第十九話 進級テスト6(グループ戦2)
「ねえ、あそこ!」
そう言って飛翔が指差したところには、何かの肉片らしきものが落ちていた。ゴブリンだといいんだけど……
それにしてもこいつなんなんだ……? 主といっても過言ではないくらいの魔物だとは思うけど、今まで感じたことないような圧力というか、プレッシャーというか、威圧感というか……とにかく強そうだった。魔物は戦う気満々みたいだった。
『これがM3の……』
「文人さん、戦うしかないです。あれを取るのなら」
『そうだな』
「どうやるんだ? グループで一斉になんて、やったことないし」
『じゃあ、最初に俺とまろんが攻撃する。そのあと、合図するからそこで入れ替わって、連続で攻撃しよう』
「わかった」
『危なくなったらすぐに下がれよ』
全員が頷いた。
『まろん、行くぞ』
「はい」
『お前、ちゃんとつかまってろよ』
「クゥっ!」
子竜にも忠告をし、まろんと2人で攻撃を開始した。
まろんはスピード重視の流派なだけあって、すごく速かった。あっという間に魔物の死角に入り、攻撃した。俺も負けずに飛び上がり、魔物の肩のあたりを斬った。
だけど、どちらもあまり刃が通らなかった。まろんは全く通らなかったと言ってもいいくらいだった。
「え……」
その事実に飛翔と風音が動揺している。
『飛翔! 風音! 今だ!』
動き出すかは別として、とりあえず合図を出した。だけど、思った通り、2人の足は動かなかった。
『くそっ……まろん!』
まろんに呼びかけたが反応がない。辺りを見回すと、まろんは着地の時に少しつまずいたみたいだった。
『まろん、大丈夫か?』
「まあ……なんとか……」
足をひねったようだった。立とうとしたが立てない、そんなところだった。
そこに、魔物が突進してきた。それも口を開けて牙を丸出しにして。
さすがにこれはまずい。
俺は一番魔物に近かったまろんの前に立って、腕を広げた。
「文人さん……?」
『待て! この迷宮の主! 話を聞いてくれ! 俺たちは君と戦うつもりはない! 俺たちはその肉が欲しい。その肉は、俺たちの先生たちがここに置いたものなんだ』
言いながら、もう無駄だと諦めた。
普通に野生で暮らしてたら、肉なんて誰が置いて行ったかなんて関係ない。見つけたもん勝ち、食べたもん勝ち。主なんていうのは、特にそんなのを繰り返してここまで生きてきた。人間界の情なんてものは、通用するわけがない。
俺は『もうこれをするしかない』と決意を固めた。
ふぅ……と息を吐き、集中する。そして魔物を睨み、口を開く。
「止まれ!!」
俺はそう叫んだ。
魔物は俺の目の前で止まった。
はぁ……はぁ……
息がすごく上がっている。そんな中で肉片まで全力ダッシュして肉片を取って戻った。
『さっさと行くぞ』
俺は3人にそう言った。
『ごめんな。荒らして。もう大丈夫。ほんとに、ごめん』
俺は魔物にそう言い残し、その場を4人で立ち去った。
なんとか出口までたどり着いた。
出口には兄ちゃんがいた。
『なんで……? 兄ちゃんが……? はぁ……はぁ……』
「いや、役員だから」
『えぇ……?』
そして出口のモニターを見ると、3番に俺たちの名前があった。
『まじかよ……3番って……』
俺は3人の方を見たが、3人は何も話さない。目も合わせてくれない。どうしたもんか……
「文人、なんかやったか?」
『いやぁ……使っちゃってね……』
「……そうか。じゃあ、ちゃんと説明しろよ」
『うん。わかってる』
そして俺は3人のそばに行った。
『3番だって』
「文人、さっきの、なに?」
飛翔がそう聞いてきた。
『俺の能力、ちゃんと話してなかった。ごめん。でも、この能力は他の人にはあんま、言わない方がいい能力なんだ。だから、目の前で使う時が来るまで、黙ってた。ほんとごめん』
「それは……わかりました。でも、どんな能力なんですか? もう使ったんだから、話してください」
『ああ。俺の能力は、言霊だ。具体的に言うと、さっきみたいに、止まれって言ったら、その対象は止まる。そんな能力』
「……ってことは、人も殺せるの?」
『まあ……それなりの代償はあると思うけど』
「そっか……」
沈黙の時間が流れる。それを破ったのは飛翔だった。
「文人、話してくれてありがとう。多分、言えない理由があるんだろ? 俺たちも、このことは秘密にしておくよ。命、救ってもらったから」
『ありがとう。飛翔』
「私も。貴族の中の駆け引きとか、そういうのもあるって言いますしね」
『まろんも』
「ありがとう、文人」
『風音も』
みんなが言わなかったことを許してくれて、能力を受け入れてくれた。とりあえずまず一安心、といったところだった。
「っていうか、生まれちゃったって、通じるかな」
「どうだろ」
『うーん……』
「しょうがないことですよ」
『まあ、そうだな……』
「それに、3位ってすごいじゃないですか」
『そうだな』
「文人さんの言ってたことは当たってましたけど」
「文人の言ってたことって?」
『まろん……』
「すみません」
『はぁ……』
M3のこと、漏らされてしまった。どう言い訳しようか……
『まあ、俺たちさ、訳アリクラスってなってるから、なんかちょっと違う迷宮だったりするかもって話してた』
「そうだったのか……言っといてくれればよかったのに」
『ごめん。心配かけたくなかった』
「俺たちだって、そこそこの実力をあると思うよ? 今日は、手も足も出なかったけど……」
『実力を信じてない訳じゃないんだ』
「文人のこと、信じてるから」
『え?』
飛翔に急にそんなこと言われた。どんな風の吹き回しだ……
「俺も」
「私もです」
風音とまろんまで……
『グループだし。当たり前だ』




