第五十話 ペアミッション2
◇◇◇
「えっとー……そのー……」
「継……って呼んでいいか?」
「ああ。うん」
「よろしくな、継」
「うん。よろしく……えっと……」
「竜喜でいいよ。今は。めんどくさいだろ?」
「わかった。よろしく、竜喜」
一級貴族久遠家の長男で主席の久遠竜喜と、上級二年の中では十一位という平均的な二級貴族である倉本継のペアもまた、同じように大きな扉の前に転移させられてしまっていた。
「これは、自分たちで行けっていう意味なのか……?」
「そう……みたいだね」
2人は確実に動揺していた。まあ、真っ先に入っていった文人たちがおかしいだけだが。
「どう……する……?」
「行くしかないだろ……多分……」
その時中から、ドンっという何かがぶつかる音が鳴った。
「今の何だよ……」
「とりあえず、行ってみる? 無理だったら、逃げよう」
「そうだな。逃げるっていうのも……あるな」
「戦略的撤退……みたいな感じで」
「ああ」
そして竜喜は扉に手をかざした。
「行くよ?」
「うん」
そのまま扉を開け、2人は中に入った。
中は広くて靴の音がよく響くような空間だった。
そして中心部に、かなりの重装備の人がいた。紫色というイメージが一瞬で伝わってくるような見た目だった。
「音で気づかれてしまったか……」
その人はそう言った。その人の足元には壊れた太い鎖が落ちていた。
「牢獄……ってことか……? ここ」
「しっ……」
竜喜は継の喋りを止めた。
「な、なんだよ……」
「アイツは……騎士だ」
「騎士……? あの伝説の?」
「いや……闇の騎士……かな、しいて言うなら」
「闇の騎士……?」
今現在、この国には騎士はいない。竜喜は父から、辺境の状況について聞いていたが、まさか隣国の騎士がこのような場所にいるとは思っていなかった。
そして、竜喜はそのことを継には詳しく言うべきではないと思った。現在、一級貴族のみ知る情報。継は二級貴族。まだその時ではないという判断がされている中で、勝手に言ってしまうのは長男として、跡継ぎとして、してはいない行為だと竜喜は判断した。
「それで? 君が俺を《《処刑》》しに来た奴ってわけ? ただの剣士っぽいし。学生にだって見えるけど」
闇の騎士はそう言った。竜喜はすぐに状況を理解した。
ここはこの闇の騎士を閉じ込めていた牢獄で、この闇の騎士は処刑を待っていた。そしてその処刑が、竜喜たちのミッションになった。ということを、竜喜はなんとなく理解した。一方継は、全くわかっていないようだった。
その時、継が竜喜に話しかけた。
「これ、見て」
継が見せてきた端末を竜喜は覗き込んだ。
そこには、2人に与えられたミッションが書いてあった。
『闇の騎士を討伐せよ』
竜喜はそれを見て、「やっぱりか……」と呟いた。
「やっぱりって……?」
「一旦、下がっててほしい」
「え?」
竜喜にとって、大きな決断だった。
「これは……2人じゃ難しい」
「2人じゃって……だったら、竜喜1人でだって無理でしょ……!?」
「そういう意味じゃない」
「は……?」
竜喜は、この闇の騎士がとても強いことを察知していた。
継の実力を疑っているわけではないが、危険が伴う状況でいつも一緒に居ないような人と、上手く連携できるとは思えない。
そう考え、突き放すことを決めた。
「ここは俺だけでやる。下がってろ」
「それじゃあ、授業の意味ないじゃん」
竜喜は一瞬考え、もっと強い言葉を考えた。
「……弱い奴が出しゃばってくんな」
竜喜はそう言い放って闇の騎士の方に歩いて行った。
継は一気に突き放されたような喪失感を感じた。竜喜の後を追うこともできなかった。
そして竜喜は闇の騎士と、すぐに攻撃が来ても対応できるような距離を保って、その前で立ち止まった。
「君が本当に処刑人なんだな……こんな子供剣士に処刑されるとは……」
竜喜は甘く見られていることに少し怒りが込み上げてきたが、騎士は強くて、自分が子供なことは事実なわけだから、その怒りをなんとか抑えた。
「悪かったな。子供で」
「剣士なこともな」
「この国に騎士はいない。剣士が騎士と同じ実力を持つ」
「ほう。まあ、そんなことはどうでもいいんだが」
じゃあ何で聞いてきたんだよ……と竜喜は内心思っていた。
「こっちもこっちで、簡単に殺されるわけにはいかない。どうだ? 一勝負しないか?」
「……望むところだ」
とは言ったものの、圧倒的に不利だった。
騎士はプロで、竜喜はアマチュア。そんな実力差もある。
それに騎士は防具を着けている。竜喜は何もない。
確かに、学院の制服は簡単には斬れないような素材で作られてはいる。でも、それは学生同士に限ったもので、絶対に破けないといった保証はない。
――まあ、それもいいじゃないか。
竜喜はそう決意した。
「ただし……」
「なんだ?」
「仮に俺が負けたら、アイツは逃がしてやってほしい」
「……今回は見逃してくれるのならな」
「もちろんだ。今回は……な?」
「わかった。いいだろう」
竜喜は継を守るための約束を交わした。相手が守るとも限らないのに。
でも、継はそんな会話が自分の心臓の音で聞こえていなかった。それくらい、動揺していた。
竜喜が1人で騎士に挑もうとしている。
自分じゃとても歯が立たないこともわかっているけど、あんな言い方されて、目の前で死なれるなんてことがあったら、心が持たないだろうし、一級貴族からバッシングを受ける可能性だってある。
継は色々な思いがこみ上げ、混乱していた。
竜喜は継が後ろで無気力状態になっているのを確認したところで、鞘から剣を引き抜いた。もちろん、真剣だ。
騎士も同じように剣を引き抜き、目の前に構える。
2人の息がピッタリ合ったその瞬間に、2人が同時に動き出した。
2人の剣がぶつかり合い、高くて重い金属音が鳴り響いた。そして、その勢いからなのか、暴風が一瞬吹き荒れた。
継は思わず目をつぶってしまった。今まで感じたことないような緊迫した雰囲気。聞いたことないような剣の音。継にとって、全てが初めてのことだった。
竜喜と騎士は、それほど高度な戦いをしようとしていた。
騎士が一旦後ろに下がった。竜喜はそこにさらに攻め込んでいった。
竜喜は後ろに下がらなかったんじゃなくて、下がれなかった。下手に下がって、そこを攻め込まれて、継がいて、下がることもできない背水の陣……なんてならないように考えての行動だった。




