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第四十二話 下剋上戦 準備

「さて、明後日から、2年生において重要な行事が始まる」


 夏休みが終わって新学期が始まって数日が経った頃、井花先生がそう言った。


「重要な……行事……?」


 誰が言ったのかはわからないが、誰かがそう呟いた。


「ああ。その重要な行事というのは、人呼んで、下剋上戦だ」


 下剋上戦……?


 誰もがそう思っただろう。


「下剋上戦とは、まあ、名前の通り、下剋上の為の戦いだ」


 下剋上……この剣士学院には俺たちより上はいない。なら、俺たちは下剋上を受ける側ってことか……? 剣士学院の下剋上が行われる戦いなら、何で今まで知らなかったんだろう。しかも、兄ちゃんが上級2年だったっていうのに。


「……もしかして……下級2年とですか……?」

「ああ。そうだ。毎年、非公開で行われているから、1年生でも知らないことだがな」


 なるほど……ということは、2年生の入れ替わり戦でということか。1年生に知らせない理由は……気を抜いている上級2年の足元をすくおうとでも思っているのだろう。


「まあ、くれぐれも、情報漏洩(ろうえい)はしないように」


 井花先生は念を押すようにそう言った。


「でも、どうやるんですか? 下剋上戦って」


 そう聞いたのは、いつも通り亜里だった。


「グループ同士で、上級2年の4グループと、下級2年の上位4グループがそれぞれ模擬戦を行う。去年、久遠たちと水風たちが対戦したのと同じルールだ。まあ、カードによって人数は変わるがな」


 あの時と同じルールなのか……あの時は無意識に団体戦に持ち込んだが、あの教師がそういうルールにしたのは、こういう意味があったのか……? 真実はわからないが。


「カードは、わかるんですか?」

「それは明日発表される。一応、上級2年は進級時の順位を元にすることになっている。上級2年の最下位、つまり、水風のグループが、下級2年の1位と対戦することになると思う」

「そうなんですか」


 そうか……俺たちは自動的にそうなるのか……まあ、誰が来ても大丈夫だろうけど。


「ということで、今日と明日は作戦会議とか、グループでの時間に使ってほしい。グループ同士で話し合ってもいいし、自由に使ってほしい」


 井花先生はそう言い残し、教室を出ていった。



「ど、どうしますか……? 文人さん」


 まろんがひっそりとそう聞いてきた。


『うーん……ありそうな人たちを分析してみるかなー。あとは、俺たちの順番とかも』

「そうですね」

『風音、飛翔、二人はどうだ?』

「うん。それでいいと思う」

「僕も」

『じゃあ、そういうことにしよう』


 そして俺たちは椅子を持ってきて、俺の机の周りに集まった。他のグループも同じように話し合いの体制を取っていた。


 まず、まろんがタブレットでありそうなグループのデータを出す。その中で、まろんが一番に上げたグループがあった。そのグループは、他のグループと比べても、三級貴族がメインのグループだった。


「まず、リーダーが、宇小うこ大樹ひろき。二級貴族でスミレ流。二級貴族と言っても、二級貴族の中で一番下に位置する家ですね。まあ、私が言えることではありませんが」

「へぇ……」


 ――スミレ流……?

 ――炎属性、一撃必殺型。一撃必殺型はスミレ流しかないので、確定です。

 ――そうか……


 確か上田永亜がスミレ流だったはず。その時にそう聞いた気がする。風音のトラウマの流派でもあると思う。


 俺たち側の流派が、俺を除いて、スピード型2人と連撃型1人なわけだから、一応それでこっちが少しでも有利になるようにしておきたいところだけど、一撃必殺型なら、防御型が一番だよな……なら、俺かな……


「2人目が、黒田くろだ拓貴たくたか。三級貴族でクレ流です。性格はオオカミみたいな奴です。付き合っていくには根性がいると思います」

『オオカミ……ね……』


 ガンガン来る感じってことでいいのかな……? 話しぶりからしてまろんとは関りがあるような人っぽかった。


「まろんは、その黒田拓貴と関わりが?」

「まあ……三級貴族でも、年に1回ほど、集まりがあるので。小さい時から会ってます。同い年なこともあって」

「へぇ……何か、色々大変なんだな」

「まあ……一級貴族の方が、色々あるのでは?」


 まろんが一級貴族の話を持ち出したおかげで、3人の視線が俺に向く。


『いや……年に1回集まりがあったけど、家の人全員でっていうのは……今まで無かったと思う。たまたまやってないっていうのもあるかも知れないけど』

「そうなんですね。でも、数年に一度とかで、やっていると思いますよ」

『そうなんだ』


 そこまで話したところで、いつの間にか話がずれていることに気づいた。


『それで、クレ流の特徴は……?』

「このクラスだと、時山亜里が使ってます。影属性でパワー型の流派です」


 そうか。パワー型だったら、スピード型か連撃型だな……まあ、誰でもいいというわけか……


「そして、3人目は高野たかの心翔しんと。三級貴族でスミレ流です。流派の説明は省きますね。こっちは、拓貴みたいに性格がねじ曲がっては無いです。まあ、仲はそこの二人でいいみたいですけど」

「へぇ……」


 一撃必殺型が2人……流派の組み合わせが難しくなったな……


「そして4人目、中山なかやま駿介しゅんすけ。三級貴族でホアリ流です」

「なら、飛翔は知ってる?」

「えーっと……あー、アイツか。知ってる知ってる。仲良くなった奴だよ、多分」


 おぉ……仲良くなった……と……


 ホアリ流はスピード型だから、まあ、誰でもいいってなりそうだな……


 難しすぎだろ……いっそのこと、相性とか無視して行くか……?


「文人さん、一応、このグループが一番去年の成績がよかったグループです。点差からして、このグループが出てくると思います」

『そうか……』


 今年始めに俺たちが点数を明かすことを要求したおかげで、下級2年も同じことをしたらしい。そしてその点差は、進級結果の欄に追加されることとなった。まろんはそれを見てそう言っているのだろう。


『まあ、確定ではないから、誰と誰が……とか、誰が何番目に出てくるだろう、とか、そういうのは明日にしよう。明日わかるんだろ?』

「そうですね。そうしましょう」


 そこで話し合いは一旦終了となった。



「それにしても、下剋上なんてやるんだな」

「理由がわからない……って感じ?」

「そうそう」


 飛翔と風音がそう話し始めた。


「たまにいるらしいんです。気を抜いてる上級2年が。背伸びしすぎたりとか、そういうのも」


 まろんがそう答える。俺の予想もそんな感じだった。


「まあ、あくまでも予想ですけどね」

「予想でもしっくりくる」

「うん」


 しっくりくるよなぁ……まあ、それがカモフラージュの可能性もあるし。


「理由はどうであれ、勝たなきゃいけない試合だよ」


 俺の背後から誰かの声がした。その声の主は井花先生だった。


「下剋上が実際に起きた年は、上級2年であろうとも、少なからず評価が下がる。自分たちの問題じゃないからね」

「は、はぁ……」


 その井花先生の言葉で、クラス中の視線がこっちに向く。


 評価が下がるなら協力姿勢を取ろう、とでも言いそうだけど……いや、それは考えにくいか。このクラスにおいては。


「せいぜい負けないでくれ。君たちだけじゃなく、みんな、ね?」


 少なからず井花先生からの圧を感じた。評価が下がるのは先生も同じみたいだった。


 これは大変なことになったぞ……? ガチでやらないといけない感じのやつじゃんか……一番危ないのは俺たちだろな……

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