間話 森の中の出来事2 ※別視点
前回のあらすじ
ホブゴブリンに襲われ中。
(ッ…!!「「おぅッらッ!!」」
全力で走って来たのであろうラジがその勢いのまま、
ゴブリンに蹴りを食らわせていた。
少し遅れたオクナーも追い付いてきたようで、
目の前に立ち、私を守ろうとしてくれている。
「ティア!大丈夫か!?」
「…う、ん」
コイツ、普通に喋れたのか。
なんて悠長なことを考えている暇は勿論なく、
ホブゴブリンはすぐに体勢を立て直し、ラジに襲いかかっていた。
ラジは剣と拳を器用に使いわけ、なんとか張り合っている。
しかし、その顔には汗が滲んでおり、
このままじゃまずいという様子が伺えた。
「オク…ナー!!」
「わかってるッ!!」
ゴブリンが腕を振るうがラジはひょいっと身軽に躱した。
オクナーはその隙を見逃さずゴブリンに剣を振るう。
「ギャギャァアッ!」
傷を付けられたゴブリンは腹立たしそうにオクナーに攻撃する。
オクナーは冷静に相手の動きを読み、盾でその攻撃を受け止めた。
そこにラジは畳みかけ、剣を振り下ろす。
しかしそう簡単にはいかず、爪で弾かれてしまう。
その行動を予知していたかのように、オクナーは更なる攻撃をしかける。
互いの行動を全て把握しているかのように俊敏に動き、敵を翻弄する。
だが小さな傷しかつけれず、疲労が蓄積していくだけだった。
そう、彼らは決め手に欠けていた。
時間稼ぎ。そう認識した私は思いっきり両手を伸ばし、
目を閉じ、魔術を練り上げ始める。
(構築、制御、形成…
アイツを一発で倒す、大きな大きな紅い炎。)
魔術とは精神集中だ。
本来感じることなんてない魔力を、人の手で糸の様に編み込む。
しかし、集中を切れさせたり、動かし方を誤れば一瞬で糸は解けてしまう。
特に人は魔力を操作するのに向いていない。
だが、それを出来るからこそ私は魔術師なのだ。
意識を閉じ、世界に耳を傾ける。
魔力の世界。そこで魔術師は繊細な糸を感じ、編み、創造する。
見えないし触れない。しかしそこにある物。
私の力になってくれる物。
(構築する。巨大な灼熱を。
制御する。私を助けてくれる力を。
創り出す。敵を退ける紅い炎をッ!!)
目を開ける。
「ラジ!オクナー!」
私がそう声をかけると、二人は瞬時に意図を把握したようで、
同時にゴブリンから距離を取り始めた。
伸ばした手のひらの中には、巨大な灼熱が存在していた。
「思いッきり焼き焦がしてあげるッ!」
魔術を放つと、魔術はホブゴブリンへ向かっていく。
猛スピードで向かって来る魔術ホブゴブリンは避ける事も出来ず、
そのまま魔術は命中した。
「「ボカーンッ!!」」と巨大な爆破音が鳴り響くと、
辺りは熱風で包まれた。
「あっつッ!?ティアッ!!
手加減ぐらいしろって言っただろ!」
「こちとら傷を負ってるのよ?手加減なんてして
仕留められなかったらこっちが仕留められるわ!」
そうやって喧嘩する私達を横目にオクナーは魔法を発動していた。
霧雨。そう言うと、温度は徐々に低下して行った。
「うわージメジメする…別に魔法使う程じゃないじゃない、
あの程度で熱いなんて弱っちいわね!」
「ティアが熱に耐性あり過ぎるんだよ!
ほらみろ、素材取れないじゃないか」
煙が落ち着き、向こうを見てみると黒焦げを行き過ぎ、
灰になったホブゴブリンの死骸があった。
「どうせホブゴブリンから売れる素材なんて取れないじゃない、
魔石があれば十分よ…っいてて…オクナー手当てお願い…」
少し熱が冷め、痛みを思い出してきた…
私がオクナーに手当てをしてもらっている間に、
ラジはホブゴブリンの灰に近付き、手を突っ込む。
少し灰の中を弄り、魔石を取り出す。
魔物の心臓である魔石は、魔力が多い、質がいい物程輝く。
魔石はラジの手の中で紫色に輝いていた。
「あーあ、やっぱ紫か。」
「まぁ良いじゃない。光はそこそこなんだし。
あ、手当てありがとう。」
「…」
相変わらず無言だ。
魔石を持ったラジがこちらに歩いてくる。
そして歩みを止め、私を見つめる。
私が何?と聞く前に彼は喋り始めた。
「あの、えっと…。ティア、さっきは置いてってごめん…
俺が無防備だった。」
「別に良いわよ、私も…察知系のスキルを使えば良かったし、
早くラジ達の方向に走っていれば怪我もしなかったかもしれない。
怪我をしたのはアンタのせいじゃないわ」
「あのホブゴブリン、威圧系のスキルを持っていたのだろう。
俺も瞬時に体が動かず、対応できなかった。
ラジのせいでもティアのせいでもない。」
「オクナー…普通に喋れるのか。」
ラジも普段一言しか話さないオクナーが、
長文を話した事に驚いているようだった。
「つまり誰のせいでもないってことよ、
命の危険がある怪我じゃないし、今後お互い気をつけましょう。
それに私達は冒険者よ?多少の怪我ぐらいするものだわ。」
「ああ…そうだな。
早く薬草を採って帰ろう。」
怪我人だから、と手伝うことを許されなかった私は
男2人が丁寧に草を引っこ抜いている所を眺めた後、
魔物に気をつけながら、街に帰った。
ー・・・
依頼の報酬と魔石の換金が終わり、私達は少し待機場で休憩していた。
「…ねぇラジ、森の中の事のことなんだけど…」
「?どうした?」
「ホブゴブリンに追い詰められた時、
誰かに火の魔法で助けられたの。
ラジは…見てない?」
「俺は見てないな…オクナーは?」
オクナーは無言で首を振る。
二人とも見てないのね…
(…あの人は一体…お礼を言う間もなく消えてしまったし…)
私が考え込んでいると、こんな声が聞こえてきた。
「「緊急召集!!ランクD以上の冒険者は積極的に参加してください!緊急召集!」」
「緊急依頼か?珍しい。Dランク以上だから、
俺らには関係ないけど…」
ラジはギルド員とは反対に落ち着いていた。
オクナーも興味がない様で、軽く頷きだけ返していた。
私は少し興味が湧いたので、依頼内容を見に行ってみた。
少し人でゴチャゴチャしていてよく見えないが、あれは…
「《緊急依頼》討伐対象:吸血鬼とゴブリンの巣…?」
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