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依存少女  作者: かなん
2/22

二 脅迫写真は一瞬で作れます

一人目の闇です。

読んでいただけたら、嬉しいです。


 風呂をあがると、真夜はソファの片隅で俯いて座っていた。

 俺が風呂から出てきた事は分かっているだろうに、敢えて無視しているようだ。一度風呂に入って、落ち着いたら余計な事を考えだしたのだろうか。


「レモンティー、リンゴジュース、水、お茶、どれがいい?」

「・・・」


 黙り込んだままの少女、勝手にお茶の入ったグラスを二つ持っていく。


「置いとく」

「何で、助けたんですか」

「・・・あんたが助けてくれって言ったんだろうが」

「だとしても、普通助けに来ないですよ。あんな危ない所」

「別に、出来ると思ったからやっただけだ。それとも、死にたいのか?」


 怒っている、とは少し違う。苛立っている様子の真夜に質問する。

 すると、彼女は緩く首を振った。


「なら、別に良いだろ。てか、辛気臭いから、それ以上その顔すんのやめろ。折角アイドルが家に居んのに、全然ときめかねえ」

「それが、自殺しようとしていた子にかける言葉ですか?・・・それと、元アイドルですよ。見たんでしょう?もう『Six』は解散したんです」


 呆れたように笑う真夜は、先ほどより少しは元気になったようだ。同時に、よりデリケートな話題を切り出す。


「・・・それが、自殺の理由か?」


 だが、彼女は再び首を振って否定する。


「いえ、どちらかと言えば、逆です」

「逆?」


 言っている意味が分からず、オウム返しをしてしまうが、彼女はそれ以上話すつもりは無いようだった。


「ところで、まだ、名前を聞いてなかったですよね?」

「そういや、そうだったな。一ノ瀬だ。一ノ瀬遥」

「一ノ瀬、さん。年齢を聞いても?」

「今年で十六」

「え、十六!?私より年下じゃないですか!」


 物凄く驚かれた。

 まあ、よく言われる。大人びていると言えば、聞こえは良いが、俺の場合は寧ろ、若さが無いという方が正しいだろう。


「うるせえよ。このアパート木造なんだ。こんな早朝に大声出すと、隣から壁叩かれる」

「あ、すいません」

「てか、今何時だ?」


 家に帰ってきたから随分時間が経ったような気がして、部屋に置かれた時計を見る。

 時刻は七時を少し回った辺りで、普段の俺ならそろそろ家を出ているころだ。


「もうこんな時間か、ワンピースは・・・まあ、乾いてるわけねえよなぁ」


 言いながら、どうするべきか考える。

 学校を休むというのは、出来ればやりたくない。かと言って、俺の部屋に彼女一人を残して行きたくもない。

 すると、彼女から提案された。

 

「あの、私、一旦帰ります」

「帰れんのか?」


 自殺しようとしていた彼女を思い出して、少し心配になる。一度知り合った奴に死なれるのは後味が悪い。

 だが、無用な心配のようだった。


「はい、もう大丈夫です。色々と、整理出来たので」

「ふーん」

「あの、後で服とかお返ししたいので、連絡先を聞いても良いですか?」

「別に良いよ、捨てといてくれ」

「そういう訳にはいきません。お礼もしたいですし」


 正直な話、これ以上関わるのはめんどくさかったのだが、住所がバレてるし、ここで嘘を教えて、後々家に来られても困る。


「分かったよ」


 電話番号とメールアドレスを書いた紙を渡す。


「ありがとうございます。では、また明日に」

「別に無理しなくていいからなー」


 彼女を見送ってから、大きくため息を吐き出す。

 朝から尋常ではなく疲れた。やはり学校を休もうかと思うが、そういう訳にもいかない。

 薄っぺらい鞄を持って、足取りも重く学校に向かう事にした。



 そして、翌日の放課後。

 真夜から送られてきたメールにあった店で彼女と落ち合う。


「あ、遥さん」

「・・・どうも」


 男一人で入るのは憚れるような雰囲気の店の中、彼女の前に座る。返答に間があったのは、変装していた彼女が、誰かわからなかったからだ。


「一瞬、誰か分からなかったわ」

「まあ、寧ろバレたらダメですから」


 会話もそこそこに彼女から紙袋を手渡される。

 

「律儀にどうも」

「いえ、それで、もし良かったらこの後お時間ありますか?」

「無い」


 即答する。別にこの後は自宅に直帰だが、これ以上面倒ごとに関わりたくなかった。


「そう・・・ですか」


 肩を落とす彼女に申し訳なさが募り、思わず、口が滑る。


「あー、まあ、少しは暇がある・・・飲み物くらいは飲むよ」

「・・・はいっ!ふふ、実はここ、アイドル時代からの常連なんです」



 その後、俺の腹がコーヒーで膨れるまで話してから、席を立つ。


「俺が払っとく」

「いえ、そんな、私から誘ったんですから」

「そんなの気にするくらいなら、もう川に落ちんな」


 会計を済ませて店を出ると、もう日が暮れかけていた。なんだかんだで、三時間近く話していたらしい。


「あの、この後の用事は・・・」

「別に問題ねえよ。じゃあな」

「あ、待って下さい!」

「悪いな、予定が詰まってんだ」


 気不味そうな彼女にぶっきらぼうに答えて、さっさと別れる。

 いい加減にしないと、別れ時が分からなくなる。

 


 少年が走り去った後、残された少女はぽつりと呟く。


「・・・どうして」




 彼女を振り切るように、早足で自宅まで帰る。

 玄関に紙袋を投げ捨てて、服も着替えずにベッドに転がった。


「マジで疲れた・・・」

 

 ベッドの上で暫く目を閉じて、この二日間の記憶を整理する。思えば、最初から俺らしくない事をしてしまった。今後、こういった面倒な事態にならないようにしようと決意して、風呂に入ろうとすると、滅多にならないインターホンが鳴った。


 まさかと思い扉を開けると、そこには案の定、この二日間で見知った顔があった。


「あんた・・・」


 その直後、胸に少女が倒れ込んでくる。


「は?」


 軽すぎるその身体は、余りにも冷たい。

 同時に、ズボンに生暖かい感覚。慌ててそこを見ると、彼女の手から真っ赤な液体が流れ出していた。


「おいおい、待て待て!」


 脳が泡立つような感覚、咄嗟に外を見ると、まるで彼女の足跡を表すように赤い点が続いている。

 取り敢えず、彼女の身体を部屋に入れる。血がフロアを汚すが、気にしている場合では無い。腕をタオルで腕を固く縛ってから救急箱を取り出し、血止め用の薬を彼女の傷口に押し込む。


「救急だ!住所は・・・」


 その後、すぐにやってきた救急車に彼女と一緒に乗った。

 輸血が終わった後、入院するか聞かれたが、彼女はそれを拒否して、俺の家まで着いてきた。

 つい先程、自殺しかけた彼女を一人にする事など出来ず、なし崩しで家にあげてしまう。

 

 彼女をリビングのソファに座らせて、玄関の血を掃除する。

 掃除を終えて部屋に入ると、彼女は無言で立っていた。


「・・・何であんな事を?」

「・・・」


 無視されるが、構わず近づく。


「超能力者じゃねえんだ。言われなきゃ分からん」


 そして、その細い肩を掴んで振り向かせる。

 すると、その瞳に涙が溢れていた。


「・・・して、どうして嘘をついたんですか?そんなに、私が嫌いですか?」

「・・・別に嘘は」

「私、分かるんです。人の嘘」


 嘘だろ、とは言えなかった。実際に俺は嘘をついていたから。ただ、それ以上に信じられなかった。

 そんなことで、目の前の少女は自殺しようとしたのか。


「・・・嫌いな訳じゃない」

 

 これは、嘘じゃない。アイドルになるような可愛い子で、俺に好意を向けてくる、嫌いになるわけが無い。

 だが、彼女はそれじゃ満足しなかった。


「でも、嘘をつくんですよね?」

「もう言わねえよ」

「信じられません」

「なら、どうすれば良い?」


 ドラマか、何かかと思うようなセリフの応酬。

 王道展開なら、「信じさせて」だろうか。現実逃避気味に考えていると、彼女は俺の予想を超える言葉をぶつけてきた。


「別に、何もしなくて良いです」

「あ?」


 すると、彼女はソファに倒れ込んだ。

 やはり、まだ貧血気味なのだろうか。反射的に彼女の後頭部に手を回しながら、少女を押し倒すようにして、一緒にソファに倒れる。


「大丈夫・・・か?」


 声をかけると、彼女は、貧血気味な青白い顔のまま、形のいい唇を緩く歪める。まるで、悪魔のように。


「大丈夫です」


 言いながら、彼女が机の上に立てておいた彼女自身のスマホを手に取り、操作する。

 同時に、ピコンと、録画を止める音。


 嫌な予感がした。あのスマホは、いつからあそこに置かれていた?


「おい、まさか」

「ふふ」


 そう言って彼女が見せてきたのは、俺が彼女を押し倒した瞬間のスクリーンショットだった。


 


 

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