犬のステキはポーカーフェイス
お父さんの友達の立花の小父さんが僕たち兄妹を迎えに来てくれた。
当然小父さんの愛犬ステキも一緒。
小父さんは街から離れた山の麓で自給自足の生活を営んでいる。
僕たち兄妹はそんな自然に囲まれた小父さんの家で毎年冬休みを過ごさせて貰っているんだ。
小父さんは乗ってきた車を僕たちの両親が営んでいるレストランの駐車場に停めて、昔馴染みが沢山いる商店街に挨拶しながら自給自足の生活では賄え無い生活必需品の買い物に行く。
僕たちはステキのリードを持たせて貰いステキと散歩をしながら小父さんのお供をする。
ステキは散歩の間なにがあろうともポーカーフェイス。
嬉しい事があっても嫌な事があってもキリとしたポーカーフェイスを崩さない。
それなのに、小父さんの家に帰りリードを外されて雪に埋もれた広い畑や田んぼに放されると、顔に満面の笑顔を浮かべて走り回る。
僕たちも一緒に走り回るのだけど一番の遊びは隠れんぼ、ステキは凄く頭が良くて、真っ白な身体を雪の中に埋めると何処にいるが全く分からない。
何時もステキを見つけられ無い妹が泣き出して隠れんぼは終わる。
妹が泣き出すとステキは慌てて雪の中から飛び出して来て妹の顔を舐め回すから。
以前、家では喜怒哀楽を満面に表すのに何で外ではポーカーフェイスなの? って小父さんに聞いた事かあるのだけど。
理由を聞いたら悲しくなった。
ステキは小父さんに拾われる前に飼われていた飼い主に虐待されていたのだ。
仔犬のステキに殴る蹴るの暴行を加え最後は川に投げ込んで殺そうとした。
前の飼い主が川の中で藻掻くステキを棒で殴ったり突っついたりして沈めようとしているのを小父さんが見つけ、胸まである冷たい川に飛び込んでステキを助ける。
その事に文句を言う前の飼い主に、動物虐待で通報するぞと一喝して追い払った。
だからステキは虐待された時の後遺症で知らない人がいる前ではポーカーフェイスに徹しているけど、小父さんや僕たち心を許せる人たちの前では喜怒哀楽を顔に出せるって訳。
因みにステキの名前は素敵から取ったのでは無いって数年前小父さんが教えてくれた。
ステキを助けた日、小父さんは街で僕たちのお父さんが焼くステーキが食べたくて車で向かっていたのだけど、ステキを助け家に連れ帰り怪我の手当をしていたらステーキの事を忘れてしまう。
それが名前を考えてたらその事を思い出して、ステーキからーを取りステキって名付けたのだって。