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吸血鬼になった私の話  作者: へたっぴのゆゆ
第1章 転生編
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第25話 実感

前回のあらすじ

戦況が悪化した。

…攻撃の手を緩める事になるが、指でクロスしてバツを作ってみるか。

シュウは策があると言っていたし、それを頼らざるおえない。


こんな状況になるのなら、シュウの言う策とやらを無理矢理にでも問い詰めれば良かったか…

ほぼ命を握られているという状況で少し甘過ぎたのかも知れない。


と、後悔していても仕方がない。魔法の発動をやめ、指でバツを作る。

すぐシュウも気付いたらしく、宙に文字を書く。少し見難いが…


『後10体の死』


いや、どういう意味…?後十体殺せって?この状況で相手を半数以下にするなんて不可能…

…もしかして、味方…ゴブリンも含めて?


ふと前を見ると、ゴブリン達の動きが途中の頃と変わっているように見えた。

最初は実力を確かめつつ攻撃を。頭数を減らすのを優先していた。

そして私の射程距離になった頃、今度は守りをメインに、私の狙撃で数を減らしていた。


だが今はある程度侵攻を防ぐと同時に、確実に攻めに移っている。

それも普通ではない…冒険者に腹を刺されたゴブリンの背中から、

大剣を持ったゴブリンがそのゴブリンごと突き刺したのだ。


まるで自爆特攻だ。私は今回の襲撃さえなんとか出来れば良いけれど、

シュウはここを移動できない。この襲撃は謂わば駆除みたいなもので、

駆除対象を殺すまでは更なる襲撃が来る事は目に見えている。

逃げられないという枷を負っているシュウにとって、この行動は自殺行為と大差がない。


…だがそれを咎め、私だけで敵の半数を狩る実力は私にはない。

ありがたく、この波に混じる事にしよう。


魔法の発動をとり止め、地面に足をつける。

そして駆け出す。冒険者の方へ。


道中にいるゴブリンはまるで背中に目があるように私を避け、道を作る。

私の視界はシュウも見てるし、おそらくシュウが指示を出しているんだろう。


(権限)


手当たり次第権限でレベルを確認し、近くにいる1番弱い奴から狩っていこう。

件の偵察隊はこの中でそこそこ強いらしく、平均してレベル35と言う高さだった。

そしてこの冒険者の中でも最もレベルが高いのは…


〈ーーーーーーステータスーーーーーー〉

名前:ナキ

性別:女

年齢:19

レベル:43

種族:エルフ


ースキルー

『火属性魔法..5』『風属性魔法..4』『魔力操作..2』

『弓術..2』『棒術..1』『偽装..3』『魔装矢..1』

『魔装糸..2』『魔力付与..1』『悪食..3』『創造..1』


ー称号ー

『奇襲者..2』『魔法使い..4』『魔術使い..1』

『弓使い..1』『死線を潜し者..2』『毒耐性..1』

〈ーーーーーーーーーーーーーーーーー〉


あの戦闘狂軍団…じゃなかった、偵察隊。

そのメンバー全員がナキを主軸に動いている。

つまりあのメンバーでの主戦力は彼女ということ。


43と言う高レベル、スキルや称号の多さ…って、エルフ?所謂、森の民、と言うやつだろうか。

しかし彼女の耳は見えにくいが、長くはない…ように見える。

って、そんな事気にしている場合じゃない、種族が何であろうが、襲ってくると言う事は敵だ。

しかし排除したいのは山々だが、距離も遠くどれだけ時間がかかるか、勝てるかもわからない相手。

明確な目標がある以上、無理して戦う意味はない。


目標である10体は先程ゴブリンが相打ちをしていたので残りは8体。

さて、どう削ろうか…と、もうそんなことを考えている場合ではない。

位置は一気に近づき、一人の冒険者の視界が私を捉える。


「「吸血鬼(ヴァンパイア)だーーーッ!!」」


そんな大声が聞こえ、一斉に冒険者達の視線がこちらに注がれた。

ここからが、本当の戦い。


本当の…殺し合い。



冒険者は剣を構えようとするが、それより先に私の爪が冒険者の頭に触れた。

三本の爪を素早く振り下ろし、それぞれ頭部に骨の覗く線ができる。

鮮血と肉片が辺りに撒き散り、その命を散らした。


役割を果たした爪を地面へ向けると、ぼと、と爪に挟まった肉片が地面に落ちた。


「…ぁ……はっぁ………ッ」


仄かに温かい肉が滴り落ち、赤い水が零れて溢れ。

そこにあった命は消え、冷たく、汚い、物になった。

おいしそうな血が、急激に冷め、急激に汚くなる。


気持ちわるい。気味が悪かった。



急に足が揺れ、地面があるのか分からなくなる。


限界だった。


目の前で倒れた人影、鉄臭さに塗れた空気、ぼたぼたと流れ続ける赤色。

肉のぶよぶよとした感覚、冷める血と腕の温度。

視覚、嗅覚、聴覚、感覚、その全てが証明していた。


お前()人間を殺す化け物(・・)なのだと。



同じ意思ある生命を、この手で殺した。

そこに躊躇いはあっただろうか?


爪の先から、ドス黒い穢れが這い上がり、手を染めていく。

それはすぐに腕を染め、いずれ全てを埋め尽くしそうだ。

…それはいつか、心臓をも到達するのだろうか。


(…穢れたバケモノ。)


気にしてなんていられなかった。

でも、それは今もそうだというのに。

早く、次を。理屈ではそう思うのに、体が動かない。震えが止まらない。


息切れなどしていないのに、心臓の鼓動が速くなってなどいないのに、

震えは止まらず、息は絶えない。

瞳は開き切り、乾き切っているというのに、前が見えない。


嘘をついて来た。今まで見てこなかった。感情に蓋をした。

だって…だって、それを見れば、知れば、分かってしまえば、壊れてしまうから。

異常者でありたかった。それを普通ではないと、認識したくなかったから。


ヒビが入り、歪みきった心は、バケモノと呼ぶに相応しかっただろうか。




ひとを、ヒトを、人を。


……殺した。

閲覧ありがとうございます。

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