十九 大人の女性 2
申し訳ありません。投稿が遅れました。
読んでいただけたら、嬉しいです。
俺が落ち着いたのを待ってから、礼華がようやく腕を解く。その体温から離れがたいと思う、思ってしまった、そんな俺自身を無理やり黙らせて顔を上げる。
「その傷・・・悪かった」
礼華の整った顔を汚す、口元の青あざ。白過ぎる肌のせいで余計に目立ってしまう。
「気にしなくて良いわ。あんな腰の入ってないビンタ、少し、口を切っただけよ。明日には傷一つないわ」
「・・・ありがとな」
彼女の言葉に、素直な感謝が口をついた。
そんな俺に礼華は満足そうに頷くと、再び俺の目の前に座る。
「さて、本題に戻ろうかしら」
「ああ・・・」
さっきの事を皮切りにして、ここ最近、慢性的に俺を悩ませてきた頭痛がだいぶ治まってきた。
呼吸も落ち着き、まだ喉はイガつくが、胸の奥を掻きむしりたくなるような苛立ちも収まっている。
「まず、知っていて欲しいのが、私に貴方の事を責める気は特に無いということと、私は貴方の味方であるということ。実を言うと、二回目に貴方と会った時から、貴方の状況はある程度把握していたの。だから、すぐに貴方を呼んだのよ」
「まあ、それよりも早く椿が来てしまったのだけど」と困ったように礼華は笑う。
成る程、彼女の言い分は分かった。
だが、まだ不明な点がある。
「味方なら、どうしてあの時秋音を?」
「あの時、あの子があそこにいたっていう情報が多くあったからよ」
「・・・マジか」
「安心なさい、誰かと一緒に居たとはバレてないわ。ただ、後で貴方が一人の時に問い詰められるより、私がいる段階でアリバイを作っておいた方が良かったでしょう?」
「それは・・・確かに」
変装していようが、バレる時はバレる。そんな当たり前の事を改めて突きつけられた。
それに、俺と秋音が一緒に居たのは事実だ。もし、真夜に問い詰められたらやばかった。
と、そこである事実に思い至る。
「なあ、そういえばあの時、どうして秋音は真夜に嘘を吐けたんだ?」
「簡単よ、嘘を言ってないだけ。だって、実際に秋音は本を買ったもの、あの付近の書店で」
「・・・」
俺が訳がわからないと、無言で示すと、礼華は楽しそうに続けた。
「真夜は嘘を見抜けるだけ。本当の事を言わない、嘘を真実で隠す、そういった事は見抜けないの」
言われて、納得する。どれも、心当たりがある。
「道理で、最初から知りたかったよ」
「いえ、あまり過信し過ぎるのも良くないわ。流石に嘘に無理があれば、彼女自身の直感とは別に、普通に見抜かれるから」
「・・・あー、善処するよ」
「ふふ」
そこまで話したところで一度、会話が途切れる。
礼華がコーヒーを飲んだのにつられて、俺も水滴の滴るグラスに手が伸びた。
だが、その直後に続いた彼女の言葉に、グラスを運ぶ手が止まる。
「今の状況、一瞬で解決する手がある。そう言ったら、貴方はどうする?」




