第五十七話 ペアミッション9
ドラゴンは風音に爪を向け、永亜を一気に切り裂こうとした。永亜はそれを前にローリングして、ギリギリのところで避ける。
そして永亜はドラゴンの方に向き直る。そこで永亜は風音が怪我を負っていることに気が付いた。
ドラゴンはそんな永亜にも容赦なく炎を吐き、永亜はまたもやギリギリでそれをかわす。
炎は永亜を追って動き、永亜はそれから逃れるようにドラゴンの周りを回って行った。
風音の前も通り過ぎ、永亜はさっき背後を取った時に着地した地点辺りで止まり、永亜は屈んだ状態で、剣を持った右手を床に突き、何かの力を込めた。
すると、永亜が剣を抜いてから通った場所から炎が噴き出し、ドラゴンの周りを檻のように囲った。
そして永亜は風音に駆け寄った。
その炎の檻は、風音が避難する時間を稼ぐためのものだった。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……なんとか……」
風音はまだ受け答えができるような状態ではあった。
「とりあえず、一旦後ろに下がれ」
そう言って永亜は風音を支えながら扉の前に連れて行った。
「痛みが落ち着くまでそこにいろ。落ち着いたら代われ」
「わかった……ごめん、永亜」
「謝るな。当然のことだ」
永亜は真剣になったからなのか、頼もしい口調で風音にそう言った。
幸い、風音は血は出ていなくて、簡単に言えばただの打撲のような感じだったので、永亜はそういう指示を出した。
風音は早く前線に戻ろうと、必死に痛みを堪えて、抑えようとした。
一方永亜は、風音に背を向け、何倍もの大きさがあるドラゴンに正面から向かい合っていた。
ちょうど炎が消え、それと同時にドラゴンは炎を吐く感覚で水を吐いた。
永亜は水が届くよりも前にドラゴンに向かって行って水を逃れ、ドラゴンの前で踏み込んで跳び上がり、ドラゴンの腹に×印のような傷をつけた。
そしてその傷から、大量の血が溢れ出した。迫ってくる水もあって、どう血を避けようか一瞬で判断し、ドラゴンの股の下をすり抜けて水も血もかわした。
何で血を避けようと思ったかは、単純に浴びたくなかっただけだ。
ドラゴンは片手・片膝をついてしまっていた。さすがに痛みを感じているみたいだった。それでも、こんな簡単に倒せるはずはないので、気は緩められない。
「次は何が来るんだ……?」
永亜がそう呟いたのとほぼ同時に、風音の痛みが治まり、風音は×印の傷の少し上の辺りを横一文字に切り裂いた。
そしてその勢いのまま縦にも傷を刻み込み、十字の傷となった。
その十字の傷からもかなりの量の血が流れ出て、風音はそれを後ろに跳んでかわす。
「大丈夫みたい……」
風音は怪我がそこまでではないと思った。
だが、実際は全然大丈夫ではない。
風音がドラゴンを斬っている間に、永亜は正面に回り込んで風音と合流した。
「もう大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫」
永亜は風音を心配していたようだった。
「どうする?」
「まだ倒れそうにはないな……」
「じゃあ、もうちょっと攻める?」
「そうだな」
さっきに比べると、傷口から溢れる血の量は少なくなっている。最初の計画通り、失血死を狙うなら、もう少し傷をつけないといけないということになる。
「俺が引き付けるから、その間に頼んだ」
「わかった」
二人はそう言い、剣を構えた。
ドラゴンも体勢を立て直し、炎を吐いた。その炎は、真っ直ぐ永亜を捉えていた。
永亜は真正面から炎を受け止めて防いでいる。ドラゴンは火力を高めていき、段々炎の色が青く変わって行った。
永亜が防いでいる間に、風音は少し跳び上がってドラゴンの足に五連撃を入れる。そして一旦着地した後もう一度跳び上がってさらにもう五連撃。風音は出せる最大の速度で連撃を決めた。
風音がもう五連撃行こうかと考えたところで、ドラゴンの足が動いて風音は踏みつぶされそうになり、風音は後ろに跳んで戻った。
「危なかったぁ……」
風音はそんな声を漏らす。
炎ももう止まっていて、永亜は大分消耗はしていたが、なんとか防ぎ切って持ちこたえていた。
「大丈夫……? 永亜」
「ああ……大丈夫」
風音は永亜の状態を確認する。
「そろそろ決着つけるべきか……?」
「僕はそろそろいいと思うよ」
二人の状態を考えても、早急に決着は着けた方がいいと思われる。二人ともそれはわかっていた。
でも、まだドラゴンは倒れそうにない。あとどれくらいやればいいのか、二人に検討がつかない。
「行くか……」
風音はそう呟き、一気にドラゴンに迫って行った。
風音の剣は白色のエフェクトを纏っていて、速度も普通よりはかなり上がっているように見えた。
風音はアサルト流の技、「光色」を発動させていた。
そして風音は踏み込んで跳び上がり、ドラゴンの心臓辺りに攻撃を当てた。
だがその瞬間、ドラゴンの手が風音を捉え、さっきと同じように吹っ飛ばされてしまった。
「うっ……」
その間に、今度は永亜がスミレ流の「炎射」を仕掛け、ドラゴンは不意を突かれてかなりのダメージを受けた。
だが、永亜の攻撃はそこまでで、それ以上は無かった。それだけじゃ、まだ完全に倒すことはできなかった。
その瞬間、閃光のように風音がドラゴンに無数の連撃を仕掛け、それが終わったころにはドラゴンは息絶えていた。
若干オーバーキルとも思えるが、それもしょうがないことだろう。
風音の流派は連撃型。流派の技を連撃に移行することは容易だった。あんな何連撃したかもわからないくらいの連撃数になったのは、単純に風音の馬鹿力といったところか。
そのおかげか、風音は倒れたドラゴンの上に倒れ込んだ。
「風音……!」
永亜はそう叫んで風音に駆け寄って行った。
風音の息はまだ続いていて、ちゃんと生きてはいるようだった。一時的に気を失っているだけだったが、永亜はすごく心配した。
風音の意識は数分後に戻った。それとほぼ同時くらいに、例の応援の剣士団の剣士が来ていた。
「風音、大丈夫?」
「う、うん……僕……」
「流派の技を連撃にして、やりすぎて意識不明。何かすごいよ」
「あ、あぁ……」
風音は結構やばいな……と自分でも感じた。
「でも、勝ててよかったよ。風音のおかげ」
永亜はそう言って立ち上がった。
「え、あ、うん……」
「ありがと」
ぎこちない返事をする風音に、永亜はそう言って手を伸ばす。
風音はその手を掴んで立ち上がった。
二人とも致命傷となる怪我を負わなくてよかったと内心安心していた。




