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第五十八話 ペアミッション10

  ◇◇◇


「やっぱり。こんなことかと思ってたわ」

「え……?」


 上級二年最下位の二級貴族・一枝いちえだ聖彩せいらと、上級二年貴族男子最弱の三級貴族・下浦しもうら玲誠れいせいという上級二年の貴族最弱ペアであっても、例外なく二人も扉の前に飛ばされていた。


「甘く見られてなきゃいいけど」


 聖彩はそう呟いた。


 最弱ペアとはいえ、上級二年に上がってきたくらいの実力はある。上級二年は一級貴族が秀でているだけで、それ以下はそう大差ない。

 だから、こういうミッションで甘く見られたくはない。そういう気持ちが聖彩にはあった。


「聖彩さん……怒ってる……?」

「君は悔しくないの? 実力を甘く見られて、他の人と差別されるなんて」

「うーん……俺の場合、実力が劣っているのは本当の事だし……三級貴族だし……」


 玲誠は確かに劣っていると言える。本人もそれは自覚していた。


「でもさ、私があんなんじゃないってことは、みんな知ってるし……」

「一年の時って、やっぱ手抜きしてたんだ……」

「まあね。誰が相手になるかわかんなかったし」


 聖彩は、入学前から二級貴族ではトップの実力を持っていて、一部では一目置かれていた。

 でも入学してみると、そんなに強いとは思われなかった。実際、そんなに強くなかったという印象が強かった。

 でも本当は強くて、一級貴族に一番近い二級貴族という家柄に恥じない強さを持っていた。


 真実を知っているのは本人とグループメンバーだけ。だから玲誠は何も知らない。でも本当は強くて、それを隠しているのではないかと疑ってはいた。


「相手……あ、やるの? 決戦」

「うん。みんな知ってると思ってた」

「俺、父さんと仲悪くて。だからだと思う」

「なるほどね」


 一枝家もまた、日和家と同じように貴族の決戦をするようだった。年が変わってからそういう情報はじわじわと広まってくるものだが、玲誠はまだ知らなかった。まあ、玲誠に限らず、他の人たちもほとんど知らないと思われる。


 その時、二人の端末にメッセージが届いた。


「ん……?」


 二人はそのメッセージを確認する。


「『闇の剣士を殺害せよ』か……」

「文字列が怖いって……」


 二人に与えられたミッションは闇の剣士の《《殺害》》。

 確かに『殺害』という字だけを見れば怖く見える。でもやっていることは他と変わらない。何でここにだけそう書いたのかはわからない。


「『剣士団の担当剣士が援軍に向かうが、待てない者は先に入ってもよい。ただし、危険が伴うため、よく考えること』って……やっぱ甘く見てるでしょ……!!」


 聖彩は怒り気味ににそう言った。


「ま、まだ学生だしさ……」


 玲誠は聖彩にそう言って落ち着いてもらおうとする。


「学生って言ってもさ、みんな王国剣士団に就職が決まってるわけだし。ここに集まるみんなは、国でトップの剣士見習い。見習いって言っても、そこら辺にいる剣士よりは強いはずでしょ。それなのに……」

「これって、みんなそうなのかな……俺たちにだけ……なんてことはさすがにないと思うけど……」

「まあ……そっか……」


 聖彩は納得して落ち着いたようだった。


「じゃあ、一級貴族の三人でもキツイような相手ってことなのかな……」


 聖彩は冷静になって考え、そう呟いた。


「えぇ……そんなの、俺に……」

「私はあの人たちがギリギリでも行けると思ってるよ」

「おぉ……」


 玲誠は聖彩の自信に圧倒されていた。


 でも、ミッションを与える側も、絶対にクリアできない絶望的な状況に陥るようなミッションは与えない。そんなの、新人育成には不要だからだ。


 玲誠は冷静になってそのことになんとなく気が付いた。


「でも、どうするの……? 待つ……わけないか」

「まあね。玲誠が嫌ならやめるけど」

「いや、聖彩さんが行ける自信あるなら、俺が止める権利は無い」

「そう言われると自信無くなるんだけど」

「……ごめん」


 聖彩の気持ちもわからなくないが、少し理不尽な気もする。


「まあ……入るよ。いいね?」

「う、うん」


 そして聖彩は扉の真正面に立ち、両手で扉を力一杯開けた。


 その扉の先にはすごく広い空間が広がっていて、その奥の方の床に座っている人影があった。体勢からして眠っているように見えた。

 その空間に扉が開く重い音が響き渡り、座っていた人物は目覚めてゆっくりと立ち上がった。


 聖彩と玲誠はその空間に足を踏み入れ、その人物のことを見つめる。

 その人物が恐らく例の闇の剣士だろうと二人は考えた。


「あ、あなたたちは……? ここの人たちとは違いますよね……? でも、私の味方でもない……」


 闇の剣士はそう言った。


「私たちは王国高等剣士学院の生徒よ」

「が、学生さん……? ただの学生が何でここに……?」

「ただの学生なんて思われたら困る。国で一番の学院で一番優秀なクラスにいるのよ」

「そうですか」


 聖彩は闇の剣士に向かってそう言った。

 闇の剣士はそこまで驚いたり怖がったりはしていない。聖彩はそんなことは予想済みだったのだが。


「あなたたちは私を処刑しに来たんですよね、どうせ」

「ええ」

「だったら、一対一でやりましょう。一対二なんてフェアじゃないですからね」

「……わかったわ」


 聖彩は一瞬考えたが、ミッションをこなすことが今回の目的。それならこの勝負を断るわけにはいかなかった。


「あ、一つ聞いていいですか?」

「ええ」

「私と同時に捕らえられた、ライリーという騎士を知りませんか?」

「ら、ライリー……?」


 聖彩にはもちろん聞き覚えなどない。捕らえるのも、その後のことも、王国剣士団の仕事であり、子供がそんなことに首を突っ込むことはない。いくら二級貴族の聖彩でも知るわけもなかった。


「……申し訳ないけど、私は知らないわ」


 聖彩は素直にそう答えた。


「そちらのあなたは……?」


 闇の剣士は玲誠にもそう聞いた。


「……お、俺も知らない」


 聖彩が知らないのに、玲誠が知るわけも無かった。


「そうですか……」


 闇の剣士は悲しそうにそう呟いた。


「私はアリスと言います。……勝負です!」


 闇の剣士・アリスは、聖彩を真っ直ぐ見つめてそう言った。


「私は二級貴族、一枝聖彩。受けて立ちます」


 聖彩はアリスにそう言い返す。


 そして二人は同時に剣を腰の鞘から引き抜き、正面に構えた。



 玲誠は不安だったが、自分ができることは何もないと、見ていることしかできないことはわかっていた。だから、玲誠はどうにか不安を押し殺して戦況を見つめることにした。



「はぁーっ!」「あーっ!」


 二人は同時に向かって行き、剣が甲高い音を立ててぶつかり合った。


「っ……」


 二人はこのまま押し合っていても無駄だと考え、お互いに一旦距離を取った。


 アリスは、さすが捕まるような場所にいる剣士なだけあって、かなりの強さだと聖彩は直感的に思った。それと互角に戦えている聖彩もすごいが。


 そして二人は再度向かって行き、何度も攻撃を繰り返し、そのすべての攻撃を防いでいった。

 どちらが攻撃してどちらが防御したのかが全く分からないほどの素早い攻防が繰り広げられた。


 その末、お互いに左手首に傷を作ったところで再度一旦距離を取った。


「結構……強いのですね……」

「あなたこそ……」


 お互いに息が上がりながら、そう言い合った。


 聖彩はこうやって言葉を交わしている間でも、追撃の機会を窺っていた。


 聖彩は、多少強引ではあったが一気に距離を詰め、アリスに襲い掛かった。


 アリスは何も抵抗できずに、聖彩に腹部を刺された。


 聖彩は素早く剣を抜き、後ろに下がって距離を取った。

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