第六十二話 ペアミッション14
◇◇◇
ペアミッションはこうして終わりを告げた。
◇◇◇
「ん……」
龍杜は病院のベッドの上で目を覚ました。
「龍杜……!」
ベッドサイドにいたのは柊璃だった。
「柊璃……俺……」
「ドラゴンの血には、毒があったみたいで……龍杜はそれを浴びて……」
「そう……だったのか……」
龍杜は自分の知識不足を感じた。
それが、竜喜に勝てない、いつまでも二番手な理由なのだとも思った。
「生きててよかった。ほんとに……」
「何でお前が泣きそうなんだよ」
涙が零れそうになる柊璃を見て、龍杜はできる限りの笑みを浮かべて、笑いながらそう言った。
「だって……」
柊璃は本当に心配していた。目の前で死なれるということほど、辛いことは無い。
「ありがとう。柊璃」
龍杜は柊璃の想いを受け取り、そう言った。
「今回のペア、柊璃とでよかったと思ってる。最初は同じグループだしとか言ってたけど、柊璃だったからこそ、こんだけの怪我で済んだんだと思う」
「龍杜……」
柊璃はこらえていた涙も全て溢れ、本当に泣いてしまった。安堵の涙だった。
◇◇◇
「聖彩……大丈夫なの?」
聖彩もまた、病室にいた。
聖彩はアリスの魔物の血に含まれていた毒の影響で、顔に赤黒い痣が出ていた。
それを、聖彩の母親はかなり心配していた。
「女の子なのに……こんな痣を作って。やっぱり剣士になるなんておかしいわ。あの人は何もわかっていないのよ」
母親はここにはいない父親の文句を言う。
「あなたは家を出て、お嫁さんになるの。せっかく可愛く生まれたのだから、傷なんか作っちゃダメよ」
母親は聖彩にそう言う。
「……いつもそう。お母さまはいつもそう。一級貴族から嫁いできたのかなんかわかんないけどさ、私は私の道を行く。お母さまとは違う」
聖彩はそう言い返す。
「いつまでも家にいられると思ったら大間違いよ? それでいいの?」
「私は剣士でいたい。ずっとそうやって教えられてきたし、それ以外は知らない。それに、仲間がいる。その仲間を、手放したくない」
「はぁ……どちらも似てほしくない方に似たのね」
聖彩の母親はそう言った。
聖彩は父親に似て、聖彩の兄は母親に似た。そういう意味でそう言ったのだろう。
「この痣は治らない痣じゃないし……さ」
「そうなの?」
「強い回復魔法で治るって……」
「それは誰から聞いたの?」
聖彩はその瞬間、言っても信じてもらえないだろうと悟った。
「……魔物の飼い主」
「そんな人の言う事を信じてるの? あなたは。敵の言う事を? 有り得ないわ」
「嘘を言っているようには思えない」
「自分の感覚を信じてるっていうの? そんなあてにならないことを」
確かに母親の言う事もわかる。でも聖彩は、アリスが嘘を言っているようには思えなかった。
「やってみないとわからない……!」
聖彩は母親にそう言った。
「そうだな。やってみないとわからない」
そんな声がした。
そして、ある男が病室に入ってきた。
その人物は、聖彩の父親だった。
「やってみないとわからないぞ。それに、治せる方法で筆頭に上がるのは回復魔法だ」
「お父さま……」
父親は聖彩をフォローした。
「回復魔法のことは剣士団本部に学院から連絡が行ってるらしい」
「そうなんだ……」
それは聖彩でも初耳だった。
「あのー」
その時、また違う誰かが病室に入ってきた。今度は女の人だった。
「どちらさまですか……?」
聖彩の父親はそう聞いた。剣士団のエンブレムが付いている服を着ているから、無理に追い出したりはしなかった。
「えっと……本部から頼まれて来ました。辺境剣士団でヒーラーやってます。二級貴族、友井有星です」
その人物はそう自己紹介をした。
「確かに頼みましたけど……辺境……?」
「はい。辺境です」
確かに辺境と聞いただけでは、何も知らない人は不安になるだろう。
「だ、大丈夫なんですか……?」
聖彩の父親は申し訳なさそうにそう聞いた。
「辺境には悪性魔物がたくさんいます。悪性魔物の毒を解くのには適任だと思いますけど……?」
友井はそう返した。
「まあ、あとは任せてください」
友井はそう言って聖彩の座っているベッドの前に椅子を持って来て、聖彩の前に座った。
「えっと……」
聖彩は今から何が起こるかわからないことから、不安になってきていた。
「ご両親は一旦病室から出てもらっていいですか? 私の魔法は企業秘密なので」
友井がそう言い、二人は病室を出ていき、病室は聖彩と友井の二人だけになった。
「じゃあ、行きますね」
「は、はい……!」
友井は不安そうな聖彩の顔の痣の辺りに手をかざした。
「術式構成――ポイズン・ブレーク」
友井がそうそう言うと、聖彩の痣がみるみるうちに消えて行った。
「よしっ……消えたよ」
友井はそう言い、空中に円を描いてそこに氷を張り、聖彩に差し出した。即興で作った鏡だった。
聖彩はそれを受け取って覗き込む。
「えっ……消えてる……」
聖彩は痣が消えていることに驚いていた。
「多分、あなたが戦った魔物は、人造の悪性魔物・ダークブラックウルフ……だと思う。半年前に辺境で見つかったけど、もう辺境では珍しくない悪性魔物。でも、何でそんなのと遭遇したの?」
友井は聖彩にそう聞いた。
「学院のミッションで……二人で討伐するっていうので、剣士と戦って、その剣士の使い魔……だったと思います」
聖彩は、毒の影響だったのか、戦闘の時の記憶が曖昧になっていた。
「えっ……二人で、闇の剣士と……? しかも、学生が……?」
「いや、でも、王国剣士団の剣士が援軍に……」
「それでも、おかしいと思うよ。剣士とはいえ、前線に出てくるような剣士。しかも、使い魔持ちだなんて。学生がどうにかできる相手には思えない。今回は良かったけどさ……」
友井はそう言う。辺境という最前線にいるからこそ、わかるようなことだった。
「今年の王国高等剣士学院の上級二年は優秀だって聞くけどさ、いくら優秀って言っても、おかしいと思う。……まあ、私は戦わないからわかんないけどさ」
友井はそう付け加えた。
「あの、」
「ん?」
「友井さんって、剣士……なんですか……?」
聖彩は疑問に思った。剣士団に所属しているけど、ヒーラー。剣士団の募集役職は名の通り剣士。あまり意味が解っていなかった。
「……いや、私は剣士じゃない。魔術師……かな……? 戦えない代わりに、高度な回復魔法を扱う」
「そう……なんですか」
聖彩はなんとなく理解したが、ここまで剣士団に関わって来て、目指してきて、初めてその役職の事を知った。
「私たちは剣士になれなかった落ちこぼれ。でも、精一杯のことをする。そんな役職だよ。まあ、あなたには関係ないか」
友井は自虐ネタのようにそう言った。
「いや……その……ありがとうございました」
「いいんだよ。そういう仕事だから」
それ以外にできることがない。だからこその友井の言葉だった。
「あと、」
「ん?」
「辺境って、そんなに危ないんですか……? 悪性魔物が沢山いて……」
「中央に配属されるあなたには関係ない事。少なくとも私からは言えない。知りたいなら、配属後に上司にでも聞いて。じゃあね」
友井は強制的に話を打ち切るようにそう言って、病室を出て行った。
どうやら聖彩は聞いてはいけないことを聞いてしまったようだった。




