第三十話 模擬戦4
「わかってると思うが、第十試合は、水風文人、藤井柊璃だ」
井花先生はそう言った。
柊璃は俺のことを睨んできた。
『なんだよ』
「別に」
そして俺たちは剣を構え、向かい合った。
「それでは最終試合、始め!」
井花先生の合図で試合が始まった。そして柊璃は俺に向かってきた。確か柊璃はスピード型だったと思う。
俺は柊璃の攻撃を攻撃で防ぎ、柊璃の背中に剣を当てた。
『クリーンヒット』
「え……」
「そこまで! 勝者、水風文人!」
井花先生がそう言って、試合が終わった。
勝ったことについて、特に感想はなかった。俺は人のことを言えないみたいだ。俺も試合になると性格が変わるタイプかもしれない。
「文人さん、おめでとうございます!」
『ありがとう』
なんか、変だ。勝ってもうれしくない。苦労もなく、勝ってしまう。どうなってるんだ……
確かに模擬戦だからっていうのはあるけど……でも……
「じゃあ、今日は終わりにしよう」
先生がそう言い、バラバラと体育館を出ていった。
なんで勝ったのに……危なくもなく、勝てたっていうのに……なんでだ……?
柊璃は強いわけでもない。この中では。だからといって、弱いわけじゃない。
何で、おかしくなっちゃったんだろう……
「文人さん?」
まろんの声で我に戻った。
『ごめん』
「何か、さっきの試合終わってから、変ですよ」
『ごめん』
他の人たちはみんな体育館から出てっていた。ここにいるのは俺たち4人と井花先生だけだった。
「大丈夫か? 文人」
『ごめん、心配かけちゃって』
飛翔にも心配されてしまった。
「早く帰れ、日和、柴崎」
「はい」「すみません」
「水風、神代、ちょっと話をしよう」
「えっ?」『え』
そして体育館からまろんと飛翔が出ていった。
「お前ら去年の進級テストとなんか違うな」
「えっと……」
「なんか、悩みでも?」
「はい……ちょっと……」
風音と井花先生が話し始めた。
「なんか、去年の、団体戦の時、僕、負けたんです」
「そうだな。負けてたな」
「そのあと、試合自体が怖くて、それで、初撃で防がれちゃうと余計に……」
「そうか……」
「今日は、なんか途中で変わったみたいだが……」
「それは……自分でなんとかしました」
「そうか」
風音は俺の能力のことを言わないようにしてくれた。この気遣いはありがたい。でも、先生は知ってると思うが……
「神代、お前は弱いわけじゃないし、最初の一撃で全てが決まる訳じゃない。まあ、すぐに乗り越えろとは言わない。でも、いずれは乗り越えなきゃいけない。な? 水風」
そこ俺に振ってくるのかよ!?
『まあ……すぐに乗り越えるのは難しいかと』
「だからさ、気にすんな。お前のペースで、な?」
「はい」
そして風音は体育館から出ていった。
「神代に指示したの、水風か?」
『そうです。明らかにおかしいと思ったので』
「やっぱりな」
やっぱり先生は知っているようだった。
『だめですか。俺がやっちゃ』
「そういうことはない。能力だからな」
『はぁ……』
「でもな、アイツの為にはならない」
『まあ、そうですけど……』
「いずれはな。頼んだよ」
『はい。俺のせいなんで。このクラスに巻き込んだのは』
「……ああ。そうだな」
先生の少しの間がちょっと気になった。あと、先生の話の感じが変わったことも。
「それで? お前は何を考えていた」
『え?』
「さっき。急に立ち止まって」
とぼけてみたが、先生には通じなかった。
『なんか、勝っても嬉しくないっていうか、手ごたえがないっていうか……』
「そんなことか」
『ダメですか?』
「いや。贅沢な悩みだな」
『まあ……』
贅沢な悩みだとは思う。元々相談する気も無かったし。
「二級貴族の俺が言うのもあれだけど、一級貴族は強くいなきゃいけない。誰よりも。だから手ごたえがないのはそういうことだ。だが、それはいいことだ。強い証拠なのだから」
『まあ、そうっすよね』
「だから、そう心配することはない。楽に勝ってもらっていい」
『そうですか』
そして俺と先生は体育館から出た。なんか先生の雰囲気が怪しかった。気のせいかも知れないけど。
教室に入ると、まろんと飛翔が話しかけてきた。
「何の話してたの?」
『いや……別に……』
「風音と同じこと言わないでください」
『いやぁ……そのー』
「その? なんですか」
『ただ、すごかったなっていう……』
「それなら、私だって……勝ちました」
『それはそのぉ……』
「はい一旦座ってー」
ちょうどよく先生が教室に入ってきたからその会話が中断された。俺にとってはいいタイミングだった。まろんと飛翔は残念そうだったが。
「えーっと、お疲れ様でした。午後は、普通の授業があります。ちゃんと準備して、お願いします」
そう言って先生は教室を出ていった。ここから昼休みとなった。
昼休みは護衛の任務時間内である。でもグループを抜けるわけには行かず、さっきのこともあり、付いてこられてしまった。
『どうしたらいい?』
「知らねえよ。2人がどう思うかじゃね?」
『うーん……』
竜喜に相談したが、解決策はないようだ。
「あ、文人さん」
『おう、史織』
「えーっと、そちらは?」
俺たちの後ろをちらっと見てそう言った。
『ごめん。着いてこられたっていうか……俺のグループメンバーなんだ』
「そうですか。5人グループなんですか?」
『5人……? 4人だけど……』
後ろを見てみるとしれっと龍杜がいた。
『あ、1人違う奴がいる。あいつは竜喜のグループメンバー』
「そうですか」
『一緒でいいかな……? ダメだったらいいんだけど……』
「お父様が選んだ方のグループメンバーの方なら一緒でも構いません」
『そうか。ありがとう』
「あと、妹さんも構いませんよ」
『妹……? 瑠花のことか』
「はい。あそこで……見てるので……」
そう言って史織がちらっと見た方に目を向けてみると、物陰から瑠花がこちらをじーっと見ていた。
俺は瑠花を手招きしてこちらに呼び寄せた。
「お兄様……」
『どうした? ずっとこっち見て』
「もしよろしければ……お昼……ご一緒に……」
『いいよ。ね? 史織』
「はい」
ただ、瑠花は史織を睨んでいた。怖いって……
そして俺たちは中庭のスペースみたいなところで昼ご飯を食べた。
「文人さんたちは何をしたんですか?」
『模擬戦かな……』
「え、模擬戦!? いいなぁ……」
史織の質問に答えたら何故か初絃がすごく反応した。
『そっちはまだなの?』
「はい……」
『俺の時は校舎見学で模擬戦やったけどな……』
「え! ほんとですか!?」
『うん。な? まろん』
「はい。思いっきり負けました」
「へぇ……でも、いつかやりますよね」
「多分な。文人のとこは人数少なかったから」
「そうなんですね」
初絃は模擬戦とか実技系にとても興味があるみたいだった。
「実技にしか興味ないのはいいけど、卒業できないのは恥だからね?」
「わかってるよ、うるせえなぁ」
初絃は史織にそう言われて、少し不貞腐れている。
俺、史織、初絃、竜喜、まろんはそんな話をしていたが、他の4人はというと、瑠花は史織を睨んでいて、龍杜は初絃を睨んでいた。そして、風音と飛翔は俺たちのことを眺めていた。
瑠花と龍杜が睨む理由はよくわからないが、風音と飛翔は少し遠慮してるように思えた。
昼休みが終わり、教室に戻ったが、午後は自由時間だった。
「それで、続きなんですけど……」
まろんがそう言った。続き、とは能力の話だろう。
「私の能力は風音の言う通り、分析力」
まろんは声のボリュームを最大限下げてそう言った。
『やっぱり……な』




