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第五十六話 ペアミッション8

  ◇◇◇


「何なんだか……どこだよここ」

「行くところは見え見えなんだけど……」


 二級貴族で上級二年十四位の上田うえだ永亜とあと、宮職平民の神代かみしろ風音かざねの全く関係もなさそうな二人のペアもまた、他の人たちと同じように、いきなり扉の前に飛ばされていた。


「どうする?」


 永亜は風音にそう聞いた。


「えっ?」


 風音は、まさか聞かれるとは思っていなかった。まず、話しかけてくれるとは思っていなかった。

 永亜は風音が思っているよりも優しかったようだった。


「何驚いてんだよ」

「いや……僕……平民だし……話しかけられて……びっくりしたっていうか……」

「何で告白する時みたいな顔してんだよ。そもそも、実戦で連携しない方がバカ」

「まあ……そっか」


 風音は永亜の意見に納得した。


「あと、苗字からして宮職平民だろ?」

「う、うん……」

「宮職って、大変だよなーって。俺たちも、結構世話になる。家も貴族より厳しそうだし」

「そ、そうかな……?」


 風音はそういう環境で育ってきたから、他との違いはわからない。そんなに他の家のことまで知らないというのもあるが。


「昔、礼儀とか言葉遣いとか、すごい直されてる子がいてさ、別に悪いとか変だとは思わなかったし、二級貴族の俺はそんなに言われたことないしなーって」

「え……」

「ん?」


 風音はそれに心当たりがあった。


「それ……僕かも」

「え?」

「うちの神社、よく剣士団の人が来てた。それもあってなのか、礼儀とか厳しくて。他の神社の家よりも厳しいって有名だった。僕……一時的に一人称が『俺』だったことあって。でも、めっちゃ怒られて。それで、僕は継ぎたくないって思った」

「そうなんだ……」


 まさかそんなところで会っていたかもしれないと考えると、世間は狭いんだなぁ……と感じる。


「でも、大丈夫なの?」

「え?」

「宮職って、よっぽどのことが無いと途絶えさせちゃダメなんだろ?」

「そうだけど……弟いるから、多分大丈夫」

「そうなの?」

「弟は素直で、礼儀とかもちゃんとしてる。継ぐ気もあるみたいだし。もう任せたー! って感じで」

「へぇ……」


 二人がそんな話で盛り上がっていた時、二人の端末にミッションの詳細が入ってきた。


「おっ……」


 二人はそれぞれの端末を覗き込んだ。


「『水性ドラゴンを討伐せよ』か……」


 永亜がそう呟いた。

 それが二人に与えられたミッションのようだった。


「水性ドラゴンって、あの時の……?」


 風音が質問するかのようにそう呟いた。


「……ああ」


 永亜は短くそう答える。


 風音の言う『あの時』というのは、今年やったグループサバイバルの時のことを指している。


「炎と水、どっちの攻撃もしてくるから厄介だった記憶がある」

「うん。僕もそれはある」

「だよなぁ……」


 永亜は端末の画面に続きがあることに気付き、スクロールしていった。


「あっ……」


 永亜はそんな声を漏らした。


 ちょうどどこに書いてあったのは、『剣士団の担当剣士が援軍に向かうが、待てない者は先に入ってもよい。ただし、危険が伴うため、よく考えること』という文章だった。


「どうする……?」


 風音もその文を見たようで、永亜にそう聞いた。


「何かこの文見ると行きたくなるよなぁ……」

「だよね」


 風音と永亜の意見は一致していたようだった。


「自分の力を本当に試すなら、だれにも頼れないような状況の方がいいと思う」


 風音はそう言った。


「まあ、宮職平民から国の最高峰であるこの学院に入ってきたっていう風音のこと信じるよ」

「う、うん……」


 そう言われるとすごく緊張してくる。っていうか、今『風音』って呼んだ……


「あれ、風音って呼んじゃダメだった……?」

「いや、いいんだけど……」

「わざわざ敬称を付けるのは効率悪い。俺の事も、永亜でいいから」

「わ、わかった……永亜」


 そして二人の連携も取れるようになって、決意も固まったところで、二人は扉に手を乗せた。


 開けるだけでも一苦労しそうなくらい重そうな扉。この奥に何が居るのかが伺える。


「行くよ」

「うん」

「「せーのっ!」」


 二人は同時に片方ずつ扉を開けた。


 何かを引きずるような音が空間に響き渡り、二人の視界には、横幅も高さもそうとう大きい空間が広がっていた。

 床や壁は同じような暗い色。壁にランタンが掛けられているから、その暗さは感じないが。


 そして扉が開く音で気付いたのか、ドラゴンはゆっくりと起き上がる。だが、首についている鎖のおかげで完全に起き上がることはできなかった。

 その状態で、ドラゴンは何かを感じ取ったかのように激しくもがいた。

 それによって鎖が粉々に壊れ、ドラゴンは大きな雄叫びを上げた。


 二人は剣を鞘から引き抜き、それぞれ構える。


「多分、俺の流派の技はドラゴンに効果が薄い。だから、少しずつ傷つけて、失血死を狙おう。自分たちの怪我は、最小限に。多分、一つの怪我でも致命傷になる」

「わかった」


 永亜は風音にそう指示し、風音はそれを素直に受け入れた。


「決め打ちするにしても、それは風音に任せる」

「了解」


 二人がそう言葉を交わすと、ドラゴンは勢いよく炎を吐いてきた。


 二人はそれぞれ左右に移動してその炎をかわし、ほぼ同時にドラゴンに向かって行った。

 ちなみにそのタイミングを合わせたわけではなく、たまたまのことだ。


 そして永亜はドラゴンの右足を一気に切り裂いていった。その傷は、一撃にしてはかなり大きな傷だった。まあ、ドラゴンの大きさを考れば、小さな傷なのかもしれないが。


 一方風音は反対の左足に素早く一度に三連撃続けて決め、永亜と同じ程度の傷を作った。


 それぞれ、自分の戦い方で戦っていた。


 二人ともドラゴンの後ろ側に抜け、ドラゴンの背後を取った。

 そこをチャンスだと思った永亜は、走り込んでジャンプし、ドラゴンの背中に横一文字の傷をつけた。それでも、傷をつけられたのは背中の三分の一くらいだったが。


 その間に、永亜と同じ行動にまで至らなかった風音に、ドラゴンの尻尾が迫る。

 逃げ場を失った風音は、跳んでかわすこともできず、尻尾の攻撃をあっさり受け、壁に打ちつけられてしまった。

 一応、剣を前に構えて尻尾本体からも攻撃は少し和らげられていたものの、壁に打ちつけられたダメージは抑えきれなかった。


「くっ……」


 床に落下した風音は、痛みで一時的に動けなくなった。


 永亜はそんなことは知らず、ドラゴンの正面側に回り込んでいた。

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