九 次の約束
一日投稿が空いてしまい、申し訳ありません。
次回以降はまた、毎日投稿に戻りますので、よろしくお願いします。
読んでいただけたら嬉しいです。
真夜とモール内を歩き始めてから、一時間程で礼華から電話がかかって来る。
教えられた集合場所に向かうと、そこは高級ホテルの目の前であった。
「マジか・・・」
そこにいた人物を見て、思わず声を漏らす。
「来たわね。二人とも」
白いポニーテールを揺らす礼華。
そしてーー
「こんばんわ」
先程まで一緒にいた、秋音である。
「偶々、この辺りをうろついていたらしくってね。折角だし呼んだわ。秋音も一ノ瀬君と知り合いなんでしょう?」
「あー、まあ・・・」
礼華はどういうつもりなのだろうか。
彼女の意図が読めない。
「さて、とりあえずご飯を食べましょうか。さっき、無理を言って予約を空けてもらったから、急ぎましょう」
彼女に連れて行かれたのは、ホテルの中にあるレストランだった。書かれているメニューには値段が書いておらず、水の入ったグラス一つとっても、高級感がある。
「何でも頼んで良いわよ?奢るから」
「・・・じゃ、遠慮無く」
店員に呪文のように長いメニュー名を頼み終えた後で、真夜が口を開く。
「秋音さんもここに居たなんて、すごい偶然ですね」
心臓が跳ね上がる。
真夜に嘘は通じない。秋音はどう切り抜けるつもりなのだろうか。
「うん、この辺りにある本屋さんに用があったの。ほら」
そう言って、秋音は鞄の中からブックカバーに包まれた本を取り出す。
真夜の反応を確かめると、彼女は特に疑った様子も無く、納得していた。
「どんな本なんですか?」
「ふふ、シリーズだから・・・今度、持っていくね?」
秋音の言葉は嘘の筈なのに、真夜は見抜けなかった。
もしかして、何か抜け道があるのだろうか。
そんな事を考えていると、目の前に座る礼華から呼ばれる。
「一ノ瀬君、であってるかしら?」
「・・・ああ」
「じゃあ、一ノ瀬君は、真夜とどういう経緯で知り合ったの?」
どう答えるべきか、迷う。
まさか、自殺しようとしていた真夜を助けたから、などとは言えない。
「・・・あー、まあ、色々とな」
「あら、言いづらい事かしら?どうなの、真夜?」
「えーと、その、ちょっと私が困っていた時に、一ノ瀬さんに助けて貰ったんです」
「・・・ふーん、じゃあ秋音とは?」
「ふふ、一ノ瀬君が真夜ちゃんと一緒に居る時に会ったの」
俺への質問だったが、秋音が答える。
礼華が更に質問をしようとすると、店員が食事を持ってきた。
一旦おしゃべりを中断して、食事の為に礼華がサングラスを外す。
「・・・その目は」
「・・・ふふ、気になる?アルビノなのよ、私」
礼華の目は珍しい紅色であった。
「あー、だからサングラスを」
「そういうこと、日傘は必須アイテムなのよ」
何気ない会話をしながら、食事に手をつける。
「そういえば二人とも、他のメンバーと連絡は取ってる?」
「いえ、解散してからは一度も・・・何かあったんですか?」
数日前に解散した『Six』だが、六人中、三人はまだ芸能界で活動している。とは言っても、アイドルでは無い。モデルや女優としてだ。
「桜花が心配してたわよ?連絡するかどうか迷ってたみたいだから、貴方達から連絡してあげて?」
「分かりました」
こういう会話になると俺は入り込めない。
黙々とご飯を食べていると、テーブルの下で何者かの脚が俺の脚に寄せられる。
「・・・」
「ふふ、どうかした?」
無言で秋音を睨む。
触られた方向からして、脚を寄せてきているのは間違い無く彼女だ。
とはいえ、ここで変に反応しては、残りの二人にバレる。
「一ノ瀬さん、どうかしました?」
「・・・いや、こういった店に来るのは、あんまねえから、ちょっとな」
「確かにそうですね。私達はプロデューサーによく連れてきてもらってましたけど、普通来ないですよね」
無視して真夜と話していると、秋音のつま先が俺の足をなぞりながら、膝まで来る。
流石にこれは、見過ごせない。
「・・・席を外していいか?」
「構わないわ」
さっさと食事を終えて、一旦店の外に出る。
同時に、スマホが震えた。
「緊張しちゃった?」
差出人は分かりきっている。舌打ち混じりに「やり過ぎだ」と返して席に戻ると、残りの三人も既にご飯を食べ終わっていた。
俺が席に着くと、礼華が口を開く。
「さて、まだまだ話したい事はあるんだけど、ちょっと予定が詰まっているの、今日は解散にするわ。ほら、レディーファースト、二人から先に出なさい」
真夜と秋音が先に店を出る。
礼華が出ていくのを待っていると、彼女が声をかけてきた。
「来週土曜の午後十時、ここに来なさい。少し、お話ししましょう?」
「・・・断ったら?」
「さあ?どうなっても知らないわ?」
手渡されたのは、四つ折りにされた紙であった。礼華はそれ以上何も言わずに出て行く。
「・・・めんどくせえな」
呟き、彼女の後を追う。
外に出ると、既に礼華の秘書が車に乗って待っていた。
「それじゃあ、また今度会いましょう」
「はい、また今度」
車窓から顔を出した礼華と二人が話していると、思い出したように礼華が言う。
「あ、そうだ。今度、椿がドラマの撮影でここに来るらしいわ」
「え、椿さんですか?」
「椿ちゃんと会うのは久しぶりだね」
「そうですね。いつ来るんですか?」
「確か・・・来週の日曜日だった筈よ」
来週の日曜日、俺が呼ばれた日の翌日。
何か意味があるのだろうか。
「それじゃあ、一ノ瀬君も、また会いましょう?」
彼女の紅瞳が俺を捉える。
「ああ、また」
どうやら、彼女と会う他に選択肢は無いようだった。