第四十七話 スカウト
「アビリティ:ヒーリングアート」
俺が言霊を使おうか迷っている時、坂野さんはそう呟いた。
するとその数秒後、破けた服のところから見えていた傷が塞がっていた。
今のは……? アビリティ……は、能力……? ということは、今、能力を使ったということか……?
動揺している間に、傷を押さえていた手から血が溢れ出した。
そろそろどうにかしないとマズイかも……
しょうがないか。
「……治れ」
俺は坂野さんとの距離も考えて、聞こえないようにすごく小さな声でそう呟いた。
すると数秒後、坂野さんと同じように俺の傷も塞がった。
「君も、自分で治せるんだね」
坂野さんはそう言って、スタートの時のコインを拾いながら近寄ってきた。剣はもう鞘にしまっていた。
俺は急いで剣をしまい、立ち上がった。
『ま、まあ……色々と』
「君は前衛アビリティって言ってたけど……どういう仕組み?」
『え、あ、えーっと……』
その前衛アビリティっていう情報はどこから来てるんだ……? そもそも前衛の能力かもわかんないし……
「あ、ごめんごめん。急に聞いて悪かったね」
『……いえ』
何の意図があったのか、すごく気になる。
「意外とさ、能力持ってる人っているんだよね、剣士団って。それで、そういう能力の中で、前衛アビリティ……つまり、戦える能力を持っている人は重宝される傾向にある。だから、聞いてみた」
『ほう……』
「俺は、治癒術を、難しいことしなくても使える。でも、それは戦う能力じゃない。だからこんな感じで来てるんだけど」
『そうですか』
と言われても、自分の能力を言うつもりはない。
「それにしても、急に模擬戦なんてなってごめんね。しかも、こんな狭いところで」
『いえ。いい経験になりました』
もう、こんな狭いところでやりたくはないが。
「今のは引き分けだけど……すごいね。君は。来た甲斐があった」
『そうですか』
引き分けに持ち込めただけでも良しとしよう。
『今回の目的……これだけじゃないですよね? まさか』
これだけならわざわざこんなところでやる必要はない。他にちゃんとした目的があるはずだろう。
「ああ。今回は君をスカウトに来た」
『す、スカウト……!?』
「ああ。君には辺境剣士団に来てもらいたい」
『辺境剣士団……兄がいるところですね』
「そうだ。辺境で悪いが、君の実力を考えてのことだ」
辺境っていうのは、普通は能力がないからだろう。でも、今の戦いをもって、その判断をするとは思えない。
「今、辺境では、隣の国の魔物……悪性魔物が出没している」
『悪性魔物が……?』
「そうだ。君のお兄さんがそこに派遣されたのは、辺境の戦力強化のためだ。だって、主席だぞ? そんな人が能力無し判断で辺境になんてないだろ」
『ま、まあ……そう……ですけど……』
兄ちゃんの強さを考えればそっちの理由の方が現実的な気がした。
「去年の段階では、まだそこまで公にするような被害じゃなくて、でも、補強としてそういう人事をしたわけなんだけど……今年になって、活動が活発化していて、一級貴族内でこの前共有された情報なんだ。それで、今年の卒業生を何人か、優秀な人をっていうので、まず君に話が来たってわけ」
『そうですか……』
なるほど……そんなことが今、知らないところで起こっているとは……
坂野家は確か剣士団の管轄をしている家だったような……そんな人からの誘いだと、俺に拒否権はないか……
『両親が俺って言ったんですか? もしかして』
「いや。そういうわけじゃない」
『なら、何で俺なんですか?』
ただの興味本位で聞いてみた。拒否権がないことはわかっているし、どんな理由であっても拒否するつもりもない。
「一級貴族から、誰か出そうというのがあった。久遠家の長男は、長男だからやめてくれと久遠家から直々に言われた。跡継ぎの重要さはこっちもわかっていることだから、そこは尊重した。それで、残りの2人の中で、どっちが強いかを担当教師に聞いた。その教師によれば、君の方が優秀らしい。だからさ」
なるほど……嬉しいと言えば嬉しいけど、これを誰かに聞かれたとき、どう答えればいいんだろう。困ったことになりそうだが、それはその時に考えよう。
『そうですか』
「それで、来てくれるか? 辺境剣士団に」
『わかりました。両親もわかっていることなら、文句も言われないでしょうし』
「そうだな。水風家にはこっちから連絡しておく」
『わかりました。ありがとうございます』
自分で説明しなくていいのはありがたい。俺は両親と仲いいんだか悪いんだかわからない。なんか気まずくなる。まず、家にいることがそもそも気まずい。そんなところだったからちょうどよかった。
「あとさ」
『はい?』
まだ何かあるのか……?
「あと何人か辺境剣士団に来てもらう予定なんだけど、君が思う人は誰かな」
『え……?』
何で俺に聞くんだよ……
『知らない……です……でも、上級2年はみんな強い……と、思います』
「そうか。じゃあ、こっちで考えておく。時間取ってもらってありがとな」
『はい』
そして俺たちは教室を出て、別れた。
◇◇◇
約1週間後
「えー、みんなに進路の要請が来てます」
井花先生がそう言って、全員に封筒に入ったちゃんとした手紙を手渡した。
俺にもちゃんと来ていて、そこには、剣士団からの配属先依頼と書いてあった。
封筒の中に入っている紙には、先週の約束通り、『剣士団への就職希望の場合、辺境剣士団への配属となります。』と書かれていた。
これで希望を聞いて、確定という流れになるのか……ということは、王国高等剣士学院が一番最初にこの手紙が来て、そこから複数個あるらしい別の剣士学院にも行くんだろう。そりゃ、王国高等剣士学院が一番なわけだ。
「文人さん、どうでしたか?」
『まろんはどうだ?』
「私は……中央剣士団に……」
『そっか』
「文人さんは?」
『俺は辺境だ』
「えっ……?」
『最近辺境大変みたいでさ。兄ちゃんとも一緒にいられるし』
「そうですか……」
まろんは、少し落胆というか、そんな感じの表情を見せた。
「そうなのか? 文人」
『ああ。飛翔と風音は?』
「俺も中央」
「僕も」
おぉ……みんなきれいに中央だな……なんか取り残された気分だ……
『そっか……』
「まあ……どっちでも変わんないしな」
必死にカバーしてくれているみたいだが、別にそんなに思いつめたりしてるわけではない。
『なんか……ありがと』
「とーぜんのことだろ?」
『あ……あ、うん』
そういえば、辺境になった奴って他に誰がいるんだろう……?




