第十六話 進級テスト3(模擬戦―訳アリクラス―)
そして2・3・4組が終わり、俺たちの番になった。観覧スペースにも人が集まり始めた。
「柴崎飛翔」
「はい」
飛翔は一応二級貴族である1組の藤井柊璃の剣をへし折ったことで学年中に知れ渡っていたみたいだった。
「それでは、始め!」
その合図で同時に動き出した。どちらもスピード型みたいだった。だからお互いに凄いスピードで向かっていき、剣と剣がぶつかり合った。体育館の中にすごい音が響く。
そのあと、何発か剣が接触する音が響いた。
「そこまで!」
審判の先生がそう言った。いくらなんでも早すぎないか……? 決着もついてないのに……
「え……? 早くない?」
飛翔でさえもそう言った。
「ルールだ。平民ごときが、逆らってくるんじゃない」
ここでも身分差別かよ。
こう言われてしまっては、飛翔も何も言い返せない。仕方なく、飛翔は引き下がった。
こんなのおかしい、とは思うが、ただの一学生がどうこうできる話じゃなさそうだった。
「次、神代風音」
「はい」
風音も平民といえば平民だ。こっちもまともに勝負してくれないんじゃ……
「それでは、始め!」
先生が一気に攻め込んできた。風音はうまく剣で防いで対応する。
多分、風音自身が連撃系の流派だから、連撃の対応は得意なのだと思う。
「はぁぁぁっ!」
風音が反撃し、あっさり3連撃を入れる。だがそれは全て防がれてしまった。
「くそっ……」
風音がそう呟いた。
その後、風音は剣を構え直して、先生を睨んだ。
「そこまで!」
飛翔ほどではないが、風音もあっさり止められてしまった。こっちも決着はついてない。
それに誰も疑問を持たない。そういうものだと育ってきているから。育った環境って大事なんだな……と実感した。
俺は身分制度が無くてみんな平等、そんな環境で育ってきているからこういう疑問を感じる。
でも、兄ちゃんもこの件については気にしてたな……そっちはなんでだろう……?
「次、日和まろん」
「はい」
ここからは貴族。決着がつくまでやってくれると思う。
「それでは、始め!」
今度は飛翔の時と同じように2人が同時に動き出し、剣のぶつかる音が響いた。
剣同士をぶつけたまま、そのまま押し合うような状態になる。押し合いだとまろんは圧倒的に不利だ。力の差がありすぎる。
その懸念通り、まろんは押し切られてしまったが、すばやく後ろに跳んでかわした。
そして先生がバランスを崩したところを突くようにまろんはチサルト流『閃光』を発動させた。
先生も必死になって対抗しようとして剣を振った。
同時にお互いの体を斬った。
「そこまで!」
そこで先生が止めた。ここは引き分けとなった。
先生と引き分けるなんて相当なものだ。あったら言わないとな、「すごい」って。
次は俺の番だ。
「1年生最後。水風文人」
「はい」
俺はフィールド内に入った。
あいつらの感じだと、俺にも家の技を出させるだろう。なら、使わないで勝ってやるよ。と俺は気合いが入っていた。
「それでは、始め!」
先生は思いっきり向かってきた。俺はそれを横に動いてかわす。
さらに後ろから斬ろうとしてきた。それを剣で防ぐ。結構押される。
「身体能力強化」
誰にも聞こえないくらいの声の大きさでそう言い、先生の剣を押し返す。近くにいた先生にも聞こえてなかっただろう。
先生は無言でどんどん攻めてくる。他の誰にも見せなかった勢いだった。さっきの強化のおかげでなんとかついて行けたが。
そして先生がスピードを上げて攻めてきた。俺は後ろに跳んでギリギリ刃の当たらない距離まで下がり、その刃を左腕で横にずらした。そしてがら空きのところに剣をぶつけた。
場内から「おぉ……」と地味な歓声が上がった。
「……ちっ……そこまで」
審判の先生は俺だけに聞こえるように舌打ちをして試合を終わらせた。俺の勝利となった。この勝利は「言霊を使えば負けることはない」と言えるような自信になった。
試合が終わった瞬間、さっきとは違った歓声が上がった。なんか褒められているようだった。褒められるのは慣れてないからなんか嫌だな……
「文人さん! おめでとうございます!」
個人戦が終わり、体育館を出ると、真っ先にまろんが駆け寄ってきてそう言った。
『ありがとう。まろんもすごかった』
「ありがとうございます! でも、まだまだです」
『まあ……グループ戦、頑張ろうな』
「はいっ!」
グループ戦はまだ未知の領域。何が起こるかわからない。自分たちにも、相手にも。
そして俺たちは教室に戻った。ほぼ同じくらいに2年生の方も終わったみたいで少し混雑していた。
「はい、おつかれ。まあ、まだあとひとつ残ってるけどな」
先生はそう言った。
「先生、その、グループ戦? って、いつやるんですか」
飛翔がそう聞いた。
「明日、迷宮のマップが配られる。だから、明後日だ」
「明日は、作戦とか考える日ってことですか」
「まあ、そういうことになる」
「けっこー優しいじゃん」
「勘違いするな。何が出てくるかは書いてない。ただのマップだ」
「まあ……そっか……」
「今日と明日は休んで、最終日に備えろ」
「「はい!」」
そして先生が教室を出ていこうとしたが、先生はその寸前で立ち止まった。
「そうだ、水風」
『はい』
「ちょっと来い」
『はい』
なぜか呼び出されてしまった。
今日のことだとは思うけど……まさか、勝ったことになんか言ってくるのか……?
俺は何室とも書いていないよくわからない部屋に案内された。
『なんの御用ですか……?』
「お前さ、今日、勝っただろ?」
『ま、まあ……』
やっぱそのことだったか……
「別に勝ったことに文句を言うつもりはない。だが……」
『だが?』
「他がどう思うかまではわからない。少なからず、危害を加える教師もいるかもしれない」
『わかりました。気を付けます』
「ああ。気を付けてくれ」
そして話は終わった。その教室から出た。
そんなことだったか……
貴族社会を利用し、自分たちの力も見せつける。それによって、生徒の反抗を防ぐ、そんな狙いがあったんだと思う。
一級貴族はこんなに強いのかと実感させ、そいつに教師が勝つ。いくら一級貴族でも子供だ。大人が勝たないわけない。なんか、せこいな。
教室に戻るとまだまろんたちはいた。
『まだ居たのか』
「いや……その……」
『なんともなかった。ただ、頑張れよって』
風音が不安そうに聞いてくるから、そう言うしかなかった。ほんとはそんなこと言われた覚えはない。
「そっか、なら、よかった」
「心配し過ぎだよ風音。文人がそんな怒られるようなことするわけないだろ」
「わかってても、心配なものは心配です」
まろんは風音の味方のようだった。飛翔はなんでいつもこうなってしまうんだろう。
『まあ、心配してくれるのはうれしいけど、そんな……ね、大丈夫だから』
「ほんとによかったです」
いや……何もなかったわけないじゃん!!
違う部屋にまで連れていかれたんだぞ!!
とは、さすがに言えないや。
『待っててくれてありがとう』
「いえいえ」
『とっとと帰ろ』
そう言って俺は教室を出た。みんなも教室を出る。
そして校門を出たところで別れた。




