第十三話 団体戦2
「勝ってきたぞーっ」
飛翔は元気にそう言った。
「飛翔、さすがだよ。ありがとう」
「飛翔も結構やるじゃないですか」
『飛翔、ナイスだった』
みんな飛翔を褒める。ほんとにすごかったから別におかしなことではないが、飛翔がまさか勝つとは思ってなかった。
「次は文人だぞ」
『ああ』
俺が第三試合に出ることは最初から決まっていたが、こんな良い流れで来るとは思ってなかった。
「第三試合対象者は前へ」
俺はフィールド内に入る。
「第三試合、宮瀬龍杜対水風文人。それでは、始め!」
合図で龍杜は思いっきり向かってきた。
龍杜の剣は電撃を纏っていて、剣が通った軌道上にも電撃が残るくらいの威力だと思った。
俺は剣で弾こうと剣を目の前に構えた。
龍杜の剣を下からすくい上げるように弾く。そしてその空いた隙間に入り込み、影斬りを発動させ、龍杜の影がある地面に剣を叩きつけた。
「あ゛っ……」
龍杜は前に倒れ込んだ。
「そこまで! 勝者水風文人!」
龍杜には一回勝ってるのもあって、余裕があった。いきなり家の技を出して戦うとは思ってなかったが。
そしてみんなのところに戻る。戦いは本当にあっという間だった。
「文人、お疲れ」
「文人さん、お疲れ様です」
「文人、さすがってとこだな」
『ありがと』
みんなも最初から俺は勝てると予想していたみたいだった。
『まろん、決めてこい』
「わかってます」
第四試合はまろんと竜喜だ。まろんが出るとはいえ、相手が竜喜なら、相当な事をやらないと勝てない。運も含めて。
「第四試合対象者は前へ」
まろんはフィールド内に入った。
「第四試合、久遠竜喜対日和まろん。それでは、始め!」
二人は一斉に走り出し、お互いに剣をぶつけ合った。
男子と女子の戦いにしてはまろんは頑張ってると思う。
まろんは、竜喜の空いてる部分を正確に斬りにいく。精度は申し分ない。でも、竜喜もそんなんでは負けない。竜喜は楽にまろんの攻撃を弾いていく。
そして一旦距離をとった。
まろんは結構息が上がっていたようだった。一方、竜喜は全く疲れている様子はなかった。これが差なんだ。貴族の差。体力的にも技術的にも差がある。
そしてお互いに攻撃を再開した。
まろんの剣が黄色く光っている。チサルト流の技だろうか……? 俺にはさっぱりわからない。
一方竜喜の剣は水色に光っている。こっちは知ってる技だ。久遠家の継承技『氷河』だ。
お互いの技がぶつかり合う。
でもさすがにまろんが押し合いに勝つことはできなかった。
まろんは竜喜に押し切られてそのまま後ろに倒れ込んだ。
竜喜は倒れ込んだまろんに剣先を向けてニヤッと笑った。
「やっぱそんなもんだよな。三級貴族」
「……」
まろんは何も言い返せなかった。
これが権力というか……王政というか……貴族社会の典型……
「そこまで! 勝者、久遠竜喜!」
ああ……もう一戦か……
まろんが申し訳なさそうに戻ってきた。
「文人さん、すみません……」
『いや。いいんだ。竜喜の戦い方もわかったし』
「すみません……」
こんな申し訳なさそうにされたら……どうしたらいいかわかんないよ……
「まろんおつかれ。惜しかったな」
「お疲れ様ー」
何で二人はそんな簡単に声掛けられるの……? 俺がコミュニケーション苦手すぎるだけかもしれないが。
そして少し休憩をはさむことになった。その間に誰が出るかを決める。まあ、俺たちは最初から決まってたけど。
「予定通り文人でいいんだよね?」
『あ、うん』
「相手はどっちかな」
飛翔が言った『どっち』という二人は久遠竜喜か宮瀬龍杜かという話だが、いつも竜喜に龍杜がくっついてってるという印象がある。だから出てくるのは竜喜だと思う。俺たちは最初から、そういう予想をしていた。
『多分、久遠竜喜。どっちが出てきても勝てる』
「まあ、文人はそうだよね」
「それでは最終試合を始めます。代表者はフィールド内に」
「じゃあ、文人、頑張れよ」
「頑張って」
「文人さん……お願いします……」
3人は控室に戻っていった。控室にはモニターがあって、そこから試合を見る。ギャラリーから見るより安全だった。
「最終戦、久遠竜喜対水風文人。それでは、始め!」
先生の合図で俺と竜喜は一斉に動き出した。
竜喜は剣を俺の腹に当てるつもりで振ってきた。怪我させることとかは全く考えてないみたいだった。
俺は竜喜の剣を後ろにのけぞるように跳んでかわす。そしてバク転みたいに左手を地面について、右手で持ってた剣で竜喜の足に剣をぶつける。俺もこの時だけは怪我させる前提で剣を振ってた。
地面に落下しながらやったからそのまま地面に落下して全身を強打した。竜喜がどうなってるかなんて見てなかった。
痛っ……
「そこまで! 勝者水風文人!」
勝った……勝ったのか……よかった……
竜喜の方を見ると竜喜も倒れていた。
「文人ーっ!」
飛翔の声だ。
3人が俺に駆け寄ってきた。俺はなんとか起き上がる。
「やったな」
「文人ありがとーっ!」
「文人さん、大丈夫ですか……?」
『あ、ああ……大丈夫。よかったよ勝てて』
そんなに大丈夫じゃないけど大丈夫って言っておかなきゃな……
「おい水風」
竜喜の声だった。
『な、なに?』
「やっぱお前には勝てない。お前らに対しては、もう今までみたいに侮辱したりはしない」
『そうか』
お前らに対しては……か。
このことは瞬く間に学校中に広まっていった。
家に帰る途中のこと。
「文人、やったな」
『え?』
「見てたよ。あいつらとの試合」
『マジかよ……』
兄ちゃんも見てたのかよ……
「すごかった」
『今回は能力使ってない。前は使ったけど』
「そっか。やっぱ強いな」
『どうだろ。水風家の技が強いだけじゃ……?』
「いや。使いこなせる方もすごいよ」
『そっか……なんか……ありがとう』
「これでちょっとは変わるかな」
『いや……そんなに変わらないと思う。これはただの自己防衛のためにやっただけ。あいつらもそれはわかってて受けた』
「そうなのか?」
『ああ。あいつらはお前らに対しては侮辱するのをやめるって言った。ヘイトが俺たちじゃないところに向くだけ』
「そっか……まあ、ああいう性格だからしょうがないか」
そうだよな……これは自己防衛でしかない。ヘイトは同じクラスの誰かに向く。同じクラスでもないのにヘイトを向ける方もどうかと思うけど、これは解決ではない。もともと何かを解決するつもりもなかったが。
もし元居たあの世界ならすぐに貴族社会は廃止されるだろう。でもこの世界で貴族社会がなくなることはない。恐らく。つまり身分が上の人が下の人を見下す行為がなくなることはない。
転生したのが上の身分だったからよかったけど、二級・三級貴族だったらどうなっていたことやら……平民だったら剣士なんかにはなってないだろうけど。




