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第四十八話 年末貴族会

 冬のちょうど寒くなってくる時期。そして、年が変わる時期。

 この世界でも、年が変わるのは1月1日だった。

 学年は3月終了という特殊なシステムも、あの世界と同じだった。

 まあ、元々この世界は、あの世界とほぼ同じだ。違うと言えば、王制で、貴族がいて、魔物がいて、剣士がいて、魔法があって、そんなところだ。


 そして今日は、王家と全ての貴族家が集まり、パーティーのようなものをするらしい。

 父によれば、今年は珍しく大きな規模でやるらしい。


 今日は辺境だろうとどこにいようと、一級貴族は招集される。

 下級貴族は無理に来なくていいということらしいが。


 そのため、今日は兄ちゃんも来ていた。夏以来の再会だった。


 そしてそのパーティーの会場はあの城だった。


 なんか気まずいというか、なんというか……という変な気分に襲われるが、この際気にしないでおこう。


「水風様。ようこそお越しくださいました」


 父さんを先頭に、母さん、兄ちゃん、俺、瑠花が城に入ると、使用人らしき人がそう話しかけてきた。


 そして俺たちはその人に案内され、会場の部屋に足を踏み入れた。


『うわぁ……』


 独り言のようにそう呟いてしまった。多分誰にも聞こえてない。


 その部屋は、思わずそう呟いてしまうような空間だった。映画とかそういう世界でしか見ないような大きな空間だ。上手く表現できないが。


 そしてその後も続々と人が入ってきた。


 その流れが止まったところで、王が現れた。


「今日は集まってくれてありがとう。今日は気にせずに各家で自由に会談してほしい。では、楽しんでくれ」


 王はそう言った。そして各地で会談が始まったようだった。


 その後、俺は辺りを見回した。


 来ている人数は、一級貴族は全員で、二級貴族や三級貴族は代表者といったところだろう。確かに剣士団は貴族で成り立ってそうだし、そういう人たちが仕事で来ていないとなると、これくらいの人数にはなるだろう。


「あの……」


 父さんにそう話しかけてくる男がいた。


「はい」

「初めまして、三級貴族、日和家当主の日和嘉壱(かいち)と申します」

「あぁ、初めまして。一級貴族、水風家当主の水風波瑠輝と申します」


 父さんは、その男と挨拶をした。

 名乗る通りなら、日和家。日和家は、まろんの家。ということは、この男はまろんの父ってことか……?


「えっと、そのー、いつも娘がお世話になっております」


 その男はそう言って、ペコペコしていた。


「あぁ、こちらこそお世話になっております」


 父さんは話の感じから誰とかかわりがあるのかあまりわかっていないようだった。

 それもそうだろう。家ではほぼ学校の話なんかしない。兄ちゃんも瑠花もそれは同じだった。それに父さんも母さんも聞いてはこない。そんなところだった。何かあった時だけ話す。それがちょうどよかった。


『俺の同級生で、グループメンバー』


 俺は能力を使い、父さんにだけ聞こえるようにそう言った。

 父さんはそれでなんとなく理解したようだった。


「あと少しではありますが、これからもよろしくお願いいたします」

「お願いします」


 そう言って父さんとまろんの父の話は終わった。


 それを隅の方から眺めていると、俺に近づいてくる人がいるのに気が付いた。


「文人も来てたんだな」


 その男たちはそう言った。まあ、それは他でもなく竜喜と龍杜なのだが。


『ああ。まあ、強制的に』

「そうだな」


 俺は竜喜と龍杜と順番に握手した。


「ちょっと外行こう」

『えっ?』


 竜喜はそう言って俺の腕を掴み、どこかに連れて行こうとした。


「居ずらくない? ここ」

『確かにそうだけど……』


 竜喜がそう続けた。確かにすることがないままここにいるのは辛い。


「俺たち、昔から大体外に出てるんだ」

『そうなの……?』


 そう言ったのは龍杜だった。


 そして二人に連れられるがまま、俺は部屋の外に出た。


 部屋の外には、結構人がいた。廊下は一種の休憩所のようになっていた。


「結構みんな来てるみたいだよ。上級2年は」

『そうなの?』

「まあ、ほとんど二級貴族だしさ」

『まあ、確かに……』


 確かに見覚えのある人たちがいたのは見た。


「亜里とか、衛仁とか、陽とか、希來とか、聖彩とか、多分他にもいるんだろうけど、その5人には会ったよ」

「あ、あとまろんにも」

『へぇ……』


 よく覚えてんな……名前と顔。パッと見ただけじゃわかんないよ……


 その時、ちょうど話に出ていたまろんが大部屋から出てくるのが見えた。


「お、あっちも来たか……」

「じゃあな、あやとー」

『えっ……』


 二人はまろんが部屋から出たのを見て、どこかに行ってしまった。そして俺は完全に置いて行かれてしまった。


『なんでこうなったんだか……』


 アイツらはなんか勘違いしてる。グループメンバーでも、ずっと一緒にいるわけじゃない。アイツらだってそうじゃないか。


「文人さん、お久しぶりです」


 まろんは俺に近寄ってきてそう言った。


『ああ。久しぶり……と言っても1週間ぶりか』

「毎日顔合わせてたんですから、1週間でも久しぶりになりますかねー」

『まあ……そうか……』


 俺とまろんはそんな話から、会話を始めた。


 ◇◇◇


 水風波瑠輝は王としなければならない話があって、別室に来ていた。


 都加左――それが今の王の名前だった。


 その名前で呼ぶことはある。でもそれは、二人で話すときか、場に誰か居たとしてもそれが一級貴族だけの時だけだった。


「それで、話とは?」

「息子の護衛の件です」

「ほう……」


 波瑠輝がしないといけない話とは、文人のことだった。


「勝手にあんなことやられて、どういうつもりなんですか」

「君のお兄さんのことが頭によぎるか……? 水風文仁(ふみひと)くんのことが」

「……そうです」


 波瑠輝の兄、水風文仁は、10年以上前、都加左の護衛に付いていた時、死亡した。

 波瑠輝は、それに反対していた。

 次の当主継承順位1位だったし、代わりに俺がやるとも言った。

 なのに、文仁は護衛を引き受けた。ただ同級生だったという理由で。


 その結果、水風文仁は死んだ。

 波瑠輝は、それでも都加左を恨んだりはしなかった。

 でも、危険が怖かった。


「ただでさえ今、長男を辺境なんていう危険な場所に行かせてるのに……」


 元々、波瑠人の辺境配属にも反対だった。

 最後は本人の意思を尊重はしたが、それ以上はやめてくれと思っていた。


「後継ぎの問題か」

「……はい」


 今水風家に継承できるのは波瑠人か文人。できれば瑠花に回したくはない。どちらかは残っててほしいというのが正直な思いだった。


「でも、学校は基本安全で、学生最強の二人が護衛となれば、学生の反乱にも対応できる。それが狙いだった。しかも、もう護衛任務は解除されている。今更掘り返すような話でもない」

「そうですけど……」

「じゃあ、話は終わりだな」


 悔しいけど、波瑠輝はそれ以上言えることが無かった。

 現に、文人も波瑠人も生きているわけだし。


 ◇◇◇


「文人さん、ちょっと、話したいことが……」

『ん?』


 俺とまろんは、誰もいない中庭のようなところに出た。


 そこにあった柵に腰掛け、まろんは続きを話し始めた。


「あの、私、卒業したら、貴族の決戦をするんです」

『貴族の決戦……?』

「はい。三級貴族から、二級貴族に昇格するかも……っていう決戦です」

『へぇ……すごいね』

「はい……」


 まろんはそこまで言うと、俺にもたれかかってきた。


「怖いんです。もしかしたら、命を落とすかもしれないって思うと」


 命を懸けるのか……貴族の下剋上戦には……


「文人さんなら、どうしますか」


 俺なら……どうするか……


『俺は……命を懸けてでも、戦うかもな……』


 現に、坂野さんと真剣で戦ったわけだし。


「そう……ですか……」

『現に、断れないものだし……』

「そう……ですよね」


 まろんは半ば諦めているようだった。


「家の階級が上がるのは、いいことだと思いますけど……」

『怖いのはわかる。でも、しょうがないことって、あると思うんだ』

「そう……ですね……」

『今だけ、今だけ耐えれば、そのうち無くなる。でも、辛くなったら今みたいに、誰かに話せ。

 ……溜め込むと、酷いことになる』


 そう言った瞬間、俺の手の甲に、何かが垂れ落ちてきた。

 まろんが泣いていたのだった。


 俺は静かに、まろんを抱きしめていた。

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