第二十九話 模擬戦3
そして井花先生は第七試合の組み合わせを発表した。
「第七試合、倉本継、津田亜羅斗」
そう発表された。
そしてそのまま試合が開始された。
継が亜羅斗との距離を急激に詰め、いきなり五連撃を仕掛けた。
みんなが圧倒されている中、風音は何か考え込んでいるようだった。
「あ、そういうことか……」
風音は急にそう言った。
『どうしたの? 風音』
「いや、あの、倉本継って奴、どっかで聞いた事あるなと思ったら、同じ流派だった」
「同じ流派……? アサルト流?」
「うん。まあ、まろんは初撃でなんとなくわかってたと思うけど」
「連撃系は結構あるし。候補としては考えてたけど」
まろんの凄さがなんとなくわかった。
「でも、何で今更? あと、同じ流派だと何の関係が?」
「いや、今年もあるだろ? 属性合宿。その時に、顔会わせるのなんかなぁ……って」
「あぁ……」
この気持ちは飛翔にも分かったみたいだった。俺はそんなの気にしてる余裕ないけどな……
試合の方は、亜羅斗が継の五連撃を防いでいた。
確か亜羅斗は
「炎属性、トーク流……防御型の流派で、耐えて相手が疲れたところで攻撃する。相手はそんな流派です」
と団体戦の時にまろんが言ってたような……
その時の相手は風音だった。その時もアサルト流対トーク流だった。ということは、亜羅斗はもうアサルト流を攻略しているということか……?
確か、「アサルト流は光属性の連撃技を得意とする流派です」とあの時まろんが言ってたように、継は次々と連撃を決めていく。
防御型が勝つか、連続型が勝つか、普通に見れば防御型が勝つ。それに相手がアサルト流を知っているとなればなおさらだ。
そしてあの時のように、継が斬りこんだところをかわされ、亜羅斗が後ろから斬った。
「あの時と同じだ……」
風音はそう呟いた。風音はあの時の事を鮮明に覚えているのだろう。だから、この試合はあの時と重なって、思い出されたのだろう。風音はこの試合をどう見たのか、気になるところだ。
「そこまで! 勝者、津田亜羅斗!」
第七試合が終わった。
このクラスの人数は20人、模擬戦を組むとなると、10試合になる。ということはあと3試合。そして俺、風音、飛翔はまだ残っている。同じグループ内で戦うなんてことにもなるかもしれない、そう考えてしまった。
「第八試合、上田永亜、神代風音」
井花先生はそう言った。やっと風音の番が来た。だが、さっきの試合でフラッシュバックしたようで、風音は少し不安そうだった。
「風音、大丈夫か?」
「う、うん……」
「力抜いていけ。負ける心配なんてするな。模擬戦なんだから」
「う、うん……ありがとう、飛翔」
飛翔がなんとか風音を勇気づける。でもちょっと不安だ。
「それでは、始め!」
井花先生の合図と同時に風音は永亜に向かっていき、三連撃を仕掛けた。永亜はそれを何とか防ぎ切ったが、反撃はしなかった。そしてお互いに距離を取った。
永亜が風音の攻撃を防いだ様子は、さっきの亜羅斗と比べて、余裕がないように思えた。
「防御型じゃない……パワー型か……? もしくは……」
まろんがそんなことを呟いている。
風音は永亜と少し距離を取った。少し風音の様子がおかしいように思えた。他のグループの奴らにはわかんないかも知れないけど、ちょっとおかしい。
亜羅斗と比べて余裕がない防御。でも風音にとって、防御は防御。防がれたことに変わりはない。風音は明らかに焦っていた。
そして永亜は距離を詰め、風音に剣を振るった。風音はなんとかそれを防いだが、反動で大きな隙ができてしまった。
だが、永亜はその隙に斬りこむことはしなかった。そのまま風音との距離を取った。
「そういうこと……」
まろんがそう呟いた。
『どういうこと?』
「一撃必殺型です、あれは。ということは……スミレ流ですか……」
一撃必殺なら、追撃できないのもわかる。でも、なんで流派まで……?
『スミレ流……?』
「炎属性、一撃必殺型。一撃必殺型はスミレ流しかないので、確定です」
『そうか……』
流派がわかったことで、だからどうってことはないが。
永亜は、次の攻撃を仕掛けてきた。風音は動けない、そんな状況だった。
「風音……」
「文人さん、どうにか……」
まあ、俺なら誰にもバレずに指示できるが、それで風音が正気に戻るかはわかんないよ……? とりあえず、やってみるか。
『風音! 集中しろ! 動け! これを防いだら、大きな隙ができる。そこに連撃入れろ!』
俺は風音だけに聞こえるようにそう言った。
風音は正気に戻ったようで永亜の攻撃をなんとか防ぎ切った。そして連撃を仕掛ける。さすがに全てには反応できなかったようで、永亜は風音の攻撃ををまともに喰らった。
「くっ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「そこまで! 勝者、神代風音!」
井花先生がそう言って、試合が終わった。
永亜は悔しがっていた。それもそうだろう。二級貴族が平民に負けるなんてことになったんだから。
「文人、ありがとう。文人のあの言葉がなかったら、勝ててなかった」
『いや、大丈夫。でも、いくらトラウマとはいえ、その試合に集中しなきゃ……さ?』
「うん……ごめん」
『謝ることじゃないけどさ……』
俺は風音とそんな話をした。
そして少し話が止まったところで、井花先生が次の試合の対戦カードを発表した。
「第九試合、時山亜里、柴崎飛翔」
第九試合は飛翔の番になった。ということは、第十試合は俺と藤井柊璃の対決になるわけだ。
実際、戦ったことはなかったと思う。でも、スタイルとか、そういうのは知ってるから問題はない……と思う。
「それでは、始め!」
そして飛翔と亜里の戦いが始まった。
井花先生の合図と共に飛翔は亜里に向かって行った。亜里は反対に全く動かない。受け止めるつもりなのか……?
そして飛翔は亜里の脇腹のあたりに剣を当てようとした。が、亜里は横に飛んでその攻撃をかわした。そして背中に剣の柄を叩きつけた。
「かっ……」
飛翔はそのまま地面に倒れ込んだ。
亜里は飛翔を冷たい目でじっと見つめている。亜里は、戦いになると性格が変わるタイプだったらしい。
「そこまで! 勝者、時山亜里!」
亜里の個人順位4位は伊達じゃなかった。飛翔は学年では『強い』に入る実力を持っている。でも、『強い』の中だと『弱い』になる。それを飛翔は見せつけられたような感じだった。
戻ってきて、亜里はグループメンバーとハイタッチした。反対に飛翔はすごく落ち込んでいるようだった。
『まあ、相手は個人4位だし。しょうがないと思う』
「うん……」
『いつか勝てればいいんじゃないかな』
「……そうだな」
切り替えが早いな……
「ありがとう、文人」
『大丈夫』
飛翔は風音ほど重く受け止めるタイプではなかったようだった。




