十二 明日の約束は他人の命がかかってる
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「もしかして、君は『Six』のファンなのかな?」
思わず、ずっこけそうになる。
だが、よく考えてみたら、普通、俺みたいな一般人がアイドルと同棲しているなどという考えには至らないだろう。
寧ろ、秋音や礼華の勘の良さが異常なのだ。
真夜も当たり前のように嘘を見抜くし、俺が最近会った連中はみんなおかしいような気がする。
「ああ、実はそうなんだ」
とはいえ、勘違いしてくれているなら好都合だ。
それを最大限に利用させてもらう。
『Six』のファンである事を知った彼女は、嬉しそうに笑う。
「そうか、嬉しいよ。解散してしまったが、『Six』は私の大切な古巣だ。解散したのに我儘かもしれないが、これからもファンでい続けてくれると嬉しい・・・ううん、とても嬉しいよ」
「・・・ああ、そうするよ」
眩しい笑顔とあまりの純粋さに心が痛む。
真夜からCDを受け取ったらちゃんと全ての曲を聞く事を心の中で約束する。
「ありがとう。ところで、誰が推しなのか聞いても?やっぱり、真夜かい?」
「そうだ・・・?」
答えようとして、気づく。
『Six』のメンバーは全員、本名を隠して活動してきた。だから、尋ねるのであれば本名ではなく、芸名でなければいけない。そうじゃなきゃ、俺には伝わらない筈だ。
目の前の女性と視線を合わせる。
その瞳は、確信を持って俺を疑っていた。
カマをかけてる、そう判断して返答する。
「・・・誰だ、そいつ?」
彼女は、しばらく俺を見つめてから「すまない」と笑って誤魔化す。
「もう『Six』として活動する事がないからね。思わず、本名で呼んでしまった。私達は本名不詳で活動しているから、この事は秘密にして貰えると助かる」
「分かった・・・もう行って良いか?」
「ああ、すまないね。引き止めてしまって」
彼女と別れ、その姿が見えなくなってからスマホを取り出す。
そして、秋音の名前を探してメールする。
内容は、『Six』のユリについて。
メールを送ると、恐ろしい程の速さで電話がかかって来た。
嫌々ながらも、電話に出る。
「・・・メールで十分だろ」
「ふふ、声が聞きたかったの。恋人だし、ね?・・・けど」
電話の相手は当然、秋音だ。
電話の向こうの少女は、不満気な声で続ける。
「他の子の事について聞かれるのは、少し面白くない、かも」
「はあ・・・こうして電話してるだけじゃ不満か?」
「うん」
どうすれば、機嫌を直して話してくれるのか。ここ最近で、何度目になるのかも分からない頭痛に苛まれながら、尋ねる。
「分かった。どうすれば教えてくれる?」
すると、彼女の返答は俺の言葉を予想していたかのように早かった。
「デート、しよ?今度は一ノ瀬君のエスコートで」
「・・・明日でどうだ?明日の午後からなら、予定が空いてる」
「ふふ、良いよ。楽しみにしてる、ね」
その言葉を最後に電話を切る。
また、真夜に隠し事が増えてしまうが、仕方がない。俺の事を疑うあの女性についての情報は少しでも欲しい。
と、その時、下に降りてきた本来の目的を思い出し、急いで自販機に向かおうとするが、丁度昼休みの終わりを告げるチャイムがなった。
空腹と喉の渇きに耐えながら授業を受けた後、帰る準備をしていると、クラス委員長の少女から声をかけられる。
「・・・あの、一ノ瀬さん・・・その、進路相談のプリントを・・・今日の一時間目に配られたんです」
自慢じゃないが、俺はクラスだと浮いている方だ。
鋭い目つきや授業態度が原因なのだろうが、ここまで怯えられると少し傷つく。
「ああ、ありがとな」
「は、はい・・・」
紙を受け取ると、彼女は逃げるように自分の席へ戻って行く。
「愛想良くしたらどうだ?」
と、揶揄うような空御。
「うるせえよ。お前はまだ授業あんのか?」
「ああ。けど、珠那もいるし、先に帰ってていいぜ?」
「言われずとも、そうするさ」
学校を出ると、俺を待っていたかのように校門の前に一人の少女が立っていた。
「・・・真夜」




