六 オススメのラーメンは?
皆様の評価、ありがとうございます。
今回の話は、緩和の話ですが、読んでいただけたら嬉しいです。
告白という名の脅迫を受けた後に分かった事だが、元々、秋音は午後から真夜の家に行く予定だったらしい。
「明日、デートしよ?」
と、誰もを魅了する蠱惑的な表情で言い残して出て行った秋音を見送ってから、俺は机の上に置かれた頭痛薬を手に取る。
薬を流し込んでから、顔を洗っていると、隣に置いておいたスマホが震えた。
今度は何だ?とうんざりした気分になりつつ手に取ると、友人の空御からだった。
外に出ると、最早梅雨など存在しないかのような快晴で、日光に晒された首元がジリジリと焦げるような錯覚を覚える。
「よう、遥」
待ち合わせ場所の駅前にやってきた空御を睨む。
「だから・・・」
「分かってるっての。名前で呼ぶな、だろ?」
「チッ、なら、そうしろ」
「機嫌悪いな、なんかあったか?」
空御の察しがいい・・・というよりは、俺が態度に出し過ぎていた。
冷静になる為に、焦りや不安からくる苛立ちごと、肺の中の空気を吐き出す。
「・・・まあな」
「ま、昼飯がてら愚痴くらい聞いてやるよ。ラーメンでいいか?」
「はっ、寿司じゃねえのかよ」
「寿司は珠那がいる時にな」
「あいつの予定に合わせんのめんどくせえんだよなぁ」
話もそこそこに、駅の側にあるラーメン屋に入る。
カウンターに座り、メニューも開かずに注文する。ここには何度も来ている為、頼むメニューも決まっている。
「んで、何があったんだ?」
水を飲みながら、空御が尋ねてくる。
「・・・そうだな、どこまで話すべきか」
隣に座る友人の口の硬さは知っているし、信頼もしている。だが、それでも秘密を知る者は増やしたくない。
面倒ごとが増えるのもそうだし、何より、真夜に余計な刺激を与えたくない。
話す内容を考えていると、後ろから話しかけられた。
「失礼、ここのオススメを聞いても良いかしら?」
振り返る。
尋ねてきたのは、小柄な少女だった。
白髪のポニーテールとサングラス、白すぎる肌が特徴的な、一眼見たら忘れられないような少女だ。
「・・・どうして俺らに?店員に聞けば良いのでは?」
空御が聞くと、少女はニヤリと不敵に笑う。
チラリと覗いた白い歯は鋭利な刃物のように尖っており、どこか、凶暴そうな印象を受ける。
「おもしろき事もなき世をおもしろく」
「・・・高杉晋作?」
俺が言うと、彼女が頷く。
「ええ、普通に店員さんに聞いてもつまらないでしょう?常連らしい貴方達に聞いた方が楽しそうですもの」
「ふーん・・・お前はどれだと思う?」
空御に聞くと、彼が自分の手元に届いたラーメンを見て答える。
「醤油ラーメンでいいんじゃね?」
「あー、じゃあ、それで」
俺の手元にあるラーメンも醤油味だ。
実際、ここのラーメンは醤油が一番だと思う。
「成る程・・・では、私もそれにしましょう。ところで、貴方」
そう言って、少女が俺を指でさす。
「何?」
「最近、女の子と会った?こう、灰色とも黒とも言えないような色素の薄い髪を二つにまとめた、とっても可愛らしい女の子」
「・・・」
心当たりはあった。
だが、目の前の少女が秋音の事を知っているのだろうか?別の誰かと勘違いしている可能性も十分にある。
「・・・悪いが、知らねえなぁ」
「そうですか?じゃあ、勘違いかしら。ごめんなさいね。さて、じゃあ私も注文を・・・」
少女が言おうとした瞬間、ガラリとラーメン屋の扉が勢いよく開けられる。
「プロデューサー、やっと見つけました〜。もう、余計な手間をかけさせないでください〜」
「あら?美奈、よくここが分かったわね?」
「めちゃくちゃ聞き込みをしたんですよ!もう、時間が無いんですから、行きますよ!」
「嘘!?まだ、ラーメンを食べてないのだけど!」
「後にして下さい!」
スーツを着た気弱そうな女性は少女を引っ張って無理やりラーメン屋から連れ出していく。
残された俺達は、互いに顔を見合わせて首を傾げる。
「一体何だったんだろうな?」
「さあな」
走行中の車内、ラーメン屋から連れ出された少女は不機嫌そうに車の座席カバーを足蹴にする。
「あーあ、ラーメン食べたかったわ」
「そう言わないでください〜。そもそも、ここに来た目的は『Six』のメンバーに会う為ですよ」
「ええ、分かっているわ。でも、大丈夫よ」
「何がですか〜?」
「もう、手掛かりは見つけたから」
「え、それって」
窓の外を眺める少女は、薄く微笑み、誰にも聞こえないように呟く。
「随分、好き放題やってるみたいね?ハル」