第十話 属性合宿2
『で、俺の能力がやばいって?』
「うん。今まで色んな奴と戦う機会あったけど、こんなに強かったのはいなかった。まあ、一級貴族とか、大人対子供だったりは別として、でも、ほんとに凄かった」
『でも、剣術とかそういうのが家柄に比例するなら、ありえないことじゃないと思う。だって、俺と兄ちゃんはほぼ同じ遺伝子なんだよ? それに、ただ強いなら能力がやばいとはならないよね?』
「いや、その……どんな能力よりも応用性があって、一瞬で人を殺せたりもする能力なわけじゃん?」
『その分自分にも返ってくる』
「でも……」
『簡単に攻略されるような能力じゃないことくらいわかってる。俺にも考えがある』
「どんなの?」
『それは教えられない。信じてないわけじゃないけど、誰が敵になるかわかんないから』
「まあ……そうだけど……まあ、そうだよな」
俺の考えはただ自分の中で使うときの基準を決めただけ。
命にかかわるようなことは使いたいとほんとに思った時・人にだけ使う。ただそれだけだった。
それから約2週間、俺と兄ちゃんはお互いに自主練をした。
そして明日が最終日となった今日、俺はまた兄ちゃんと模擬戦をすることになった。
それも早朝に。
早朝なら誰も人がいないと予測して、使用可能時間の6時(朝)からやることになった。
俺たちはバトルフィールドで、あの時と同じようにかまえた。
兄ちゃんが本気で来てくれるなら、俺も本気で行きたい。そう思った。
だから……
「はぁぁぁぁっ!」
兄ちゃんは黒くなっている剣を持って向かってくる。
俺も同じ技、影斬りで対抗する。
剣と剣がぶつかり合う。そのあとは打ち合いになった。
何連撃かはわかんないけど、何度も何度も剣をぶつけ合った。
そしてお互い苦しくなって距離を取った。
はぁ……はぁ……キツイ……
そしてお互い顔を上げると目が合った。その瞬間、俺たちはお互いにまた攻撃に移った。
「加速……武器強化」
二つ同時に使った。
今度は影斬りは使わない。お互い自分の力だけで攻撃するつもりだった。
兄ちゃんは俺の首の辺りに剣をぶつけようとしてた。俺は低い体勢になったことによってそれをかわし、兄ちゃんの脇腹に剣を当てた。
勝った……勝てたんだ……
息を整えてから兄ちゃんは俺に近づいてきた。
「文人、ありがとう」
兄ちゃんは手を差し伸べてきた。
『兄ちゃんも。ありがとう』
そして俺と兄ちゃんは握手をした。
「強かった。やっぱ戦闘系能力にはいくら経験があっても勝てないな……勝てると思ってたんだけどな……」
兄ちゃんは自分の能力が戦闘系(その能力単体で攻撃できるような能力)じゃないことにコンプレックスみたいなものを感じていたんだ……俺はそれに気付かなかった……なにか、まずいことをしてしまった気がする……
「まあ、文人は特別だからな……これが人前で使えないのがちょっと悔しいけど」
兄ちゃんは笑ってそう言った。無理してるような気もした。
そして翌日、ついに最終日を迎えた。
「はい。今日は最終日なので、はじめに言った通り、ランダムマッチで模擬戦をしたいと思います」
講師の人がそう言った。そしてくじ引きの結果、兄ちゃんと真宮、花宮と宮瀬龍杜、久遠竜喜と俺という組み合わせになった。
そして先に3試合が行われた。俺の試合は最後になってしまった。
兄ちゃんは余裕で快勝し、真宮・花宮両名に土下座でいじめたことを謝られてた。講師の人はぽかんとしていたが。
そして俺たちの番になった。
「お前なんかに負けねーから」
竜喜はそう言った。約2週間前に龍杜が負けてるっていうのによくそこまでの自身があるな……それとも空元気か?
『俺だって、負けるつもりはない』
いかにも喋ってるかのようなこの策はまだバレてなかった。
「準備はいいか? それでは、始め!」
合図で同時に動き出す。
龍杜の時みたいに一瞬で終わらせる。俺はそんな思いで竜喜に向かっていった。
「武器強化」
バレない程度に言霊を使って向かって行った。
そして俺の剣と竜喜の剣がぶつかり合う。俺はそのまま剣を押し込み、弾き飛ばした。それによって竜喜の手から剣が吹っ飛んでいった。
『これで俺の勝ちだ』
あっさり勝利宣言までしてしまった。これは完全に煽ってる。
「く、くそっ……」
とても悔しがっていた。
「そこまで!」
これで俺の勝ちが確定した。
「なんでこんなぽっと出の奴に負けないといけないんだ……絶対何かしただろ!」
竜喜はあながち間違ってはいない。俺は武器の強化をしただけだけど、何かはしている。「何か」という単語の意味は広い。
「不正は見受けられなかった。変な言いがかりはやめたまえ。家の為にも」
講師の人がそう言ってくれた。この擁護がなかったら俺はどうなっていたことやら……
そして2週間にも及んだ属性合宿が終わった。
ここから数日の休みを挟んでまた学校が始まる。他の人の話を聞いてみたいという気持ちが大きかった。こんなに学校が楽しみになったのはいつぶりだろうか……
その楽しみにしていた学校が始まった。
「おはようございます、文人さん」
まろんが一番最初に話しかけてくれた。
『おはよう。まろん』
俺は挨拶を返す。
他はというと、机にぶっ倒れていた。
『大丈夫か? 飛翔、風音……』
「だ、大丈夫。おはよー文人」
「おはよう文人。心配ありがとう」
大丈夫みたいでよかった。
「どうだった? みんな」
飛翔が俺の聞きたいことを聞いてくれた。
「なんか……よく……わかんなかったけど、自分にはあってたと思う。大変だったけどね」
風音はそういう感想だった。満点の感想だと思う。もちろん俺基準で。
「私は……元々お父様に教わってた流派だったから、苦労はしなかったわ」
まろんはさすがといったところか……
「文人は?」
『俺は……特に、何も……』
「一級貴族は何したの?」
『なんか……模擬戦と、自主練かな』
「いーなー」
飛翔はそんなにきつかったのか……?
「一級貴族は英才教育がすごいですからね。飛翔が遊んでいる間にみっちり剣の練習をしてたんですから。幼少期から」
まろんは貴族のことに詳しいな……他が知らなすぎるだけかもしれないが。
『まあ……兄ちゃんはな。俺は、半年くらいしかやってないけど』
俺は小学校の時は普通に遊んでた。当たり前だけど。
「半年で習得できるもんなのか?」
『うーん……そういうのは年齢にもよるらしいから、一概には……』
「そうか……」
疑問には思わなかったし、誰も疑問には思っていなかった。兄ちゃんに聞くとそう教えられた。ほんとかどうかは知らないけど。どうにしても、俺はイレギュラーだとは思う。
「逆に自分はどうなんですか」
まろんは飛翔へのあたりが結構強い気がする。
「きつかったんだよ……なんかわかんないけど、基礎めっちゃやらされて、流派の剣術教わったの最後の2日間だけだったし……なんか、全員ができるまでやるみたいになって……一生終わんないかと思った」
飛翔は足を引っ張られまくって散々だったみたいだ。
「その分基礎がしっかりしたんじゃないんですか?」
あたりが強い。
「確かに……それもそうだな……」
飛翔はまろんの態度をどう思ってるのだろうか……
そして教室に先生が入ってきた。
「みんなおはよう。属性合宿お疲れ様。まあ、今日からまた授業始まるので、頑張ろう」
授業か……属性合宿の方が楽しかったかもな……




