第四十四話 下剋上戦 本戦2
「第三試合、上級2年、宮瀬龍杜。下級2年、中白敏生。なお、この試合に宮瀬龍杜が勝利した場合、両者の希望により、第一カードはここで打ち切りとする」
そんな希望ができるのか……負けてる状況でそんなこと決めたくないな……
まあ、俺たちがそうなる状況はないと願いたいところだ。
そして第三試合だが、中白敏生もさっきの二人と同様に情報は知っている。
二級貴族で、水属性パワー型のエルルカ流の使い手だったはずだ。
エルルカ流は上級2年だと確か海津衛仁が使う流派だった気がする。
二人はフィールド内に入る。
これで勝負が決まることもあり、それぞれの思いが垣間見えている気がした。
龍杜は余裕そうだし、中白はもうすでに諦めているようだった。
だからといってさすがに手を抜いたりはしなさそうだったが、勝負はもう見えているようだった。
「それでは、始め!」
試合は始まったが、勝負は一瞬だった。
龍杜は一気に距離を詰め、一瞬にして突きを入れた。
本当にただそれだけだった。
「そこまで! 勝者、宮瀬龍杜! それに伴い、下剋上戦第一カードは、上級2年の勝利とする!」
上級2年側は安定してまず1勝した。竜喜の出番は全く無く終わった。
他の試合もこうなるなら、俺の出番もないかもしれない。
まあ、もしかしたら最終試合としてやるのかもしれないが。
ちなみに下級2年の残りの一人は樽 晴峰という二級貴族で、炎属性パワー型のヨルハ流の使い手だった。
竜喜との相性は、実力を抜きにすれば樽の方が有利だった。まあ、竜喜は実力でねじ伏せそうだが。
俺は竜喜グループの試合が終わったこともあり、第一体育館の外に出た。
外はすごく晴れていた。太陽が凄くまぶしかった。そのせいもあってか、日向にはほとんど人がいなかった。日影にはいたが。
日影にいる人たちの中に、まろん、風音、飛翔もいた。
「文人さん、終わりましたか?」
『ああ。圧勝だったよ』
「第四試合は……?」
『やらなかった。希望式みたいだった』
「そうなんですね……文人さんなら、どうしますか?」
『相手に合わせるかな……最終試合だしやろうっていう話になるかもしれないし』
「そうですね」
まろんたちに合流して、そんな話をした。まろんたちはこの間、ずっとここにいたみたいだった。まあ、他の人もそんな感じみたいだったし、文句を言うつもりはない。
「見に行かないならこの間無駄だよな……」
「しょうがないでしょ。みんなでやってるんだし」
「そうだけどねー」
まろんと飛翔はあいかわらずみたいだった。風音は不安そうではあったが、問題は無さそうだった。俺は、この3人なら勝てると信じてはいる。でも自分で決めたいという気持ちもある。複雑だけど、自分が戦わないに越したことはないとも思う。
そして亜里グループは無事に勝ちを収め、午前の時間が終わった。
昼休みに入ると1年生が外に出てくるから、外で下剋上戦のことが話せなくなった。でもみんなやっぱそのことが話題だから、結果2年のほぼ全員が教室に戻っていった。俺たちもその一人だった。
午後の試合が始まり、衛仁グループも確実に勝ちを収めた。残りは俺たちだけになっていた。
そして初戦のまろん以外の男3人で、グループで割り当てられた控え室にいた。控え室についているモニターに、試合の状況は映し出されている。
「最終カード、第一試合。上級2年、日和まろん。下級2年、宇小大樹」
審判の先生がそう言った。
第一試合は想定とは違って、中山駿介ではなくまさかのリーダー宇小大樹だった。これにはまろんも動揺してしまうかもしれない。問題がないといいけど。
そして二人はフィールド内に入った。
「それでは、始め!」
先生のその合図でまろんは一気に加速し、接近した。宇小はどっしりと構えて、まろんの攻撃を防ぐつもりみたいだった。
まろんは防御体勢に一気に連撃を仕掛け、その体勢を崩した。そして一発入れ、宇小は大きく後ろに倒れた。
「そこまで! 勝者、日和まろん!」
不安ではあったが、まろんは勝利した。
でも何故か、少し違和感があった。
防御が弱いというか、すぐ崩れたというか、手を抜いているような、変な感じがあった。
気のせいかもしれないが。
◇◇◇
「今日は勝ったなんて思うなよ」
控え室に戻る途中で、宇小はまろんにそう言い放った。
「……わかってますよ。本番を楽しみにしてますね」
まろんは余裕そうにそう返す。
「次に勝つのは俺で、宇小家だから」
「日和家が勝って、二級貴族に昇格しますよ」
二人は睨み合ったあと、それぞれの控え室に戻っていった。
◇◇◇
『お疲れ、まろん』
まろんが控え室に戻ってきた瞬間に俺はそう言った。
「ありがとうございます。次、頑張って下さい」
まろんは全員に向けてそう言った。
「ふぅ……よしっ。じゃあ、行ってくる」
風音がそう言い、まろんと入れ替わるように控え室を出ていった。
◇◇◇
「第二試合。上級2年、神代風音。下級2年、高野心翔」
第二試合は予想通りの対決になった。でも、もう予想通りにはいかないということはなんとなく分かっていた。ここが予想通りだったのは、たまたまだろう。
そして2人はフィールド内に入っていった。
「それでは、始め!」
審判の先生のその合図で風音は高野心翔に向かって行った。
そして連撃を入れるがそれは全て防がれてしまった。風音は動揺せずに一旦後ろに下がった。
そこを狙ったように、高野は風音にかなり力を込めた一撃を加えた。
風音はその一撃を剣を横向きにして受け止め、跳ね返した。
そしてがら空きとなった高野の正面に一撃を入れた。
「そこまで! 勝者、神代風音!」
風音の夏の特訓の成果が出た結果だった。
俺のグループはここまで2戦2勝。あと1勝すれば、下剋上戦の結果は決定する。
そのことがあり、俺は4試合目の開催の話し合いのために控え室から離れた何と呼んでいいのかわからない空間に来ていた。
「そろったな」
そこには俺と先生ともう一人いた。下級2年ということはわかる。この状況でここに来る下級2年ということは、中山駿介か黒田拓貴だろう。
「君たちはどうしたい? やる? 4戦目」
先生は俺たちにそう聞いてきた。
『俺はどっちでもいいです。まあ、最終試合としてやってもいいとは思いますけど。例年はどうしてるんですか?』
「例年は君が言うように最終試合としてやっている。双方のリーダーどうしで、な」
先生は、向こうのリーダーが宇小大樹で、その宇小大樹はもう試合をしていることが引っかかっているっぽかった。
『じゃあ、やりますか? どちらでもいいですけど』
「俺もどちらでもいいです。毎年やってるなら、むしろやった方がいいと思いますが」
相手もやるという意思を見せた。
「じゃあ、やるってことでいいんだな。そう連絡しておく」
そして先生は立ち去った。
「俺は、消化試合だとしても本気でやりたい」
『もちろんだ』
俺たちは軽く握手をし、互いの控え室に戻っていった。




