勝負。


 寝るか。いや、休憩だ。


 俺はそう言い聞かせ、教室を出て広場に出た。

 広場には誰もいなくて、気持ちいい風が吹いていた。


『はぁ……』


 俺は芝生の上に座り込んだ。


 ただ何もしない時間を過ごすと、何かを無駄にした気がする。だからと言って、今はやることがない。


 まあ、俺は辺境という危ないところに行かなきゃならない。となれば、今日ぐらい何もしなくてもいいか。


 俺はそんな考えに至り、足を伸ばして空を見上げた。


 空は澄んでいて、俺が居た世界と何も変わらない。太陽もあるし、食べ物だって、街並みだって変わらない。もっと言えば日本語や漢字が存在する。

 この世界で違う事、それが剣や魔法、そして魔物。でも、たったそれだけなんだ。

 俺はその違う事ばかりしているから、全くの異世界のように感じている。だけど、本当はほとんど変わらない。

 一級貴族じゃなくて、平民に転生していたら。この世界は何も変わらないように思えたかもしれない。


 俺が死ぬことが決まっていたなら、何で決まっていたのか、何で転生したのか、何でこの世界だったのか、何で一級貴族だったのか……言い出したらキリが無い。だけど、まだまだ謎が沢山ある。


 意味も無く、俺と兄ちゃんがこの世界に転生するだなんて、神の気まぐれにもほどがある。

 そもそも神がいるかは知らないが。


「おーい、あやとー」


 俺の思考を断ち切ったのは竜喜の呼ぶ声だった。声の聞こえた方を見てみると、そこには竜喜と龍杜がいた。


「文人、お前も迎え待ちか?」

『う、うん……まあ……』


 竜喜たちは俺の隣に座った。


「なんかなー……めんどくさいよな、連絡すればいいとも言われたけどねぇ……」

『まあ、確かにそうだけどね』


 連絡すれば来てくれる。普段ならそうなんだけど、今日は少し用事があり、貴族の一部の家は迎えを出せない状況にある。

 一級貴族以外は普通に帰ればいいが、一級貴族はそうはいかない。だから俺たちはこうしてここに集まっているわけなのだが……


「俺はさ、別に後継ぎでもないし、兄ちゃんもいるし、別に殺されて困る人じゃないんだけどなぁ……」


 龍杜はそう呟いた。

 それを言えば俺もそうなのだが、死にたいとは思っていない。


「殺される前提で動くなよ。殺されるなら魔物に殺されろ。一般人に殺されるなんて恥だぞ?」


 竜喜がそう言い返す。


「な? 文人」

『え、あ、まあ……』


 確かに王国高等剣士学院の上級二年で、しかも一級貴族の次男が、ただの一般人に襲われて殺されましたなんてことになるのは絶対に避けたい。

 まあ、そんな狙われるような社会も中々ヤバいけど。


「まあ……いいんだけどさ、ぼっちじゃないし」


 龍杜はそう言い、芝生に寝っ転がった。



「そういえばさ、最近どうなの? 文人」

『え?』


 竜喜はそう聞いてきた。龍杜はその話に興味を示したのか、起き上がってこっちを見てきた。


「日和まろん。絶対今日一緒に帰りたがってたなぁ……」


 竜喜はそう続ける。


『えぇ……でも、帰れないし……』

「帰りたかった?」

『え、いや、そんな関係じゃないし……』


 多分こんな反応したら、勘違いされかねないだろう。

 でも、俺とまろんは、そんな関係ではない。


 前世で彼女が原因でいじめられ、現世で王女を振った。そんな俺に、恋をする資格は無い。

 そう思う。

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