第20話 それだけ
前回のあらすじ
偵察隊を尾行中。
暫く尾行していたが、他愛のない会話だけで情報はあまり得られなかった。
しかし、全員分の名前は分かった。
片手剣使いのヒルタ、大剣使いのハガル。
斧使いのリーリェ、そして杖を持っているナキ。
男2、女2のパーティ。
この世界の魔法と魔術の定義がわからないからわからないけど、
ナキっていう人はおそらく魔法か魔術使いなんだろうな。
そして気弱な聖職者、ハルン。
彼らは偵察隊らしいが、彼ら自身は討伐出来たらそれで良いと思っているらしい。
ハルンを除いて。
一旦偵察隊からは離れて、霧化を解く。
[彼らは偵察隊だった。全員の名前以外情報は今のところなし。
どうする?まだ続ける?]
少しの間が開いた後、返信が来た。
[情報が得られなくても、彼らの行動を放っておく事はできない。
彼らが森から出る、もしくは朝になるまで尾行していてほしい。]
これ以上、何か得られるとは思わないけれど。
まぁ洞窟に突っ込まれても困るし、監視はしておくべきね。
ー・・・
「ぁーあ。何もいなかったじゃん。
まぁ魔物は確かに少なかったけどー」
「いなかったらそれでいいじゃないですか…
はぁ…やっと帰れる…」
「吸血鬼なんて珍しい魔物、折角だし会って見たかったんですけどね。
ハルンさんは討伐隊にも参加するんですか?」
「い、いえ…僕は遠慮しておこうかなーって…」
それから2、3時間後、そんな会話をしながら彼らは森を離れていった。
[行ったわよ。会話的にも戻ってくる事はないと思う。]
…[そう。とりあいず今は時間が惜しい。
会話の詳細は昼聞く。ルナはこのままレベル上げを続行]
[了解]
まぁ昼だったらお互い開いてるしね。
今すぐ戻ってレベル上げを中断するよりそちらを優先する方が良いか。
(鋭い爪・霧化)
さてと…探しますか。
(まぁ最近狩りまくってるから見つけられても5匹とかなんだけど。
…お)
〈ーーーーーーステータスーーーーーー〉
種族:狼
レベル:11
ースキルー
『嗅覚補正』『鋭い爪』
〈ーーーーーーーーーーーーーーーーー〉
今まで見たウルフの中で一番レベルが高いかもな。
さてと…どうしようか。
(まだ気付かれてはいない…かといって血を吸う余裕はないか。
ウルフは早いからな…そんなお腹空いてないし、普通にやろう)
奇襲者のレベルも上げたいんだけど…まぁ今度でいいか。
(霧化解除)
羽で落下速度を軽減しつつ、音も軽減。
今のところ気付かれてはいない…が、それも時間の問題。
だけど最初の一発ぐらいは入れられる…!
「キャウッ!?」
追撃!
「『発火』!」
手の平程のサイズの火の玉はウルフにしっかりと当たった。
でもやはり火力は弱く、少し皮膚を焦がした程度だ。
「ギャゥウ…ガルウゥウウッ!!」
ウルフは仕返しと言わんばかりに爪で攻撃しようとしてくる。
しかしスキルも使ってないのか爪は短い。
(これなら避け…!!)
「いっッ!?」
鈍い痛みが腕に響く。
咄嗟に腕を見ると爪で切られたであろう四本の爪の痕。
ウルフの爪を見るとその爪は長く、赤色に塗れていた。
(攻撃の直前にスキル…!?避けれると思わせたのか…!)
そんなスキルの使い方も…ってそれどころじゃない!
傷はもう治り始めているし問題はないけれど、考える事より先に仕留めなきゃ…!
「ガルァアアアッ!!」
ウルフは同じく爪で切り掛かってくる。
今度はスキルは使いっぱのようだ。
流石に同じ手は出さない…か?
とりあいず…爪でガードし、空いているもう片方の爪を突き刺すっ!
「っああぁああああッ!?」
防げてなかった…!?
…もしかして、長い爪で油断させて私の爪に当たる瞬間スキルを解除し、
通り抜けた後スキルを使った…!?
肩に爪が刺さっている。いや、刺さっているというよりかは斬られている。
正面は骨で止められているものの、後ろはもう少し深くまでいっているだろう。
(痛い痛い痛い…ッッ!)
あぁ、痛い。
どうして私がこんな目に?
どうして…
…黙れ。早く、相手を…
「殺す」
ウルフを突き刺す。
真ん中まで来た所でコツン、と何かに当たった。
それごと全てを貫く。
「っ…ぁあああ!!」
それでウルフは死んだのか、その場に倒れ込む。
その時にさらに傷口に爪が刺さり抉られたようだ。
「いってぇ…この野郎…」
そんな言葉を死体にぶつける。
利己的な発言だ。ウルフはもっと痛かっただろうに。
…あぁ、嫌になってきた。
早く次を探そう。
(霧化。)
いつまで続くのだろう…この生活は。
いつまで…生きればいいんだろう。
ー・・・
今日はちょっと早めに帰った。
感覚共有を解除して、シュウに軽く尾行内容を報告してから部屋に戻る。
(はぁ。今日は…疲れた。)
偵察隊…彼らは焦った様子ではなかった。
おそらく、相手は私達のことをもう見つけている。
討伐隊が来る日は、もうすぐそこまで来ているのだろう。
明日…明後日。もしくは今すぐ。
私達は勝てるのだろうか。私は…
殺せるのだろうか。
…もう、殆ど罪悪感を覚えない。
元々…いや、吸血鬼になってからはずっとそう。
私にとってそれは日常になってしまっている。
でもそれは魔物だけ。
かつての私と同じ…人を、人間を。
私は…
…自分の傷には痛い痛いと喚きながら、相手の命を奪う。
自分本位にも程がある。
きっとそんなもんなのだろう、人間なんて。
そんなもんだ。私という人間なんて。
……馬鹿みたいだな。あぁ、馬鹿みたいだ。
答えなんて決まりきっている。
私は生きる。
それでも……それでも、悩んでいたのは
もう目は逸らせない。ただ…それだけ。
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