第二十三話 王子・王女
「他、何かある人は?」
……
「じゃあ、今年の会議は終わりにしよう」
王がそう言ったから、みんなが一斉に立ち上がり、帰り支度を始めた。
「あ、そうだ」
その声で、みんなの手が一旦止まる。
「久遠の長男、水風の次男、ちょっと残ってもらえるか?」
王はそう言った。一瞬思考が停止した。
まじかよ……
「わかりました」
竜喜はそう言った。それにつられて俺も『わかりました』と了承した。
そして王も含めて全員が出ていったあと、俺と竜喜は王の護衛の人に連れられて、王の部屋に案内されることになった。
竜喜と並んで歩くのはなんか気まずかった。
「なあ」
竜喜が急に話しかけてきて、体がビクッと驚いてしまった。
「そんなびっくりすることないだろ……」
『あ……うん……』
「お前、結構、強いんだな」
『うん……あ……うん』
「ん?」
『いや……なんか急に話しかけてきたなーって』
「まあ……」
『学校ではあんな態度なのにさ……何で急に?』
「言っとくけど、俺として、強い奴にはそんな態度は取らないよ? まあ、龍杜は知らないけど」
『そうなの?』
「ああ」
『でも、なんで?』
「俺たちってさ、いつかは、剣士団に入る訳じゃん?」
『うん』
「それでさ、危険な現場に行ったりもするわけじゃん?」
『そうだね』
知らんけど。
「そういう現場で、仲いい奴が死んで、それで狂っちゃったりとかさ、そういうの、嫌なんだよ」
『うん』
「それで、そういうのが無いとは言えないけど、簡単に死なない、俺が助けなくてもいい、そういう強さを持ってる人だけ、仲良くする。他は、わざと突き放す」
『そうだったんだ……』
「これで、わかってくれたか?」
『まあ……うん』
「最初、お前は意識が戻ったばっかで、強いとは思ってなかった」
『まあ、そうだよな』
「でも、違った」
『うん』
そこまで話したところで、王の部屋に到着した。俺たちはその部屋の中に入った。
「失礼しまーす……」
「おお、よく来たね」
「はい。何の御用で……?」
「頼みたいことがあってな、とりあえず座ってくれ」
俺たちは王に促され、部屋にあったソファーに腰かけた。
「それで……?」
「いやぁ……私の子供達が来年、王国高等剣士学院に入学するんだよ」
「ほう」
「それで、君たちに護衛を頼みたいと思ってな」
「でも、ここには、プロの護衛もいるわけだし……」
「学院の雰囲気を壊すわけにもいかないからな」
「そうですか……」
「引き受けてくれるかい?」
「どうする……? 文人」
『俺は、どっちでも』
「じゃあ、引き受けさせて頂きます」
「そうか。感謝する。だが、生活に支障がない程度に頼むよ? 成績を落とされてもあれだから」
「わかりました」『わかりました』
そして王はドア付近にいた護衛に合図した。するとドアが開き、二人の子供が入ってきた。
一人は紺色の髪の男子。もう一人は、茶髪の女の子だった。
「長男の初絃と、長女の史織だ。どちらも年は15だ。ちなみに初絃の方が兄だよ」
「はぁ……」
「ほら、自己紹介を」
「初絃」
「その妹の史織と申します」
初絃は反抗期真っ只中って感じだった。史織は普通に姫って感じだった。
「先輩として頼む。実際、身分は一級貴族と王族は対して変わらない。厳しく見てやってくれ」
「わ、わかりました」
ということで、俺たちがこの二人の面倒を見ることになった。
「よろしくお願いします」
史織は少し微笑んで、そう挨拶してきた。
『よろしく。水風文人です』
「久遠竜喜です。よろしく」
俺たちも自己紹介をした。
「すみません。初絃、いつもこんな感じなので」
「全然大丈夫」
そして俺たちはフィールドに向かった。史織によると、初絃は強いことを確認しないと滅多に話さないのだという。
「強いのは?」
『……こいつが主席だ』
「じゃあ、勝負」
そういう短い会話を挟み、初絃と竜喜が戦うこととなった。
戦いはそう長くは続かなかった。なぜなら、初絃はそほど強くはなかった。
初絃が剣を向けて、向かってくる。竜喜はそれを剣で受け止め、初絃の剣を弾き飛ばした。
「え……」
初絃は思わず声を漏らした。初絃からしたら、すごく強くて、高度な技術に見えたのだろう。でも、竜喜がすごいというよりは、初絃が大分弱かったっていうのがあると思った。
「すげー……」
初絃は竜喜のことを認めたんだと思う。
「これから、よろしくお願いします」
初絃は竜喜に丁寧に挨拶した。
「初絃が竜喜さんなら、文人さん、私のこと、よろしくお願いしますね」
史織はそう言った。
『え……あ……よろしく』
急に話しかけられたから、反応が変な風にになってしまった。それでも史織は、にこっと笑ってみせる。すごくいい子だ。出来すぎてるくらいに。
「私は、史織って呼んでもらっていいので、私は、文人さんって呼ばせてもらってもいいですか……?」
『ああ。もちろんだよ。こっちこそ、呼び捨てでいいの?』
「はい! 先輩なので」
なんかほんとにいい子だな……
それに対して竜喜と初絃は、なんかすごいことになっていた。
「色々教えてください!」
「別に教えることなんて何も……」
「いや、でも!」
「俺が教えられることがあるのなら、学校なんて必要なくなるんだよ?」
「えぇ……」
兄弟かよ……
なんか見てて面白かった。なにが面白かったかはわかんないけど。
そして俺たちは、今日はそれで帰った。護衛をするのは入学してからだから、まだ時間がある。
「いいなぁ……文人」
『え?』
「だってさ、史織ちゃん、可愛いじゃん」
『まあ……可愛いけど……』
「なんだよその反応」
『俺、そういうの、疎いし……』
「さっき顔赤くなってたぞ」
『え!? やばい……』
「あはははは! じゃあな、文人」
『じゃあ……』
俺は竜喜と別れた。
今日は竜喜のイメージがガラッと変わった。実はいい奴で、自分を守るためにあえて突き放していた。なんか、それがわかったら、仲良くもできそうな気がした。一緒に護衛なんかも任されたわけだし。




