第五十二話 ペアミッション4
◇◇◇
「柊璃、ここどこかわかるか?」
「……わかんない」
一級貴族宮瀬家の次男で次席というシルバーコレクターの宮瀬龍杜と、上級二年十位という平均的な二級貴族の藤井柊璃の普段から同じグループの二人もまた、例の扉の前に転移させられていた。
「どうする?」
「いやぁ……」
そりゃ、そうなるだろう。文人たちや、竜喜たちが合図無しに扉の中に入っていった方がちょっとおかしいだけだ。
「っていうかさ、俺たちって、いつもと変わんないよな」
「まあ……一緒にいるわけじゃないけど、同じグループだしね」
「うん」
どちらも本心は、いつもと違う奴とが良かった。と思っている。
でも、これが終わった時、その考えは変わっていた。
◇◇◇
「お、来た」
2人の端末に、ミッションの内容が入ってきた。
「『火性ドラゴンを討伐せよ』か……」
「ここに入れってことなのか?」
「そう……みたいだな」
2人は入る決心ができなかった。
「龍杜、どうする? 2人だけで、大丈夫なのかな」
「わかんない」
「だって、グループサバイバルの時、4人がかりでやっと倒せたのに」
「アイツって、倒さなくてよかったんじゃないの?」
「え、そうなの?」
「俺たちはそうしたけど。だって、目的は羽だし」
「そっか……確かに」
3人じゃ厳しいという判断の元だったが、それによって消耗を抑えることができたのは確かだ。
「え、でも、龍杜たちが一番最初に行ったんだよな? まさか攻撃しないで羽を取ったなんてないよな……?」
「ああ。もちろん、攻撃はしたよ。一瞬動きを止めて、そこで羽を取って逃げた」
「マジかよ……回復能力でもあったのか? ドラゴンって」
「わからない。もっと早く言ってくれれば調べたのに」
柊璃がそう聞いた意図は、龍杜のグループが最初に行ったはずで、でも、柊璃のグループが行った時、そのドラゴンはピンピンして傷一つなかった。そして、4人がかりでなんとか応戦して、勝利した。
だから、いつの間にか龍杜たちの時の傷が回復していることになる。となると、ドラゴンに回復能力がある可能性があった。
柊璃は龍杜が能力について何か知っているかもしれないと聞いてみたわけだが、龍杜は何も知らないようだった。
「なあ、下に小さく注意書きが……」
メッセージを眺めていた龍杜がそう呟いた。
メッセージをスクロールした先に小さく『剣士団の担当剣士が援軍に向かうが、待てない者は先に入ってもよい。ただし、危険が伴うため、よく考えること』と注意書きがあった。
「なるほど……」
「どうする? 龍杜」
「うーん……入ってみるか」
「わかった」
龍杜はなんとか行けるだろうと甘く考えていた。それもそうだろう。龍杜はそこら辺の奴とは違うという強い自信があった。それが裏目に出ないといいが。
「火性ドラゴンは、グループサバイバルの時の水性ドラゴンとは違う。それでも、高温の炎を放つ。だから、炎は避けること。大きさもかなりあるだろうから、他の攻撃でも避けていこう」
「わかった」
龍杜は素早くドラゴンの特徴を柊璃に伝えた。
「じゃあ入るぞ」
「わかった」
そして2人は扉を押し開け、中に入った。
中には、火性ドラゴンが丸くなって眠っていた。
火性ドラゴンは、2人の靴の音が響いたその音で目覚め、2人を睨んだ。
2人は睨まれているその目を合わせながら、剣を鞘から抜いた。
抜く音でさえも、広い空間に響く。静寂の中に響くその音は、戦いの始まりを告げる合図のようだった。
「行くぞ」
「おう」
龍杜と柊璃はそう合図し合った。それと同時にドラゴンも威嚇するように雄叫びを上げた。
そしてドラゴンは炎を2人に向かって吐いた。
2人はそれを左右に分かれてかわした。
この前は3人分の家の技でも仕留められなかった。しかも今回は2人。大変な戦いになることはわかっている。でも、こんなところで死ぬなんてことは有り得ないし、こんなところで苦労しているようじゃ、剣士団に入っても役に立たない。だから、援軍の力なんて借りたくない。
龍杜にはそんな変な意地があった。その想いは龍杜を本気にさせた。
炎をかわしたところで、まず動き出したのは龍杜だった。
龍杜は一歩踏み込み、加速し、ドラゴンに突っ込んでいった。そして跳び上がり、ドラゴンの脇腹の辺りを斬っていった。
そしてドラゴンの視線は龍杜の方に向いた。
ドラゴンは龍杜を腕で払いのけようとしたが、龍杜は軽い身のこなしでかわし、着地した。
柊璃はドラゴンがこっちを向いていないのを確認して、攻撃を仕掛けた。
剣をいつもの位置まで持って来て向かって行き、ドラゴンの少し前で踏み込み、上に跳び上がった。
静かに空気を切り裂いていった柊璃の剣は、青い光を纏い、ドラゴンの腹に横一文字の傷を刻んだ。
柊璃はノアル流の奥義である、『水光』を発動させていた。
柊璃は上手く着地し、ドラゴンの行動に注意を払いながら、ドラゴンから距離を取った。
ドラゴンは龍杜から視線を外し、柊璃の方を見た。多少痛がっているようだったが、それよりも柊璃に攻撃を仕掛けようとしていた。
龍杜はその間にドラゴンから距離を取った。
そしてドラゴンは、柊璃に向かって炎を吐いた。
柊璃は攻撃が来ていることはわかっていたが、動けなかった。奥義の反動を受けていた。
反動を受けているということは、まだ奥義を使いこなせないということだった。
文人や竜喜や龍杜が反動を受けている感じが無いのは使いこなせているからで、他のほとんどの上級2年は――最後の一手で使うことが多いから、あまり反動を受けている様子は見せないが――少なからず反動を受けている。一級貴族がイレギュラーなだけだ。
炎が柊璃に当たる寸前のところで、龍杜が柊璃と炎の間に入った。
龍杜が左手を伸ばし、その辺りで炎を防いでいるように柊璃は見えていた。
龍杜は父から小さい頃に教えてもらっていた魔法を、始めて人前で使った。
その魔法は電気で膜を張り、魔法などを防御する魔法だった。
龍杜の父はその魔法が得意なことで有名だったが、子供に教えていたことは誰も知らないし、文人の能力のように、隠そうとしていた。
柊璃はその魔法なのかとピンと来ていた。




