第四十話 先の事を考えた戦い方
瑠花は一気に加速し、風音に斬りかかろうとした。それに対抗するかのように、風音も瑠花と同じように攻撃を仕掛けた。
二人の剣はお互いに首を狙っていた。
二人はお互いの剣を少しかわしたところで、剣を止めた。
「はい、そこまで! 引き分けな」
兄ちゃんがそう言い、風音と瑠花の戦闘が終わった。二人は一気に力が抜け、剣を下した。
中々すごい戦いではあった。風音もちゃんと戦えているような気がした。本人がどう思ってるかは知らないけど。
俺と兄ちゃんは二人に駆け寄って行った。
「おつかれ」
「ど、どうでしたか……? お兄様たち……」
「剣も扱えるようになったんだな。王国高等剣士学院に入っただけはある」
俺は兄ちゃんの意見にとりあえず頷いておいた。
「文人、僕……」
『ん?』
「ちゃんと戦えた……」
『おー、よかったじゃん。今回の目的は達成できたな』
「うん」
風音はなんとかいい方向に進んでいたみたいだった。それならこの模擬戦も意味があったと言えるだろう。
「じゃあ、せっかくだし、借りてもいい? ちょっとだけ」
兄ちゃんがそう言って来た。
『え、あ、まあ……』
特に断る理由もないから了承したが、何をするつもりなのだろうか……
「文人、勝負だ」
『え?』
「俺だって、強くなったとは思うし。どうかな」
『ま、まあ……断る理由はないけど……』
断れない。断れない雰囲気になってる。
「お、頑張れよ。文人」
風音までそんなことを……
「お兄様たち、頑張って下さい!」
瑠花がそう言ったらもうやるしかないじゃないか。
俺はしょうがなく模擬戦の定位置についた。兄ちゃんも剣を出してすごくやる気っぽかった。
おそらく、辺境だろうが剣士団は剣士団。強くなって帰ってきているに違いない。前とは全然違う人と考えて戦うべきか……
「じゃあ、僕が審判やります。一応」
風音がそう言ってくれた。まあ、ここは風音に任せよう。瑠花に模擬戦の経験はあまりなさそうだし。
「それじゃあ、始め!」
風音の合図で俺たちはお互いに向かって行った。
そしてまず最初に剣を振ったのは俺だった。兄ちゃんはその剣を横にかわし、攻撃をしてきた。俺は考えるより先に後ろに跳んでその攻撃をかわした。
着地の勢いが収まったところで、俺は一歩踏み込み、加速して間合いを詰めた。
そして俺は剣を横から振って兄ちゃんの脇腹辺りに当てた。
兄ちゃんもそれと同時に攻撃を仕掛けてきた。兄ちゃんの剣が左の脇腹に当たり、俺はそのまま剣の勢いで吹っ飛ばされた。
兄ちゃんも同じように横に飛ばされていたが、なんとか体勢を保っていた。俺はその逆で、バランスを崩してしまっていた。
「そこまで!」
風音がそう言い、模擬戦は終わったが、これは兄ちゃんの勝ちだったと思う。ここで止められなければ、兄ちゃんは俺に影斬りでもなんでも仕掛けてきていただろう。そして俺は負けていた。
幸い、模擬戦は安全を考慮して、初撃決着ではある。でも、ここを卒業して、剣士団でもなんでも、そういったところで戦うとなった時、初撃決着なんて甘い事は言ってられないだろう。兄ちゃんはこの1年間で、そういう戦い方を覚えたんだろう。先の事を考えた戦い方を。
「文人、大丈夫か?」
『あぁ……うん。兄ちゃんは?』
「大丈夫」
俺は差し出された兄ちゃんの手を掴んで立ち上がった。
『強かった……兄ちゃん』
「でもさすがに文人には勝てなかったなぁー」
『でも……あ、後ででいいや』
「……わかった」
言うのをやめた理由は単純に、風音と瑠花が近寄ってきていたからだ。
「お疲れ様です。お兄様たち」
「お、お疲れ様」
瑠花と風音はそれぞれそう言った。俺と兄ちゃんもそれ相応の返答をする。
「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るけど、どうする?」
兄ちゃんがそう聞いてきた。兄ちゃんが言う『俺たち』というのは、瑠花との二人のことだ。つまり、俺と風音はどうするかというのを聞いてきている。
『どうする? 風音。俺はどっちでもいいけど』
「今日はもう終わりにしようかな。感覚も大分つかめてきたと思うし」
『そっか』
「今日はありがとう。文人」
『大丈夫。また何かあったら呼んでくれ』
「うん」
そして俺たち4人は第一体育館を出て、校門まで来て、そこで別れた。
水風家の3人は同じ車に乗り込んだわけだが、特に話すこともないせいか、緊張感が漂っていた。
「文人、そういえば、さっき言いかけてた奴、なんだったの?」
『あ……えっと……』
瑠花もいるこの状況で話すべきか一瞬悩んだが、聞かれちゃダメなことでもないし、と思い直し、さっきの続きを話し始めた。
『さっきのは兄ちゃんの勝ちだったよ』
「いや、あれは引き分けじゃ……」
『兄ちゃんは剣士学院の時とは違う戦い方を習得した。そうだろ』
「ま、まあ……それは……ね」
『初撃決着じゃ役に立たない戦い方だろ』
「……言われればそうだな」
『あの時、風音が止めなかったら、俺は負けてた。体勢的に。だから、兄ちゃんの勝ち』
「……でも、今回のルールは初撃決着。引き分けだよ」
確かに俺の考えはルールが違っていたら、ということを言っている。今回のルールは……と言われれば、何とも言えなくなる。
『まあ……可能性がの話だから……』
ちょっと強がってそう言ってみた。そして兄ちゃんのことをちらっと見てみると、こっちを見てニコニコしていた。思わず、『なんだよ』と言ってしまいたくなるが、そこはぐっとこらえた。反応したら負けだと思った。
「さすがお兄様たちですね……こんな時でも戦闘のことばっかり。せっかく兄弟全員を揃ったって言うのに……」
瑠花がそう呟いた。俺と兄ちゃんはハッとしたように顔を見合わせる。
「まあ……前も、こんな感じだったし……」
『うんうん。こんな感じ……』
「初めてですからね、こうやって揃うのは。ちゃんと分かっていてください」
「はい」『はい』
瑠花はこんな感じだったかな……と思わず疑ってしまうが、瑠花はこの機会を大事にしたいのだろうという考えに至ったので、そういうことにして自己解決しておいた。
また戦闘とかそういうことを考えることになるが、今回の模擬戦では、兄ちゃんと戦ったことによって、初撃決着がいかに安全性を重視した結果なのかがわかったし、これだけじゃ先に繋がらないこともわかった。あと半年くらいは初撃決着も大事になるが、それ以外の戦術も少し覚えておいた方がいいだろう。
――あとは、風音がどうなるかだな……
俺はそんなことを考えながら、窓の外を眺めた。




