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第三話 影斬り

 あれから月日が経ち、もう秋になっていた。


 俺は数日前に病院を退院した。退院と言ってもまだリハビリには通わなきゃいけないけど。


 病院からこの家に来る途中に街の中を通った。その街並みは元居たあの世界とほとんど変わらず、多くのビルが建ち並び、大きな駅もあった。まあ、この水風家みたいなこんな大きな家はほとんど無いと思うけど、それがいくつもあるならそこが唯一違うところ。もう家というか屋敷と呼ぶ方が相応しい気がする。どちらでもいいことだが。


 俺には自分の部屋が与えられた。はっきり言って広すぎる。ほど良い大きさというものがあるだろ、これ。


 なんかよく見る貴族の生活そのものだった。違うところと言えば服装くらいだろうか。部屋着というか、そういったものはあの世界と変わらないようなものだった。あの世界の、俺が生きていた時代に貴族があったらこんな感じっていうのを再現してるかのような生活だ。


 家に帰ってきたので、剣と魔法の練習というのも始まった。なんかそういうのの専門の家庭教師みたいな人が来て教えてもらう感じで。


 勉強はできるにしても、剣道とかをやっていた訳ではないから剣なんか慣れないもんだと思ってた。でも、アニメとかで見る動きを思い出してやると意外とできたりした。アニメとかそういうのってすごかったんだなと実感する。


 あとこの世界の魔法は呪文を唱えたりはしなくていいような魔法だった。それはとてもありがたい。この魔法を、こういう魔法を発動させたいという思いが呪文の代わりになっている、そんなところだった。


 だから来てくれる家庭教師さんの魔法を見て、『こういうの!』っていうのを思い描いたらその魔法がすんなり出せた。まあ、俺のやった魔法は結構簡単だから誰でもできるような魔法らしく、この速さでできるのは速いけどそんなに珍しいものでもないらしい。


 難しい魔法は高等学校でその人ができそうなのを教えてくれるらしいので、やっぱ高等学校には行かなきゃいけないらしかった。



「文人くんならそろそろ影斬りもできるんじゃないかな」


 そう言われたのはそれから数か月経ったころだった。もう冬になっていて受験が迫っていた。


 それからはその家庭教師ではなく、兄の波瑠人が教えてくれることになった。波瑠人に教えてもらうのは水風家に継承されている技『かげり』だ。


 影斬りは、すごい速さで相手との距離を詰め、相手を斬る。そして相手そのものに当たらなくても、その人の影を斬れば攻撃判定となる。といった技だった。なかなかいい技だった。ちなみに影が重なっていれば重なっている人全員に攻撃が当たるらしい。


 試しにその『影斬り』を見せてもらった。


 兄ちゃんは練習用の木刀で練習の時に使う人形の影を斬った。木刀とはいえ、その威力はすごいらしく、人形は引き裂かれてしまった。よく見ると、その技を出すときに剣が黒くなっていた気がした。エフェクトみたいな感じだろうか……?

 とにかく、俺もやってみることにした。


「剣に力を流すような気持ちでやってみるとできるよ」


 剣に力を流す……


 俺はさっき見たまんまのものをイメージして剣に力を流すことを意識してやった。


 最初の何回かは全く何もならなかった。

 でも何十回かやったころにやっと剣が黒くなった。そして影斬りが成功した。


 あとはひたすらやってみるだけかな……


 でもあと1週間くらいで習得しなきゃいけないらしい。その次の週には入試があるらしく、もう色々大変だ……


 その日はそれで一旦終わりにした。

 今日はすごい疲れた。そのままベッドに倒れこみたい気分だけど、ご飯はちゃんと来いって言われそうだからやめた。


 俺は早々にテーブルについた。


「文人、今日は早いな」


 とりあえず軽くうなずいておく。


「ふぇー……疲れた」


 お風呂上がりの兄ちゃんが部屋に入ってきた。


「波瑠人、文人の影斬りどうだ?」

「基礎は完成してるよ」

「そうか……さすが私の息子だ」

「まあ……そうだよね……」


 俺も息子なんだけどなぁ……とか思ってそうだな……


 とりあえず、さっさとご飯を食べて寝たい。とにかく疲れた。これでわかったことは影斬りは何回もできるものではないということかな。


『ごちそうさまでした』

「早いな。もういいのか?」

『うん』


 俺は足早にダイニングルーム的なところを後にした。


 そして自分の部屋に駆け込み、ベッドに倒れ込んだ。目が覚めてから今日まで、この世界のことはそんなに知れていない気がする。街に出かけることもあんまないし、まず教科に歴史がないからそのへんもよくわからない。俺的にはもう少しこの世界のことを知りたいけど、そんな時間は無いみたいだ。


 この世界にもインターネットがあり、俺の部屋には結構なハイスペックのパソコンがある。

 そのパソコンを立ち上げ、入試の内容を見てみる。


 俺が受けるところ、どこだっけ……?


 俺はいつかもらった紙を見てみる。


『王国高等剣士学院』


 剣士学院……!? そういうことか、こういう学校だから剣を使えなきゃいけないのか……でも剣なんて何に使うの……? 剣士という職業があるなら、魔物かなんかがいるんだろうな。


 そして王国高等剣士学院の入試情報を調べてみる。


 やることはまず筆記試験で国語・数学・理科の3教科。それに加えて対人戦闘試験。


 恐らく対人戦闘試験というのは誰かと戦うんだろうな……誰かと戦うなんてやったことないんだけどなぁ……まあ、どうにかなるか、兄ちゃんなら協力してくれそうだし。


 この世界の国語は文法・漢字・読み取り・小論文と、向こうの先生とさほど変わらない。むしろ古典がなくて助かった。あれは本当に訳が分からない。歴史教育がなにもないからそれに伴って古典もないんだろうな……


 数学と理科はほぼ全く同じ。でもこっちも歴史的なことはなにもない。


 つまり俺はあまり勉強面は心配しなくてよくて、剣と魔法の面を重点的にやる必要がある。でも魔法や剣はそんなに数多くできない。そこが難点だ。


 試験まであと二週間ほど。


 とりあえず今日は疲れたからそのまま眠ってしまった。

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