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第十五話 進級テスト2(模擬戦―1組―)

 翌日

 模擬戦の日になった。


 俺たちは第二体育館に移動した。

 そこには1年生がみんな集まっていた。


 緊張感がすごい。みんな気が気じゃないっていうのはわかるけど、なんか苦しい。


「すごい緊張感……」


 まろんがそう呟いた。思ってたのが俺だけじゃなくてよかった……


「上級2年がどれだけポイント高いのかはわかってるけど……こんなに……」


 こんなに緊張する必要あるか……? と俺は思った。

 まろんがこんなに……のあとに何を続けようとしていたのかはわからないが、みんなこれにかけてることと上級2年の評価がどれだけ高いのかはわかった。


 それに加えて俺たちは学年で結構知られているらしく、すごい見られる。確かに1位のグループと戦って勝ったわけだから、注目されるのは当たり前か。


 まあ、始めのグループ得点は入試の点数で、恐らく身分が高い人ほど実技で高い評価をつけられているからあの順位になるのも納得ではある。

 だとすると、特に平民という身分にある飛翔、宮職とはいえ平民の風音はよく入学できたなと思う。



「それでは個人試験を始める。まず、1組からだ」


 1組から順番にやるみたいだった。多分俺たちは一番最後。外に居てもいいらしいが、あいつらのは見ておきたいというのがあった。

 周りも同じような考えらしく、観覧スペースは満員だった。


 あいつらでこうなら俺たちもこんな感じでいろんな人が見てる状況になるのか……?

 もしそうなら、とても言霊を使えるような状況じゃないな……こんだけの人がいれば、一人くらいは気付く可能性がある。まあ、能力の名前まではわからなくても、何らかの能力を持っていることは見抜かれてしまうだろう。



 そして1組が最後の2人になった。もちろん残っているのは竜喜と龍杜だ。


 一時、疲れて座り込んでいる人もいたが、その人たちも立ち上がった。注目度がやばい。


「1組、宮瀬龍杜」

「はい」


 龍杜が先生の前に立った。この先生は下級2年の担任をしている先生らしい。



「それでは、始め!」


 そして審判の先生の合図で二人は同時に動き出した。


 見てる人たちは歓声を上げたりはしない。静かに戦いを見つめている。


 ここまで誰もこの先生に勝った人はいない。多少押されても最後には必ず勝つ。先生が負けることはあってはいけないみたいな感じで勝ってくる。それは一級貴族相手でも同じなのか、そこは気になるところだ。


 3回くらい攻撃をし合い、剣のぶつかる音が響く。


 ここまではほぼ互角のようだった。


 先生は一回後ろに下がり、勢いをつけて龍杜に斬りかかった。練習用の剣とはいえ、剣が空気を斬る音が聞こえた。龍杜は後ろに跳んでギリギリでなんとかかわした。


「やばい……」


 龍杜はそう呟いた。相当耳を澄ませていないと聞こえないくらいだったけど、聞こえた人は結構いたみたいだった。



 今度は龍杜が凄いスピードで先生に突っ込んでいった。

 龍杜の剣は電気を纏っていてとても速かった。龍杜は宮瀬家の技、『雷』を使った。


 先生はその技をなんとか剣で受けきった。


「そこまで!」


 審判の先生もこれ以上は危険だと判断したのか、そこで止めた。


 もしかしたらこれが目的だったのかもしれない。一級貴族の技を出させて、他の1年生に見せること。そして一級貴族の強さを思い知らせておくこと。これが一生の価値観になっていく。そう考えると他人を信じられなくなりそうだ。


 周りの1年生は驚いていて、声も出せないくらいだった。息をするのを忘れてそうな人もいたくらいだ。


 確かに速さはすごかった。でも、剣で受け止められるような威力じゃ強いとは言い難いところもある。速さで圧倒されるのはわかるけど、その速さに慣れてる相手だと絶対に負ける。そんな賭けみたいな技だった。


 俺の場合は家庭教師がゴリゴリのスピード型だったからスピード面では驚かなかった。家庭教師に感謝だ。



「次、1組ラスト。久遠竜喜」

「はい」


 ついにリーダーが来た。さっきよりも観覧スペースの人が増えてる気がした。そりゃまあリーダーだし、実力はどっちが上かはわからないけど、注目度が高いことに変わりはない。


 こっちも家の技を出すまで終われないとかだったら予想が確実なものに近づく。もしそうだったらどうしよう。俺は意地でも家の技を出さないという手を使ってもいい。


 今まで使っておいてなんだけど、父さんに「そんな簡単に使っていい技ではない」と言われている。同じ一級貴族同士なら手の内がわかってるからいいんだけど、こんな大勢の前で使うのはちょっと気が引ける。



「それでは、始め!」


 今度はさっき龍杜と戦ってた先生が審判だった。そしてその先生の合図で模擬戦が始まった。


 さっきみたいにいきなり突っこんでいく、という展開にはならなかった。お互いに出方を伺っている、といった印象だ。



「うぉぉぉっ!」


 少し間が空いて、お互いに斬りかかった。


 相変わらず静かな体育館に剣同士がぶつかる音が3回ほど響いた。互角。

 剣を振るパワーは先生の方が上のはず。でも竜喜はそこを技術で補っているように見えた。


 そこから何度も何度も剣がぶつかり合う音が響く。毎回互角の強さで一向に試合展開が動かない。見てる側としては面白くないような気もするけど、そんなこと試験なのだからどうでもいいことだろう。



 模擬戦が始まって5分ほど経った。ほとんどの人はもうこの時点で終わっているような時間。でも竜喜の試合はまだ終わっていない。終わる気配もない。


 やはり、家の技を出さないと終われないのか……?

 これも勝てないことが前提の話だが。


 もう竜喜も限界だろう。そろそろあれを出してくるはずだ。


 俺のその予想は当たっていた。

 竜喜は剣を持ち直し、先生に突っ込んでいった。竜喜の剣は水色に光っていた。久遠家継承技『氷河』だ。


 先生は剣で受け止めて防ごうとした。龍杜の試合であの先生がやったように。


 だけど、竜喜にそれは通じなかった。


 竜喜は先生の剣をくぐり抜け、先生の腹に思いっきり剣をぶつけた。その勢いで先生は吹っ飛ばされ、体育館の壁にぶつかった。壁には亀裂が入っていた。

 練習用の剣じゃなかったら死んでてもおかしくなかった。それくらいの威力だった。


「そこまで!」


 審判の先生がそう言って、試合が終わった。



 周りの1年生は愕然としていた。

 大人を相手にこんな戦いを見せられたらそりゃそうなる。正直俺も驚いた。


 そして俺の周りにいた1年生がちょっと距離を取った。

 そうか、俺はあんな奴に勝ったわけだからな……そりゃ引くか……


 ちょっと悲しくなった。



 俺はあとは見る気にならなかったし、悲しい気持ちになるから外に出た。他にも外に出てる人はいた。みんな他人に興味がないみたいだった。



「文人さんも外にいたんですね」


 まろんが話しかけてきた。観覧スペースでは特に一緒にはいなかった。


『ああ。まあ、竜喜にあんな勝ち方されて、周りに引かれちゃったから、居づらくて』


 ただ興味がないってのもあるけど。とは言わなかった。


「そうだったんですね。それにしても、すごかったですね……さすがっていうか……一級貴族の力を見せつけられた感じでした」


 やっぱりそう感じ取るよな……


『そうだな。あれは凄かった』

「文人さんの技も、あんなことになるんですか?」


 俺の技は……本気出すとどうなるんだろう……


『……いや、そうはならない。流派によってタイプが違うように家によって技のタイプがある。水風家はちょっと特殊だから』


 影を斬る。特殊すぎる。


「そうなんですね。まあ、そうですよね」


 沈黙の時が流れる。


「私たち、最後ですよね? 順番的に」

『多分な』

「頑張りましょう。お互いに」

『ああ』


 まろんは体育館の中に戻っていった。

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