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第五十四話 ペアミッション6

 ◇◇◇


「何だ……? ここ」


 飛翔はそう呟いた。


 飛翔もまた、例の扉の前に転移させられていた。


 飛翔のペアは、二級貴族の藤田ふじた希來きら。飛翔が平民なことから、やりにくいことは明白だった。


 希來は、飛翔の呟きを無視し、冷静にこの状況を考察していた。


「何をするべきか……何も知らない状態でやる……そういう感じなのか……?」


 希來は考察結果を呟いた。


「そんなこと……」

「あるかもな」


 さりげなく意思疎通していた。


「今回は呼びタメいいよ」

「え、ほんとに?」

「今回だけだからな」


 希來は、貴族制を適応したままだと支障が出ると予測し、念を押した上でそう言った。


「それで、この扉の中かな、行くとことしたら」

「恐らくな。目の前に扉があるのに、わざわざ暗い道を進んで行ったりはしない」


 飛翔はすぐに順応していた。この速さには希來も少し引いていた。

 飛翔は普段から一級貴族の文人や三級貴族のまろんと普通に喋っているから、普通に話すということに抵抗が無かっただけだが。


「入るか?」

「希來に任せる」


 あくまでも希來が上だということを飛翔はちゃんと理解していた。


「じゃあ、入ろう」


 希來は迷う間もあまり無くそう言った。


 飛翔はそれに頷き、扉に手を当てた。

 それを見て、希來も扉に手を当てた。


「行くぞ」

「うん」


「せーのっ」


 二人は声をそろえてそう言いながら、扉を開けた。扉はとても重く、最後には両手で開ける羽目になった。


 扉が開く音が、その奥の空間にすごく響いているのがわかる。扉の奥の空間は、扉の外よりも天井が高い空間なのだろう。

 希來は瞬時にそう考察した。


 重い扉を開け、二人が中に入ると、その空間には他の生命体がいた。


 その生命体には首輪が付けられていて、その首輪は鎖で壁に繋がれていた。


 今の二人の位置だと襲われる危険性はないが、倒すのが目的だと希來は予測した。


 その生命体は、明らかに人間ではなかった。二足か四足かも現状ではわからない。

 鎖から逃れようと唸り声を上げながら暴れているが、鎖が切れる気配はない。


 常時暴れているという可能性は低いので、二人が入ってきたことにも気づいていて、そのせいで暴れているという可能性が高い。生命体は、二人を殺して食おうとまで思っているかもしれない。


 危険と言えば、危険だった。でも、危険じゃないものは今回は無いだろう。いきなり変なところに放り出されたわけだし。


「あれ、何だ……?」


 飛翔はそう呟いた。


「恐らく、ゴブリン」

「ゴブリン……!?」


 飛翔は、あんなのがゴブリンだとは思わないだろう。


 飛翔の記憶の中のゴブリンは、一年の進級テストで竜の卵の在り処を教えてくれたあのゴブリンだ。今目の前のゴブリンはとても狂暴そうに見える。驚くのも無理はない。


「体格や大きさからして、おさだろ。長じゃなくても、それくらいの強さは持ってると思う。捕らわれてるなら元長だしな」


 希來はそう続けた。


 希來の中には、ゴブリンの長と戦った時の記憶がある。グループサバイバルの時のことだ。希來はその時に、グループの代表で崖を登り、そゴブリンの長と戦った。


 その時よりも狂暴化していることから、希來はそれよりも強いと予測していた。


 でも、その時戦った長に入っていた古傷が、このゴブリンには無いことから、その時のゴブリンではないことはわかっていた。


「おそらく、こいつを倒すことがミッション」

「えっ」


 希來はこの空間のミッションになりそうなものが他に無さそうだから、そう言った。


「わかった」


 飛翔はすぐにそう言った。動揺は一瞬だけみたいだった。


 そして飛翔が一歩前に出ると、何かを踏みつけた音がした。


 踏みつけたものは、ただの紙だった。


 それを拾い上げて見てみると、そこには、鎖の外し方が書かれていた。


「希來」


 飛翔は少し前に進んでいた希來を呼び止めた。


「ん?」

「これ。なんか落ちてた」


 希來は扉の方に戻ってきて、飛翔の持っている紙を覗き込んだ。


「なるほど……」


 希來は紙を見てそう呟いた。


 解除方法は、センサーを作動させること。だから、巡回時はセンサーを作動させないように注意しろと書かれていた。


 だが、具体的なセンサーの場所は書かれていなかった。


 今みたいに紙が落ちていて、そこから飛ばされて、情報が漏洩するのを防ぐためだろう。

 わかりにくいところにあるのか、どうなのかわからない。

 解除方法は、結局わかったようでわからないようなものだった。


 ただ、鎖に繋がれたままだと暴れ続けるため、解除した方がやりやすいと希來は思っていた。

 鎖で動かないなら繋がれたままの方がいいが、そう簡単には行かないものだ。


「センサーって、どこにあると思う? 飛翔は」

「うーん……暴れてることを考えると、その近くにはないと思う」

「だよな……」


 それは誰でもわかることだ。


「わざわざ、引っ掛かりやすいところにはないとも思う」

「そうだな……」


 それもわかる。紙に書いてあるから、違う可能性もあるが。


「天井とかかな」

「天井?」

「わかんないけど」


 希來は悔しいが『なるほど……』と思ってしまった。


 そして希來は、その空間の中央に向かって行った。その中央で上を見上げると、ちょうどその上の辺りに剣士団の紋章があった。


「何するつもりなの? 希來」

「え? あ、センサー、作動させようと思って」

「は、外すの!?」

「もちろん。繋がれたままで暴れられた方が危ないだろ。向かってきてくれた方がやりやすいし」

「なるほど……?」


 飛翔は希來に任せる方針で、その作戦に了承した。


「とりあえずじゃあ、――――――――」


 希來は飛翔に作戦内容を伝えた。飛翔はそれに頷いた。


 そして希來は飛翔の隣に自分の剣を置き、そのまま飛翔と距離を取った。


 そこから希來は飛翔に向かって走って行った。

 一方飛翔は、膝をついてしゃがんだ状態で、希來の剣を横に構えていた。


 希來は飛翔が構えている剣に右足を掛けて踏み込んだ。その反動のように飛翔は剣を持ち上げ、それに合わせて希來はジャンプし、希來は真上に飛び出した。


 すると、剣士団の紋章の中心部分が光り、ガチャと音が鳴った。


 希來は体勢を整え、腕にも力を分散させながら上手く着地した。


 そのまま飛翔の方に向かい、自分の剣を受け取った。


 それとほぼ同時に、ゴブリンは一気に二人に向かってきた。


 人感センサーが天井にあるという二人の予想は当たっていたようだった。

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