第四十一話 過去のトラウマ
「おう文人、元気だったか?」
『ま、まあ……そっちは?』
「まあまあかな。長男って大変だなーって改めて思ったし」
『そっか……』
俺は竜喜とそう言葉を交わした。この場所に来るのは約半年ぶりだろうか。ここはどこからどう見ても城だ。
俺と竜喜は王から呼び出され、ここに集まったという訳だった。俺たちは城に入ると、すぐに王の部屋に案内された。
よっぽど暇なのか、それともそれほど重要だったのか、どちらかはわからないが、わざわざ呼び出すということは、それくらいの価値がある話なのだろう。
俺たちは王の部屋のドアをノックした。
「はい」
「久遠竜喜です」
『水風文人です』
「入りたまえ」
「失礼しまーす」
俺たちはその部屋の中に入っていった。部屋の景色はあの時と何も変わっていなかった。
「急な呼び出しにも来てくれてありがとう、二人とも」
「いえ。それで、早速ですが、どのような……?」
竜喜が素早く反応し、話を進めた。
「君たちは夏休みが明けたら、卒業に向かって色々忙しくなると思う。派遣の件も含めて」
「ま、まあ……それは」
確かにそれはそうだと思う。何があるかは知らないが。
「それで、君たちに頼んでいた護衛を解除しようと思う」
「解除……ですか」
「ああ。君たちには頑張ってもらいたいからね」
「そうですか」『わかりました』
急に言われたが、何故か受け入れられた。理由というか、そういうのがしっかりしていたし、なんてったって王がそう言ってるんだから、と納得してしまった。まあ、反対する理由もないからいいんだけども。
そして俺たちは王の部屋を出た。
「もうあの二人と会うことはないんだろうな……」
『そうだな』
「どうせ許嫁とかもいるんだろうし」
『あー、確かにね』
王族ともなれば許嫁くらいいるか……そりゃそうか。ワンチャンとか狙ってたわけじゃないから別にいいんだけど。竜喜はちょっと狙ってたみたいだった。
そして俺たちが城を出ようとした時、誰かが俺たちを呼び止めた。呼び止めたのは初絃と史織だった。
俺は史織に、竜喜は初絃に案内され、それぞれ別の部屋に案内された。
◇◇◇
竜喜は初絃の部屋に案内された。
「どうしたんだ?」
「その……今まで、ありがとうございました」
「あ、ああ……ありがとう」
急にそんなこと言われて竜喜は少し照れているみたいだった。
「な、なんて言うか、ほんとに、感謝しかないです」
「まあ……何もなかったから、言えることだけどな」
「それでもです」
「あー、ありがとな」
お互いにそれしか言うことは無かった。全ては史織が仕組んだことなのだったから。
◇◇◇
俺は史織の部屋に案内されていた。
『どうした?』
「その……今まで、ありがとうございました」
『別にいいんだけど……』
こんなこと、わざわざこんなとこまで案内するものなのか……?
「その……文人さん」
『何?』
「頑張って下さい」
『あ……うん。ありがとう』
何かを言おうとしていることはわかる。でも何を言おうとしてるんだ……?
「文人さんは、どう思ってるんですか? 妹さんのこと」
『うーん……』
何でこんなこと聞いてくるのかわからない。いざ聞かれると意外とわからないものだった。
『普通に、かわいい妹っていうか……何というか……』
「そう……ですか」
史織は瑠花に頼まれてこんなことを聞いてきているのか? と最初は思ったが、あんなにいがみ合っていたこともあって、それはないだろうと思った。
「あの、文人さん」
『な、何? 急に改まって』
急に史織の姿勢が改まったような気がした。それに、頬が少し赤くなっている。これって……え……?
「文人さん」
『な、何?』
「私と、付き合ってください」
『え?』
一瞬何を言われているのかわからなかった。
王女とこんなことになっていいのか……?
『……王女ともなれば、許嫁とか、いるんだろ? 俺は一級貴族とはいえ、次男だし。俺より絶対ふさわしい奴がいる。と、思うよ。……ごめん』
俺はそう言い放ち、史織の反応も見ないまま、その部屋を出た。
そしてロビーのところに竜喜と初絃がいた。
「文人、あれ、史織は?」
『ご、ごめん』
俺は竜喜の質問をまともに返さずに、城を後にした。
こんなこと、あるんだろうか。というか、あっちゃいけないことだとは思う。
王子が、一級貴族の娘を狙うならまだわかる。でも、王女だぞ、史織は。絶対俺じゃない方がいい。あと半年しか会えないとか、そういうことを考えもそうだ。それに、こんなの、俺が壊れていきそうだ。
俺は付き合うということに大きなトラウマがある。
向こうの世界にいた時、俺には付き合ってた彼女がいた。その彼女は、学校で一番可愛いとも言われていたくらいの人だった。周りは知らなかったみたいだが、一応彼女とは幼馴染だった。
そして彼女に告白され、付き合うことになった。
その噂は瞬く間に学年中に広まり、俺はいわゆる陽キャみたいな奴らにいじめられることとなった。
そして不登校となり、彼女と言葉を交わすこともなく、死んだ。
別に女の子が怖いとか、そういうのではない。でも、付き合うとか、そういうのが怖い。恋……それが怖い。恋愛恐怖症とか、そういったものだろうか。
恐怖症とか、そこまで拒絶しているわけではないが、今回は関係も相まって、相当拒絶した。
――ごめん。史織
俺は一旦城の方を見て心の中でそう言った。
そして完全に城を後にした。




