第23話 襲撃
前回のあらすじ
作戦会議をした。
「…わかったわ。」
『じゃあ、これで作戦会議は終了だね。
これからは外出は控えて、常に入り口にゴブリンを待機させる。
それと常に視界共有を。襲撃に気付いたら合図をしてくれ。
合図は…視界共有を解かない物がいいけど…』
何かあった時互いに状況が判断できるよう、視界共有を解くのは避けたい。
ただそれが1番分かりやすい合図でもあるけれど…
「ん〜…じゃあ私は爪を伸ばして視界に入れる。シュウは剣を見る。
それでどう?」
『うん、それでいいよ。じゃあ感覚共有しとこうか』
「了解」
私がそう答えると、すぐに感覚共有が発動する。
右上にシュウの見ている視界が広がる。
合図が来たらわかる様気を付けないとね。
「じゃあ部屋に戻るわ」
『うん、視界はちゃんと見といてね』
「分かってるわよ」
そう言い残し、私は部屋に向かって歩く。
ぺた、ぺたと足音が鳴り、少し冷たい石の床が足の裏に染みる。
静かで薄暗い石に包まれた洞窟の空間をゆっくりと歩いて行く。
色々な事が頭に浮んだが、今は気にしない事にした。
ー・・・
部屋に戻り、数時間程だろうか。
洞窟の外から、大量の足音がこちらに近付いてくる。
シュウも気付いたらしく、共有した視界に剣が大きく映った。
「…はぁ」
頭の考えを振り払うように、覚悟を決めるようにため息をついた。
はたまた、それは諦めの意思だっただろうか。
私は早歩きで広場に向かった。
道中、シュウはコアの部屋に入り、コアを覗く。
どうやら権限の様に目に文字が浮かぶようだが、右上の小さな視界では読めない。
まぁコアを操作できるのはダンジョンマスターだけであり、私には関係ないと言えばないのだが。
そんなことを考えているうち、私は広場に着いた。
いつも広場に待機しているゴブリン達は前方の通路に集まっており、
一部のゴブリンの手には杖や剣が握られている。
「…長い爪」
そう言い終わった後、爪は鋭く、長く伸び、私の武器へと変わる。
前方へと視線を移すと入り口で戦闘が始まっているのが見えた。
一見ゴブリン達はただ本能のままに戦っているようだが、杖持ちのメイジを遠くに置いたり、
2対1で畳みかけるなどの戦術をとっていた。
おそらくシュウが教えたのだろう。
しかし付け焼き刃に過ぎず、メイジの攻撃で傷を負うゴブリンも少なくない。
乱戦を防ぎたいのはそうだが、この広場で戦っても相手の数もわからないし、
どちらにせよ乱戦になる可能性が高い。
守るべき部屋の前で防衛するより、通路から抜けられたとしてもすぐに確認ができ、
対応を考える時間ができるこの位置に私を配置したのだろう。
私が見ればシュウにも伝わる。
それはかなりのアドバンテージなのかもしれない。
そんな頭の良い奴の考えを真似してみたところで、
頭の悪い私には戦略等さっぱりなのだが。
と、そんな事を考えている場合じゃないな。
ゴブリン達は善戦し、致命傷を負っていそうな冒険者も少し居る。
だが同じ、もしくはそれ以上の数のゴブリンが同じぐらいの傷を負っており、
このまま行けば少なくない数の冒険者が広場に流れ込む事になるだろう。
今ゴブリン達がある程度冒険者を抑えているうちに、
数を減らす、もしくはダメージを与えておかねば。
羽を動かし、前線の様子を確認しやすい高さに飛ぶ。
冒険者の位置を確認し、狙いを定め、それらに向かって手を伸ばす。
(石生成)
人差し指と中指、その先に円錐形の石を作る。
本当は五つぐらい作れるのだけれど、そうすると発射位置がブレる。
今の拮抗した状況でこれ以上味方へダメージを与える訳にはいかない。
正確さを優先させつつ、動く相手を狙うには今の私じゃこれが限界だった。
(形状の鋭さは後回し、正確さと速度を上げる。
硬度も出来るだけ硬く…)
もう片方の手を右手に添え、より魔力を練り上げる。
目を閉じ、感覚に意識を集中する。
霧のような不確かな物で、水のように不形状な魔力。
けれど触れる。収束できる。集め、繋ぎ、硬め、より凝縮する。
それらを行うは想像。考え、見えぬ手を動かす。
不可視のそれを、この目で見る。そうして創造する。
それが魔法。
目を開くと、指先に2つの円錐形の石が出現していた。
それは素早く回転しており、解き放たれる瞬間を待ち、その力を確固たる存在へと変化させて行く。
「発射ッ!」
解き放たれた魔法は、目標地点へと素早く進む。
時間にして2秒程だっただろうか。魔法は目標地点、冒険者の頭部へと命中し、冒険者の皮の帽子を貫き、
その内部へと到達させ、その衝撃で頭部を床へ打ち付け、赤い血飛沫が辺りに散った。
二つ目の石は冒険者の耳を掠め、その身を赤色に染まりながら地面へと突き刺さった。
即死だ。二人目は兎も角、脳を貫かれ死なない人間等いない。
…初めて人を殺めた。それを認識した後、最初に生まれた感情は自分の技が通用すると言う安堵だった。
この世界に転生してから、魔物、動物、遂には人を殺めてしまった。
「…はっ……ぁ」
けれどこの心臓は乱れる事なく、その生命を静かに証明する。
…ばけもの。
そんな言葉が頭を過ぎるが、今は深く思考している時間はない。
今回当てれたのは敵が警戒していなかったから。当然次弾は警戒され、当てる難易度は桁違いだろう。
次からが本番。早く次弾の準備をしないと…
冒険者達は少しの混乱を見せていた。
耳に被弾しかすり傷を負った冒険者がそれを叫び、状況を仲間に伝えていた。
しかしその隙を見逃さず、間髪無くゴブリンが襲いにかかる。
隙を見せた冒険者は容赦無く斬られ、冒険者達に更なる動揺が広がった。
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