四 普通の嫉妬
緊張と緩和を書きたいです。
読んでいただけたら嬉しいです。
「やっぱり、真夜ちゃんだ。ふふ、久しぶりだね」
儚げで透明な雰囲気を纏う少女が真夜の手を取る。
困惑した様子の真夜は、されるがままになりつつも、なんとか口を開く。
「え・・・と、色々聞きたい事はあるけど、秋音さんはどうしてここに?」
「どうしてって・・・友達に会いに来ただけだよ?こっちでの生活が落ち着いてから電話しようと思ったんだけど、丁度見つけたから」」
「本当に、それだけなんですか?」
「うん・・・けれど」
そう言った少女は俺の方に視線を向けてくる。
「今は、ちょっと違うかも」
二人から三人になった俺達は、適当なカフェに入って、飲み物だけを頼む。
店員に席まで案内されると、俺の隣に真夜、真夜の正面にもう一人の少女が座った。
「谷塚秋音です。よろしく」
「一ノ瀬遥、よろしく」
互いに簡単な自己紹介を終えてから、秋音が切り出す。
「それで、二人はどういう関係なのかな?」
「友達です」
と、真夜。
だが、秋音の反撃は鋭かった。
「友達が普通、こんなふうに手を繋ぐ?」
そう言ってスマホの写真を見せてくる。そこには、ばっちりと恋人繋ぎをした俺と真夜の姿がある。
頭痛がぶり返してくるような気分だった。というか、アイドル達の間では脅迫写真を撮るのが流行っているのだろうか。
「そ、それは・・・」
困った様子の真夜に助け舟を出してやる事にする。
流石に、このまま放置して、関係を誤解されても困る。
「なあ、あんた、関係を知ってどうしたいんだ?」
わざわざ写真を撮ったのだ、何か要求があるのだろうと思っていたのだが、目の前の少女は慌てて首を振る。
「ううん、そんなつもりじゃないよ。純粋に気になっただけ」
「そうか?なら、こいつの言った通り、友人だよ。あんたの邪推するような関係はない」
「そうなの?」
「男女で多少、親密ならああいう繋ぎ方ぐらいするだろ」
「そう、なのかな?」
実際は知らないが、こういうのは言っている側が、自信を持っていれば大体は誤魔化せる。
それに、俺と真夜が恋人ではないというのは事実だ。
「じゃあ、一ノ瀬君は真夜ちゃんの事好き?」
「な、秋音さん!」
「んー、嫌いじゃないな」
「そうなんだ。じゃあ、二人はいつ知り合ったの?」
「最近だな、四日前だったか?・・・てか、楽しそうだな」
質問してくる秋音は、俺と真夜の関係に興味津々のようで、答える度に別の質問をしてくる。
「あ・・・ごめんね?その、アイドルになる前から男の子とは話したことも無くて、友達もあんまり居なかったから」
「別に責めてねえよ」
真夜という前例があるせいか、少しキツく当たり過ぎたかもしれない。
俺がそう言うと、彼女は再び目を輝かせて質問を続けようとするが、その時、いきなり横から誰かが割って入ってきた。
「あの、『Six』のハルさんですよね!」
ハル、というのは秋音の芸名だ。
そういえば、隣の真夜とは違って秋音は変装していない。見れば、一目でわかる。
「えーと、もう『Six』は辞めたから」
「あ、そうでしたね!じゃあ、ハルさん、もし良かったらサインとか貰えませんか!ペンとか買ってきたので!」
「その・・・ごめんなさい。もう、アイドルは辞めたから、芸名を勝手に使えないんです。ですから、サインはちょっと」
「そんな!?せめて握手だけでも!」
「まあ、それくらいなら」
「うわ!やった!」
少年が握手をしてもらった腕を眺めながら走り去っていく。そんな景色を見ていると、目の前の秋音も隣の真夜も有名人である事に気付かされる。
「あ、ごめんなさい。今日は余り外にいる気は無くて、その、変装を・・・」
「気にして・・・」
申し訳無さそうな彼女に気にしてない旨を伝えようとすると、真夜が遮って言う。
「そうですね。今日は一旦解散にしませんか?また、ファンの方が来るかもしれませんし・・・一ノ瀬さんが居ると、要らぬ誤解を招くかもしれません」
「・・・あー、まあ、そうだな」
確かに、と思い直す。
今の秋音と一緒にいて写真など撮られようものなら、学校で注目の的になる事間違い無しだ。
「秋音さん、私の住所は後で送っておくので、積もる話はまた明日にしましょう」
「そうしよっか。バイバーイ、真夜ちゃん、一ノ瀬君・・・あ、お金」
「良いよ、俺が払っとく」
秋音と別れた後、真夜が俺の服を引っ張る。
「あの・・・秋音さんは可愛いと思いますか?」
「まあ、そりゃアイドルだしな」
「・・・そう、ですよね」
しおらしい様子の真夜の聞きたい言葉はすぐに分かった。
「心配しなくても、あんたも可愛いと思うぜ?」
「っ、そう、ですか!・・・その、続きしませんか?デートの!」
「まあ、構わねえよ」
普段がこんなに奥手なのに、どうしてやばい時はあそこまで振り切れるのか。
そんな事を考えながら、彼女に手を引かれて夜まで買い物を続けた。
そして、翌日。
休日ということもあり、十時を過ぎてもベッドから起き上がらなかった俺を起こしたのは、インターホンの音だった。
勧誘か何かかと思い、ドアを開けると、そこに居たのは昨日の少女、秋音だった。
「何でだよ・・・」