第三十九話 神代風音
グループサバイバルからしばらくが経ち、夏休みに突入した。
去年はまるで夏休み感が無く、どちらかといえばただのひきこもりだった。
その前の夏、俺は転生してきた。
未だにこれが転生と呼べるのかはわからない。新しく生まれたわけでもなく、でも里見蓮のまま転移などしていない。憑依というのもありえるが、元々この体の持ち主がいたという状況でもなさそうだった。おそらくこれは解決しない問題だろう。
『あ、兄ちゃん……』
玄関に向かうと、ちょうど兄ちゃんがそこにいた。
「おう、文人」
『帰って来たの?』
「ああ。夏休暇ってやつだ。数日だけだけどな」
『そっか』
数日でも、帰ってきてくれて、素直に少し嬉しかった。
「文人は? なんでここに?」
『ちょっと、約束あって』
「そうか」
意味もなく玄関に来ることはないわけだし。聞いてくるのも当然か。
「あ、お兄様! ……が、二人……」
奥からそんな声が聞こえた。瑠花の声だ。瑠花が兄ちゃんに会うのは久しぶりなんだっけ……?
「瑠花……か? 久しぶりだな。そうか、帰って来たのか」
兄ちゃんがそう言うと、瑠花は兄ちゃんに駆け寄ってきて、ハグをした。
「王国高等剣士学院に入学しました」
「そっか、じゃあ、文人の後輩だな」
「はい」
兄ちゃんと瑠花が話してる間に俺は家から出ようとした。
「出かけるの?」
『まあ……』
「行ってらっしゃい、お兄様」
『ああ……』
そして俺は二人に見送られながら、家を出た。ちなみに今はいつものあの秘策をやらなかった。瑠花にも、能力の事を話したからだ。やっぱり話した方が楽でよかった。
今日は風音と約束をしていた。『ちょっと相談がある』と言われたから、学校にとりあえず集まることにした。
俺はいつものように送ってもらって、学校に何事もなく到着した。ほんとはもっと普通に来たかったが、安全のためにもどうしてもこうしないといけないらしい。
そして門のところに風音がいるのを発見した。
『風音』
「あ、文人。ありがとね、来てくれて」
『大丈夫、暇だったから』
「そっか」
そして俺たちは開放になっている体育館に向かった。体育館は今誰も使ってないみたいだった。
『もう怪我は大丈夫なのか?』
「うん。大丈夫」
風音はグループサバイバルの時の怪我で、しばらく入院してて、夏休み直前には退院していたが、模擬戦はまだできない状況だった。でももう大丈夫のようだった。
『それで、どうしたんだ?』
「ちょっと、手伝ってほしくて」
『うん』
「……僕さ、戦うのが怖い。でもそれじゃ、ここにいる意味がない。そんなんじゃ、剣士なんかになれない」
『それで?』
「克服を手伝ってほしい」
『……わかった』
「いいの?」
『うん』
風音がやる気なら、俺は協力するだけ。それは、多分俺たちの今後に繋がると思うし。
『でも、何すんの? ただの模擬戦?』
「うーん……そうだと思う」
『わかった』
そして俺は体育館内のフィールドの奥側に向かい、振り向いて剣を腰にあった鞘から抜いた。風音も定位置に着き、剣を抜いた。
『風音から来ていいよ』
「わかった」
風音はそう言うと、俺に結構なスピードで向かって来た。そしてまずは3連撃を仕掛けてきた。俺はその3連撃をしっかりと弾く。そして一旦風音は後ろに跳んで下がる。そんな隙があったのは、俺が手加減したからっていうのもあると思う。
今度は俺が仕掛けていく。俺は一瞬で風音の間合いに入り、風音の脇腹に剣をぶつけ、そのまま薙ぎ払った。
風音はそのまま横に倒れていった。ちょっとやり過ぎたかもな……と少し思った。
俺は剣を一旦鞘に納め、風音に駆け寄った。
『大丈夫か?』
「あぁ……うん」
俺は風音に手を差し伸べ、風音を立ち上がらせた。
『どう? 最初の感覚は』
「一応、すぐに避けるっていうのはできたよ。でも、やっぱりちょっと……」
『そっか』
やっぱりそうか。さすがに俺のスピードを持ってしても、言霊を使っていないなら、防げなかったとしても、反応くらいはできると思う。いくら風音だとしても。
「どうしたらいいかな……」
『まずは防がれない連撃をするしかないんじゃないかな。防がれた時は、根性でどうにかするとして……』
「文人でも、根性論なんだね」
『うん。というか、色々根性で乗り切ってるところもあるし。この前のドラゴンとか』
「そっか……やっぱすごいなー、文人は」
『まあまあ……とにかく、防がれない連撃、な?』
話が脱線しかけてた。危ない危ない……
「うん……でも、どうするの?」
『風音の場合、なんとなくだけど、全体的にスピードを上げるか、一撃一撃を強くするか、そのどっちかか、どっちもだと思う』
「ほう……」
属性合宿の時も初絃に連撃を教えた気がする。俺はいつからそんなに偉くなったんだか……
『どっちでもいいとは思うけど』
戦闘技術は確かに周りより長けている部分はあると思うが。元々こんな教えられるようなタイプではなかったと思う。変わったんだな……俺。
「じゃあ、スピードを上げる。一撃を強くするにも、スピードを利用すると思うから」
『まあ……そうだな』
風音の言うこともなんとなくわかる。スピードを使って、一撃を強くするというのも、あり得る気がした。とにかく、風音のやりたいことに付き合ってあげようと思った。
そして俺たちは模擬戦を繰り返した。段々と風音も慣れてきたみたいで、スピードも段々上がってきていた。初絃とも、同等の戦いが出来ていたと俺は思う。
「どう……かな」
『いいと思う。まあ、俺以外にも、それが出来ればいいかな』
「……そうだね。できれば……いいんだけど」
その時、体育館の扉が急に開いた。その扉の奥に見えたのは、兄ちゃんだった。その後ろに瑠花もいる。何の用なのだろうか。
「俺で良かったら、相手するよ」
兄ちゃんはそう言った。
「私でもいいですよ」
続けて瑠花がそう言った。何の意図があるのかわからないが、協力してくれるのはありがたいかもしれない。
『いきなり兄ちゃんっていうのは……ちょっと……ね? 去年の主席剣士だし……さ、やっぱ』
「あ……うん……」
さすがに風音も兄ちゃんと対戦するっていうのは気が引けるようだった。
「じゃあ、私が相手いたします。少しでもお兄様の役に立ちたいですし」
瑠花がそう言った。ちょっとずれている気もするが……?
『ま、まあ……ありがたいけど、今回は風音のためだけどな』
「お兄様の頼みなら何だっていいです」
はぁ……と思わずため息が漏れてしまいそうだった。
『……って言ってるけど、どう? 風音』
「う、うん……せっかくだし……」
こっちは風音もやる気みたいだった。それなら、ちょっと協力してもらってもいいかもな……
「じゃあ、勝負しましょう」
瑠花はそう言って、俺が戦闘前に立っていた場所のあたりに剣を持って立った。俺と兄ちゃんは、観覧スペースに向かった。
「よーい、始め!」
兄ちゃんがそう言い、戦闘が始まった。
風音は、俺との戦いの時と同じように、瑠花に向かって行った。そしてまずは素早く五連撃入れた。瑠花は少し焦っていたというか、防ぐことで手一杯くらいの感じだったが、なんとか防ぎ切った。
風音はそのあと素早く後ろに引きさがり、瑠花の反撃を逃れた。
「さすが……お兄様のグループメンバーですね……」
瑠花はそう呟いた。そして今度は瑠花から攻撃を仕掛けていった。




