第6話 私は
前回のあらすじ
スキルの説明を全部見た。
まずは魔法系統スキルの火属性。
発火と念じると、体内が動き、魔力が吸われ、私の効き手である右手の人差し指の先に
魔力が集まる。すると小さな火が出現した。マッチよりは少し大きいぐらいだろうか。
「あっッッッッッッッッつ!?」
油断して観察していた結果、人差し指を火傷した。
てか自分の魔法なのに火傷って…
痛みに苦しんでいるといつの間にか火が消え、
残ったのは火傷だけだった。
「ふーっ、ふー…」
息を吹きかけながら、次のスキル名を念じる。
(流水)
同じように人差し指の先に出現した丸い水の塊。
急いで火傷した部分を突っ込んで冷やす。
少し経つと、水は消滅した。
少し冷やされたお陰で痛みは大分緩和した。
(火は使わないどこ…)
何故こんな仕様にしたんだよ!せめて自分には効果ない様にして!
はぁ…しかし、気持ち悪い感覚だなぁ…
自分で魔力を動かす時は勿論自分だから次の感覚が予想できるけど、
意思に反して動くから凄く気持ちが悪い。
見えない何かに内臓を弄り回されてる気分だ。
まぁ…それでも全部確認しておきたいから
一度は発動させてみよう。
さて、次は風属性。
(弱風!)
指先から少し風が吹く。
弱風と言うだけあって滅茶苦茶弱いな…
手で風を起こした方が強そうだ。
さて次は闇属性。
どうやら魔族?とかいう種族しか持ってない属性らしい。
その理論でいくと天使は光属性とか持ってるのかな?
まぁ試しに暗黒と念じてみると、指先に真っ黒な黒い球体が出てきた。
大きさは人差し指と親指で丸を作った時の最大ぐらい。
「…なにこれ」
そのまま数秒経つと、黒い球体は縮小し、消えてしまった。
いや、なにこれ?
まずなんの用途があるんだろうか…そしてどの場面で使うんだ?
…まぁ、次いくか。
次は土属性。
土生成と念じると
平べったい地面にボコッと土の小山が出来ていた。
今までの魔法より多く魔力が消費されており、
暫く待っても消える様子はなかった。
しょぼ…いや、待てよ
これを使えば、壁を作れるかも!
ゴリ押しだけど、ひたすら小山を積み上げていけば!
そうと決まれば…
(土生成 土生成 土生成…!)
……。
夢中になって作っていると、魔力が無くなったのか
いくら念じても発動しなくなってしまった。
魔力が無くなった影響か、滅茶苦茶体が重い…。
幸いというか、頑張ったら腕と手は動かせた。
地面に座りながら、壁のボコボコを平にしていく。
天井と地面が近い所から埋めて行き、
不安定な所は辺りの土を取りペタペタと張り付けていった。
少し隠れる所が出来たが、全体の壁を作る事はできなかった。
まぁこれから少しずつ作って行けばいいか。
やる事も無くなったので辺りを見渡すと、もうすでに夕方だった。
まだ赤いので太陽は出ていそうだが、もうそろそろで夜だろう。
とりあいず夜になって、動けるようになったら土だらけの手を洗いに行こう…
あと…めっちゃお腹空いた…。
なんか魔力切れになってすぐお腹鳴りだしたんだよね…
魔力切れと食欲、なんかの関係があるんだろう。
今は分かりようがないけど。
…前世だって、生き物の命を頂いてはいた。
けれど勿論、自分がやった訳ではなかった。
でも此処は、それで生きて行ける世界ではないんだろう。
私は生きたい。例え人間じゃなく、化物になったとしても
それでも私は死にたくない。
生きたいと思う事の、何がいけないのだろうか。
誰だって死にたくない。けれど、何かを殺さなきゃ生きていけない。
それなら私はー…。
夕方には動けるようになって、手を洗っていたら夜になっていた。
昨日は満月だったが、今日は曇りでよく見えなかった。
今なら分かる。日中とは比べ物にならない魔力があるのが。
身体能力も、それに伴って高くなっていたんだろう。
感覚さえもその対象内だともわかる。
細やかな風の音、空から聞こえる鳥の音。
小動物が動かす草の音、静かな水の音。
…人型の生物が動く足音。
(鋭い爪)、そう念じた後、生物の方に向かった。
木々を避けながら向かっていると、
緑色の皮膚をし、人とは決定的に違う歪な頭。
その瞳孔はキョロキョロと動き、何かを探している様子だった。
(権限)
〈ーーーーーーステータスーーーーーー〉
種族:小鬼
レベル:7
ースキルー
『視覚補正』『気配隠蔽』
〈ーーーーーーーーーーーーーーーーー〉
やっぱり、ゴブリンか。レベル7…結構高いけど、大丈夫かな?
動いてる様子を見るに私よりトロそうだし、一発入れてみっかな。
ゴブリンの背後に回り込み、近付いた所でジャンプする。
ゴブリンは音に気付き振り返ったが、その時には私はゴブリンの頭上だ。
着地し振り返り、左手で首を掴む。そのまま押し倒し、足で腕を抑える。
一応抵抗はしているようだが、とてつもなく力が弱い。
これなら大丈夫だろう。私はゴブリンの首元に噛み付いた。
その傷から出た血を吸う。
(美味しい…)
想像した味じゃなかったが、不味いよりはマシだろう。
久しぶりのご飯に夢中になっていると、
次第に元々弱かった抵抗はもっと弱って行き、
そして最終的には、動かなくなった。
出が弱って来た時、急に味が変わった。
泥水でも飲んでいるかのような。
「げほっ、ごほっ」
驚き、飛んで少し離れると少し吐いてしまった。
(何故急に…?)
もう拘束はしていないが、動かない所を見るに死んだのだろう。
死んだから…か?
思えば不味くなったのは動かなくなった時とほぼ同時だったし…
(生き血…だからか)
初めて生き物を殺した。なのに、なぜこんなに冷静でいられてしまうのだろう。
こんな…血に塗れた光景。それを目の前にして私は動揺も何もできなかった。
それは…この光景を、なんでもないと、当たり前の光景だと思っている証拠。
私は、もう日本にいた頃には戻れない。
私は…吸血鬼になったんだと、今、実感した。
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