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依存少女  作者: かなん
7/22

七 絶・体・絶・名

緩和したら、緊張しなければなりません。

読んでいただけたら嬉しいです。


 店の大窓から外を眺める。梅雨を思い出したかのように振り出した小雨は俺の憂鬱を更に増幅させる。

 大した用事も無くスマホをいじっていると、店に新しい客が来た。


「ごめん、ね?ちょっと遅れちゃった」


 先日とは違い、長い灰色の髪をサイドテールにしてきっちり変装してきた秋音は、飲み物を注文しながら俺の目の前に座る。

 彼女の服装はライトブラウンを基調とした緩めのトップスに、ロングスカート。予想を裏切らないというべきか、いかにも彼女らしい。


「別に遅れてねえよ」


 約束の時間までまだ五分はある。

 ぶっきらぼうに言うと、楽しそうに秋音が笑う。

 

「ふふ、意外だね」

「何が?」

「私よりも早く来てくれてたから。もしかして、楽しみにしててくれた?」

「いや、全然」


 何言ってんだお前、という視線を向けると、秋音はそれでも楽しそうな表情をする。


「じゃあ、紳士さんだね。お家の中もきれいだったし、実は几帳面だったりする?」

「物がねえだけだ」

「それに、今はかわいい同居人もいるしね?」


 秋音が揶揄うように言ってくると同時に、彼女の頼んだ飲み物が机に置かれる。

 

「・・・で、あんたはその同居人をぶっ壊したいわけだ」


 店員が立ち去ってから、皮肉たっぷりに返してやるが、彼女はどこ吹く風とばかりにそれを受け流す。


「勘違いしないで、ね?私は真夜ちゃんのこと大好きだよ」

「・・・」

「だけど、それでも我慢出来ないんだ。真夜ちゃんの自殺癖と同じ」


 そう言う彼女の瞳には、隠しきれない興奮があった。心無しか息も荒くなっているような気がする。

 何でこう、俺の知り合うアイドルはみんな、一癖も二癖もあるのだろうか。

 

「あんた・・・」

「秋音」

「あ?」

「そう呼んで欲しいな。呼んでくれなきゃ、全部バラしちゃうかも」


 そう言って、彼女はベージュのケースに入ったスマホをチラつかせる。


「・・・・・・・秋音」

「ふふ、なーに?」


 秋音が机に乗り出して顔を寄せてくる。

 甘い、脳がクラクラするような匂いが鼻腔をくすぐるが、気にせず続ける。


「あいつ・・・吉宮を死なせたい訳じゃ無いんだな?」

「当然、だよ。さっきも言ったけど、真夜ちゃんの事は大好きだから」

「・・・分かった」


 秋音が嘘をついているようには見えない。

 まあ、どちらにしても俺に選択肢は無いのだが、彼女経由で真夜に全てが明かされる心配をしなくて良いだけでも、少しは気が楽だ。


「それより、折角私といるのに真夜ちゃんの話ばっかり?もっと、一ノ瀬君の事を知りたいな」

「アイドルの個人情報よりも、重要なもんじゃねえよ」

「私にとっては重要、だよ?」


 その後、互いのカップが空になるまで暫く話し合ってから店を出る。

 雨はより酷くなっていたが、俺達の居た店は、大型ショッピングモールの店内にある為、問題は無い。


「で、どこ行くんだ?」

「エスコート、してくれないんだ?」

「・・・」

「ふふ、なんてね。大丈夫、だよ。一ノ瀬君と話しながら歩いているだけでも楽しいから」


 楽しそうに笑う彼女は俺の手に自分の手を絡めて引っ張る。


「じゃあ、行こう?」



 現在、俺達は隣町のショッピングモールにいた。

 理由は当然、真夜と鉢合わせるのを避ける為だ。


「ほら、私がいる」

「だな」


 秋音が指をさすのは、大型電子ポスターだ。

 解散したとは言え、様々なコマーシャルに起用されていた『Six』は様々なところで目にする。


「一ノ瀬君は、この中だと誰が一番好き?」

「別に興味ねえな」

「付き合ってる、のに?」

「・・・じゃあ、あんた」

「秋音」

「・・・ハルだな」

「・・・まあ、良いけど」


 少しむくれる可愛らしい少女と、あの歪んだ笑みを浮かべた秋音が同一人物とは到底思えない。

 

「お腹減った?」


 秋音が尋ねてくる。


「まあ、それなりに」

「じゃあ、ご飯食べに行こう。私も、少しお腹が・・・きゃっ」


 と、歩き出した時、人混みを縫うようにして走ってきた小さな少女が秋音にぶつかった。

 咄嗟に彼女の背中に手を回して抱き止める。


「っと、大丈夫か?」

「うん、大丈夫、だよ。それより」


 言いながら、秋音が倒れた少女に駆け寄る。

 

「大丈夫?」

「うん・・・あっ!」

「?」


 少女の視線の先は、秋音のスカートだ。見てみると、少女の手に持っていたアイスがベットリと付いてしまっている。


「ご、ごめ・・・」


 青ざめて謝ろうとする少女。そんな彼女に目線を合わせるようにして秋音が膝を地面に着く。


「大丈夫だよ、気にしないで?」

「ごめんなさい・・・」


 だが、パニックになってしまった少女は今にも泣き出しそうで、そんな彼女の頬を秋音は優しく手で撫でると、掛けていた眼鏡を外した。


 すると、驚いたような顔で少女が泣き止む。


「『Six』のハルはこんな事じゃ怒らない、よ。それと、この事は絶対に秘密、ね?」

「は、はい!」

「じゃあ、今度は気をつけて・・・このお金で新しくアイスを買って、ね」

「あ、ありがとう・・・ございます!」


 少女はきっちり頭を下げると、早足で立ち去っていく。

 

「すごいな、あん・・・秋音」

「ふふ、元アイドル、だから。けど、ごめんね?ご飯の前に、服、買いに行っても良い?」

「俺を何だと思ってんだ・・・構わねえよ」


 アイスをハンカチで軽く拭き取ってから服屋に入る。

 暫く服を見てから、秋音はスカートやスキニーなどをいくつか取ると、試着に向かう。


「ちょっと、待ってて、ね」

「ああ」


 そう言って、彼女がカーテンを閉める。

 手持ち無沙汰になり、スマホを弄っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「もしかして、一ノ瀬さんですか?

「ん?・・・ッ、ゲホ!ゴホ!」


 振り返り、そこに居た予想外の人物に思わず咳き込んでしまう。


「え、大丈夫ですか!?」

「い、いや・・・大丈夫だ。それより、どうしてここに?」


 声の主は、今、俺が最も会いたくなかった人物、吉宮真夜であった。

 

「それは・・・」


 真夜が俺の質問に答えようとすると、その背後から更に見知った顔が出てくる。


「私が連れてきたからよ」

「・・・あんたは」


 白い肌、ポニーテールにされた白髪にサングラス。

 ニヤリと笑った口元から覗く、鋭利な歯。


「お久しぶりね、昨日のラーメン屋以来かしら」


 


 

 



 



 


 


 

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