第五十一話 ペアミッション3
再度、2人の剣がぶつかり合った。さっきのような音を立てたりはしなかったものの、かなりの力がお互いにかかっていた。
その瞬間、騎士が竜喜の剣を押し切って払いのけ、竜喜は防御が取れない状態になった。
竜喜は素早く後ろに跳んで下がった。
さすがにこんな簡単に押し切られるとは竜喜は思ってなかった。でも、それだけの実力を持っているような強敵であることを確認できた。
文人と真剣で戦ったことは無いが、文人と同じくらいかそれ以上の実力を持っていると、竜喜は見積もっていた。
そして騎士は竜喜に攻め寄った。
騎士は横一線に剣を振った。
竜喜はそれを前にかがんでかわし、カウンターを仕掛けた。
竜喜の剣は騎士の腹を横一線に斬り去った。
でも、騎士もただ斬られるわけもなく、竜喜の左腕に深い傷を残した。
そして2人は一旦距離を取り、しゃがみこんだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
竜喜は必死に痛みに耐えていた。
「竜喜……!」
継がそう叫んで、駆け寄ろうとした。
「動くな。近寄るな。下がってろ」
竜喜は継にそう言い放った。継はそれ以上言い返すことができなかった。
竜喜は立ち上がり、剣を拾い上げた。
騎士もほぼ同時くらいに立ち上がった。
「なかなか強いね……これは是非とも国に持ち帰りたいところだ」
「こっちは逃がすなんて一言も言ってないぞ」
「君は馬鹿なのかな? こっちは何にも縛られていない。逃げようと思えば、いくらだって逃げられる。どうせ、見張りなんて大した奴いないだろ」
「……馬鹿って言ったこと、後悔させてやるよ」
「ほう。やってみろ」
そして2人は再度加速し、攻撃を仕掛けた。でも相打ちで、お互いの剣がぶつかり、激しい音を立てた。
継は、その2人がとても怪我をしているとは思えなかった。
「……ぁぁぁぁっ!!」
竜喜は雄叫びと共に騎士の剣を押し返しながら振り払った。
そしてがら空きのところに、さらに攻撃を仕掛けた。
騎士はその攻撃に素早く反応し、なんとか防いで、再度押し合いに持ち込んだ。
このままじゃ死にかねない……いつ斬られてもおかしくないし、左腕に傷を負ってる時点で押し合いは不利だ。相手は傷には慣れているだろうし……どうしたらいいんだ……?
竜喜はそんなことを考えていた。押し合いながらまだ考えられるだけ余裕はあるが、それも時間の問題だろう。
竜喜は覚悟を決めた。ここで死ぬことも覚悟で、最悪相打ちで共倒れになってもいいという考えで、竜喜は動き出した。そうでもしないと、とても勝てそうにはなかった。
竜喜は剣の先端を前に押し出し、相手の剣の上を通した。そしてその時に久遠家の技、『氷河』を発動させた。
家の技のおかげか、竜喜の剣は騎士のプレートアーマーを貫き、騎士の心臓を貫いた。
それと同時に騎士も勢いそのままに、竜喜の方に剣を押し込み、竜喜の胸の辺りを斬った。こっちは剣が横向きだったのもあって、貫かれたりはしなかった。それでも、かなりの傷だった。
竜喜は騎士の剣に吹き飛ばされ、後ろに倒れ込んだ。それに伴って、騎士の心臓を貫いていた剣が抜け、そこから血がさっきよりも激しく溢れ出した。
2人はどちらも地面に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
竜喜は痛みに耐えながら、息を整えようとした。でもそれは、難しいことだった。
「竜喜……!!」
継がそう言って竜喜に駆け寄ってきた。
その時、何かが金属音が擦れるようなを立てた。竜喜はそれを確認することはできなかったが、なんとなく何が起きているか予想ができた。
――騎士は、まだ攻撃をしようとしてきている。
それが竜喜の頭に真っ先に浮かんだことだった。
そしてそれは当たっていた。
継は竜喜に近づいたところで、それに気づいた。でも、継は何も考えずに移動していたこともあり、すぐに剣を抜ける状態ではなかった。
騎士は竜喜を狙っていたが、すぐ近くに継がいて、継も危ない状況にあった。
「あっ……」
継は真っ先に頭を回転させた。どうしたら、この状況を打開できるのか……
考えること約2秒。継は動き出した。
少し離れたところに落ちていた竜喜の剣を拾い上げ、うまく対応させて騎士の剣を受け止めた。
騎士は動いたことによる傷の痛みに顔をしかめた。
力が抜けたその瞬間、継は騎士の剣を振り切り、追撃をした。
騎士は後ろに倒れ、動かなくなった。
「竜喜……大丈夫か?」
「……う、うん。なんとか」
「絶対大丈夫じゃないよな……それ」
「まあ……な」
竜喜は体を起こそうとするが、厳しそうだった。
「アイツは……?」
「……闇の騎士は死んだよ」
「そうか……」
その時、その空間の閉ざされていた扉が開いて、誰かが入ってきた。
「えっ……?」
継はそのこと自体に驚いた。それに、入ってきたその男の事を、継は知らなかった。
「大丈夫か!」
そう言ってその人は中に入って来て、2人に近寄った。
剣を持っていて、どうやら剣士のようだった。近づくにつれ、胸に付いていた紋章が見えた。それは確実に剣士団のものだった。継の父も付けていたものだから、そこはわかった。
「竜喜、大丈夫か?」
その男は、真っ先に倒れていた竜喜の名を呼び、気にかけた。
「父上……」
竜喜はその男のことを、『父上』と呼んだ。
「父上……?」
「ああ。私は久遠家当主の久遠正一だ」
「は、はぁ……」
継は驚いていた。まさか、そんな人が、わざわざこんなところに来るなんて。
「君は、大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
「そうか……こっちは大丈夫じゃないみたいだな……」
竜喜は正一の言うように、大丈夫ではなかった。意識があるんだかないんだか……そんな状態だった。
「えっと……君、名前は?」
「く、倉本継です」
「そうか。継くん、君は竜喜を抱えてここを出ろ。出れば、剣士団の者がいる」
「わかりました」
そして、今一番近い出口を教えてもらった。そこは、扉とは逆の方向で、ただの抜け道で、ほとんど使われていない地下道のようだった。
継は竜喜をおんぶして、その地下道を駆け抜けた。
約1分ほど進んだ頃、光が見えた。継はそこまで走り続けていた。




