第114話 帰省
久しぶりに見る実家は、あまりまじまじと見たことが無いからか、とても大きく見えた。
自分の家なんだからと自分に言い聞かせながら門を開けて中に入る。屋敷までの一本道を足早に駆け抜け、屋敷の中に入る。
「お帰りなさいませ。連絡は無かったようですが……」
『どうせ知ってるよ。多分ね』
「そうですか」
執事とそう会話をしながら、俺は執事に連れられて広間に入った。
「文人、やっと帰ってきたか」
広間に入ると、気付いた父さんが真っ先にそう言った。
『すみません。帰れなくて』
「坂野から話は聞いていたが、忙しいだろうと思って連絡しなかったんだ」
『そう……ですか』
父さんは意外と温厚的というか、圧迫感は無いし、俺を受け入れてくれているような印象を受ける。少し妙な感覚な気もする。
「体の方はどうだ?」
『最近はそれほど酷くないと思います。治ったわけではないですけど』
「そうか。安定しているようでよかった」
それからまあ座ってと言われたので俺は指さされた父さんの目の前のソファに座った。
「辺境ではどうなんだ? ちゃんとやれてるか?」
『まあ、それなりに』
短い会話で一つ話題が終わってしまい、話すことがどんどん無くなっていく。
でも父さんは一向に今日のことやまろんのことについて聞いて来ない。
すると、沈黙を破って母さんが息を吸う音が聞こえる。
「文人、気になる人とかいないの?」
『えっと……』
「まだ帰ってきたばかりなんだから、」
「将来の話よ。大事よね?」
「ま、まぁ……」
父さんもこの話は止められないようだった。
「どうなの? 文人」
『……いるよ。彼女くらい』
「えっ」
「本当に?」
『ダメなの?』
「いや、そんなことはないが……」
思ったよりいい反応だった。いや、まだ誰なのか言っていないからわからないか。
「それで、相手は誰だ?」
『えっと……学院で同じクラスだった日和まろん。三級貴族だけど、実力は確かで、王国剣士団の第一部隊にいる』
「三級貴族……か……」
やっぱりそういう反応するよな……
「その関係は本気か?」
『……うん。本気。結婚とか、そういうのも前提で付き合ってる』
「そうか……向こうの家には話したのか?」
『いや、まだ。まずうちの方で認めてもらわないと、話せないでしょ』
「そうかもしれないな」
意外と受け入れてくれてる……?
「まあ、文人は長男じゃないし、第一部隊に入るような実力者なら申し分ない。何より本人たちが思い合っているのに、それを引き離すのは心苦しい」
『いいの?』
「ああ」
長男じゃないからいいというのもわからなくはないが……
いや、いいんだけど……
こうもすんなり言われると、少し複雑な気持ちになる。
「まあ、今度会わせろ。将来の話はその時に」
『今度って、俺、戻らなきゃいけないし……』
「ああ、わかっている。そう急がなくていい。まず先に波瑠人に結婚してもらいたいしな」
一応公認は貰えたから、今のところはこれでいい。正直ほっとした。
「そういえば、この後どうするんだ?」
『えっと……』
「今日は泊まっていくか?」
『泊まれるなら、まあ……』
「そうか」
それから一通り話を終えた俺は、自分の部屋に向かった。兄ちゃんの部屋はすぐ潰されてしまったが、俺の部屋はまだあるらしい。
「お、お兄様」
自分の部屋に向かっていると、前から瑠花がやってきてそう呼び止められる。
『瑠花、』
「そういうことだったんですね。薄々気付いていましたけど」
『聞いてたのか?』
「はい。おめでとうございます」
『まだちゃんと決まったわけじゃないけどな』
「そうですか」
まさか聞かれていたとは思っていなかったが、同じ建物にいるわけだし、しょうがないことだと思った。
『瑠花は最近どうなんだ?』
「最近……特に変わりなく。上級になっても周りの人はあまり変わらないですから」
『そ、そうか……』
俺はものすごく変わったが、確かに普通は変わらないか。上位は上位で仲良くしてたりするんだろうし。
「お兄様は、どうなんですか? お父様には曖昧な返事しかしてませんでしたけど」
『そこまで聞かれてたか……』
でも実際、そこまで話すこともないというか……
『楽しいよ、普通に。みんな優しいし、上手くやれてると思う』
「そうですか。それはよかったです」
まだ行ってから全然経っていないが。
「では、そろそろ失礼します」
『ああ。おやすみ』
「おやすみなさい」
瑠花と話せてよかった、と後から思った。




